このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


*クリスマスプレゼント*

「ねえママ、サンタさん来るかなあ。」 「いい子にしてたらきっと来るわよ。」 「ほんとに!?」 「うん、だから真理、手術受けましょうね。」 「うん…。」 ここに不幸な一人の男がいた。 彼の名は坂本新平20歳。 背は175cmぐらいで、割とハンサム系。 「あー、何でこんな日にバイトしなきゃならねーんだよ。」 今夜はクリスマスイヴ。 夜の町はカップルでいっぱい。 新平はそんな中、サンタの格好をし、店の立て札を持って店の宣伝のバイトをしていた。 (腹立つなー、俺には何で彼女がいねーんだ。 くそっ、あんな奴に彼女がいるのに。) 新平は一組のカップルの男を見ながら思った。 その男は茶髪のロン毛で見るからに悪そう。 その男が新平のほうを向いた。 (おっ、なんだこのやろ、自慢してやがんのか!!) その男は鼻で笑って女の肩に手をやり、去っていった。 「あー、くそ、こんなバイトいやじゃー。」 新平はサンタの格好のまま近くの公園で座り込んでしまった。 公園ともなるとカップルでいっぱい。 新兵のイライラは高まるばかり。 「あ、サンタさんだ。」 女の子の声がした。 見ると、寒そうな格好をした女の子が立っていた。 「やっぱりサンタさん、来てくれたんだ。 真理、いい子にしてたもん。 だから来てくれたんだね。」 新平は自分が悪いことをしてるように思えてきた。 (俺はこの格好をして、バイトをしてるだけで、しかもサボってて、 サンタじゃないんだけどなあ) 「真理!!」 向こうから女の人の声がした。 「だめじゃないの!!病院から飛び出しちゃ。 そんな子にはサンタさん来ないわよ!!」 「いるもん、サンタさんここにいるもん。」 真理という女の子は新平を指差した。 (え?俺?) 「やだもん手術受けたくないもん。 手術受けなくてもサンタさんに会えたもん。」 真理は新平にしがみつき離れようとしない。 (はぁ…こりゃバイトサボったバツだな…) バタッ 「真理!!」 真理は倒れた。 (え?おいおい、まじかよ) 真理はすぐさま病院に運ばれた。 ここは病院。 新平もそこにいた。 サンタの格好をして…。 「どなたか知りませんけど、すみません。」 「いえいえ…」 といいながら実はすごく迷惑そうな新平。 「あの子は…真理の胃には腫瘍があり、すぐにでも手術して取り出さなければならないのです。」 「え!?胃を…!? それじゃ、何も食べられないじゃないですか?!」 今までだるそうにしていた新平の顔が険しくなった。 「いえ、大丈夫です。 お医者さんの話では胃がなくなっても腸が胃の役割をしてくれるそうです。」 「あー、なんだ…。」 新平はほっとした。 「ただ…早く取り出さないと、腫瘍が体中に増殖したら、もう助からないそうです。」 「…」 「早く手術したいんですけど、あの子が…。」 新平は少し考えて言った。 「わかりました。私が何とかしましょう。」 新平は人助けのためだと思い、真理を助ける手を考えました。 新平にとって生まれて初めての人助けでした。 翌日、新平はバイトの帰りにサンタの格好をして真理の病室に向かった。 真理は窓際で寝ていた。 病室には両親に外してもらって今真理だけだった。 「真理ちゃ〜ん。」 満面の笑顔で新平は真理のところに行った。 「あ、サンタさん!! また来てくれたんだ。」 真理はやつれた顔で精一杯の笑顔を見せた。 その顔を見た新平は絶対助けてやると心に決めた。 「サンタさん、なんで真理だけプレゼントくれないの? みんな昨日の晩にプレゼントもらったのに、真理のだけ…。」 真理は泣きそうになった。 「真理ちゃん、それはね真理ちゃんいい子だから真理ちゃんには手渡しで渡したいからだよ。」 「ほんとに?やったー、真理ももらえるんだー。」 「でもただじゃあげないよ。 一つお約束してくれたら、とびっきりのプレゼントあげるよー。」 「お約束?」 「そう、真理ちゃんが手術受けるって約束してくれたら、なんでも好きなものあげるよー。」 (予算の都合もあるけどねー…) 「う、うん…。」 「なんだ、いつも元気な真理ちゃんらしくないぞぉー。 手術なんてあっという間なんだから、恐くなんかなーい。」 新平は普段使ったことのない言葉をいっぱい使って言った。 「違うの…手術は…恐いけど、平気なの。」 「え…?」 「恐いのはその後なの。 もし手術が失敗したらって…もしもうみんなに会えなくなったらって…。 それを考えたら恐いの。 すぐに死ぬぐらいなら、苦しいけどこのままのほうがいいって…」 真理は俯いて言った。 「真理ちゃん…」 新平はこんな時どうしたらいいかわからなくて、ただ呆然と立っていた。 「でも、真理手術受ける!! だって今はサンタさんがついてるもん。 絶対手術成功するよね。」 真理は目に涙を込めながら、笑顔で新平のほうを向いて言った。 新平はその顔を見て堪らず真理を抱きしめた。 「サンタさん…?」 「絶対…絶対成功するさ。」 晴れた日の夜だった。 雲一つなく、空いっぱいに星が広がっていた。 手術の日。 真理は手術室に向かい、新平と真理の両親は結果を待っていた。 その時間は今までにない長さだった。 やがて手術室のランプが消えた。 そして、中から医師が出てきた。 「真理は…真理は…!?」 両親は少し動揺しながら言った。 医師はマスクを取り、口を開けた。 「残念ですが… やはり、腫瘍が肺と肝臓に侵食していました。 もって一週間でしょう…。 もう私たちの力では…。」 医師は俯いて言った。 両親は泣き叫んだ。 新平も悔しくて涙が止まらなかった。 もうすこし早く真理に会っていれば… 「真理ちゃーん、ほうら約束のプレゼントだぁー。」 昨日何もなかったかのような明るさで新平は言った。 「わーい。何だろう、ドキドキ。」 真理は新平の持ってきた袋を開けた。 「わー、くまさんのぬいぐるみだー。 ありがとう、これ欲しかったんだ。」 真理は熊のぬいぐるみを抱きしめて言った。 「言っただろう、好きなものを買ってあげるって。」 (おかげで来月苦しくなったけどねー、グス) 「なんか言った?サンタさん。」 「いやいや別に。」 新平は時計を見た。 (うわやべっ、もうこんな時間) 「じゃあね、真理ちゃーん。」 新平は両親にペコリと挨拶をして部屋から出ようとしたとき、 「ありがとね…サンタさん…。」 真理が少し涙声で言った。 「ほんとは…知ってるんだ…手術が成功しなかったこと… 自分の体だもん…わかるよ… でも…真理うれしかった… だってサンタさんと会えたんだもん… ありがとう…サンタのお兄ちゃん…」 「真理…。」 両親は涙を必死で堪えながら真理のほうを向いた。 新平は真理に後ろを見せながら手を振って無言で部屋を出た。 新平は部屋を出た後、悔しさと自分の情けなさで泣いて、壁を殴っていた。 5日後、真理は帰らぬ人となった。 棺桶の中に入っている真理の顔は笑っていた… 数ヶ月後 新平のバイト先のレジにて。 「ふー、やっと外回りじゃなくなってよかったぜ。 あれはもうだりーからな。」 そこへ一人の客が来た。 「いらっしゃいま…」 新平は目を疑った。 「あのこれ下さい。」 「真理…」 そう、その客は真理そっくりだった。 「え?」 「あ、すみません。これですね。600円になります。ありがとうございました。」 (ひゃー、そっくりだ。こんなことってあるんだなー) 女の人は品物を買い、店を出た。 その時、ボソッと言った言葉に新平は気づかなかった。 「ありがとう…サンタさん…」
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