このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 



 昼間の暑さが嘘のように涼しくなり、空も暗くなり始めた。
 虫の声と風の音に秋の気配を感じ始める頃。
 どこからともなく聞こえてくる祭り囃子に秋祭りだと気づかされる。
 隣を歩く人影を見るとどことなく不機嫌だ。
 それもそのはず。父とも言える人をだしにして無理やり会社から連れ出したのだから。
「ねえ、兄さん。こうして歩いていると昔を思い出さない?」
「思い出さない」
そっけない即答が返ってきた。


 両親が離婚する前のまだ自分が本当に幼かった頃。
 今のように2人で浴衣を着せてもらってお祭りに行ったことがあった。
 兄と2人で暗くなってから出かけるのは初めてで、お祭り特有の興奮と相まってかなり興奮してはしゃぎながら歩いた。
 迷子にならないようにと握られた手が嬉しくて、くすぐったくて。
 兄に「きんぎょー、きんぎょー」と言うと金魚すくいの屋台に連れて行ってくれた。
 金魚を上手く捕まえられない自分の代わりに兄が金魚を捕まえてくれた。
 その金魚を片手に持ち、片手に綿飴の大きな袋を持ちご機嫌で歩き、ふと気づくと兄が傍からいなくなっていた。
 周りには自分よりもずっと背の高い人の壁。
 360度ぐるりと見回しても安心させてくれる優しい手はどこにもなくて。
 不安で不安で、泣くこともできないくらい怖くて、無我夢中で走り回って。
 気づくと兄に後ろから手を引かれていて、安堵のあまり大泣きをした。


「もう、迷子になるなよ」
 突然、思い出したようにぼそりと隣から声をかけられ、我に返った。
「なぁんだ。ちゃんと覚えていたんだね。」
 兄がそんな過去のことを覚えてたと言うだけでなんだかとても嬉しくなる。
「田所先生に綿飴買ってくるよ。」
 ちょっと気恥ずかしいらしく、この後合流する田所先生が好きであろう綿飴を買いに行ってしまう。
(まだ、大丈夫だ)
 そう思える。この兄には危ういところがある。まるで彼の父親のように、どこか別の世界を見て、そちらに行ってしまいそうな危うさがある。
 けれど、まだ自分と一緒にこうして外出してくれている限り、過去のことを思い出してくれる限り、なによりも彼にとっての父親である田所先生がいる限り、兄はきっとこちらの世界に留まってくれるはず。それがいつまで続くのかは分からないけれど。祭りのような一瞬の夢ではなく、できるだけ長く続けばよい。できるだけ長く続いて欲しい。


葉山と、ある意味ネタバレな(笑)吾郎ちゃん

All rights reserved. Copyright (C)2001.かも子&碓氷 静


6666hit相互リクでかも子さんより頂きました。葉山兄弟秋祭りSS。
最初、碓氷が「浴衣姿の葉山兄弟(吾郎ちゃんは女物浴衣でとのかも子さんの強い希望(笑))」というリクを受けまして、
「じゃあそれでSS書いてねv」とリクを返したことからSSと挿し絵、というかたちに落ちつきました。
なんだかんだで描くのが遅くなったため、夏祭りのつもりが秋祭りに(笑)
この兄弟ってなんだかんだ言って仲良しさんですよね〜vvv

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