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Hot Chocolate



 三上との関係が甘いものでないことはお互い承知の上だ。だからこそ、今日という日の誘いにも何か特別の意味がある筈で。チョコレートを渡すためだけに誘うような、そんな可愛らしい性格でも年齢でもない女だ。洪は北風にコートを靡かせ、下町の猥雑さを残した路地裏へ入る。その一角に立つホテルに身を滑り込ませ、予め告げられていた部屋のキーを受取り中へ入った。
 薄暗い部屋の中、彼女は既にベッドの中で煙草を燻らしている。
「やあ、久しぶり」
「本当に。もう忘れてるかと思ったわ」
「まさか。忘れるわけないでしょ」
 洪はにこやかに笑うと手早く服を脱ぎ捨てバスルームのコックを捻った。
 熱いシャワーを浴びながら洪はドレッサーの上に置かれたリボンのかけられた箱の事を考えた。大きさと日付を考えればおそらくそれはチョコレートに間違いはないだろうが、三上の含みのある誘いを考えれば中身はチョコだけではないだろうと想像がつき思わず笑みがこぼれる。
 回ってきそうないくつかの情報を想像して鼻歌交じりにバスルームを出た。
「何よ、ムードないわねえ」
「ムードなんて気にする性質じゃないくせに」
「そうね。その机の上の包み、あげるわ」
「チョコ?」
 タオルを巻いたまま、包みを手に取り、リボンをほどいた。頑丈な木枠に入った高級チョコだ。ただ、チョコレートの厚さよりも箱の方が随分と分厚い。指先で底板を外すと中にはフロッピーディスクが仕舞い込まれていた。
「…これ、例の名簿?」
「そ。フロッピーに入る分だけだけどね。Rだったら入ったかもしれないけど」
 三上はふふっ、と笑うとベッドの中から洪を手招いた。
「で、僕には代わりに何を望んでんの?」
 ベッドの淵に腰掛けて、洪は甘い言葉を囁くように三上の耳元に唇を寄せる。
「この間の借りを返したと思ってくれればいいわ。だからディスク。Rに入るくらいの部分だったら、この間以上に美味しい話を持ってきてよ。…そうね、今日のセックスの分はその箱の上の分?」
「箱の上の部分って…そんな甘いもんじゃないんでしょ?三上サンにとっては」
「そうねえ。甘いのも悪くないけどね。そんなんで満足しようと思ってないし」
 三上のはっきりした物言いに洪はくすりと笑うとメインの照明を落とした。

 1時間ほどの甘さの欠片も無い夜を過ごして洪はさっぱりとした表情で機械的に帰り支度を始めた。
「今夜はハシゴかしら?」
 三上がベッドの中から悪戯っぽく問う。
「いいや、真っ直ぐ帰って自宅で寝るだけだよ」
 一人で寝るとは言わないけど。
 心の中で呟いて洪は手にした箱を鞄にしまい込み、ホテルの部屋を後にした。


 部屋に戻るとパクが来ていた。寒い冬に家の中に先に人がいてくれるのは部屋の中が暖まってありがたい。
 ふと玄関先に置かれた紙袋が目に入った。色とりどりの包み紙に包まれた小さな箱がいくつか。
「ねえ、パク、この紙袋の中身ってチョコ?」
 テレビをつけっぱなしにしたまま、ゴロリと横になっているパクに声をかけると、興味なさそうな「ああ」という低い答えが返ってきただけだった。
「開けてみないの?」
「どうせ義理チョコだろ。別に興味ない」
 洪は紙袋を手に取るとパクの隣に座った。一つづつ包みを開けてみる。実際パクが「義理」だというように、そこそこ見栄えがする程度のチョコレートが詰まっている。
「ああ、これなんか、美味しそうだよ?」
 洪は最後に開けた生チョコを手のひらに乗せ、パクに見せた。
「お前が好きなら食べていい」
「そりゃー、好きだけどさ。……パクは僕に用意してくれたりしないの?」
 洪の言葉にパクが驚いたように顔を上げた。
「何で俺がチョコレートを用意するんだ?……それに、お前だって用意してないだろう?」
 洪は含み笑いを洩らすと、パクの太い首に抱きつき、囁く。
「仕込みはばっちりさ」
「何がだ?」
「ホットチョコレートをあげるよ」
 洪はそう告げると、首に回していた手をひらいて首筋に擦り付ける。甘い香りが広がった。
 さして困った様子も見せないパクの首筋を舐めながら更に数個の生チョコを手に取り、服の下からパクの筋肉質の肌に擦り付けていく。塗り付けた順に唇を這わせながら洪はパクの服を剥いでいった。
「猫のようだよな」
「そ?」
 そう言われて洪はわざとらしくぺろりと舌先で唇を舐めた。
「どう?気分は?」
 問われてパクは苦笑しながら洪の身体を引き寄せる。洪のシャツに焦茶色の跡がつく。
「…俺がチョコレート貰ったっていうより、無理矢理食われたっぽいよな…」
「食い返せば?」
「そうだな…それを望んでるようだし?」
「甘い香りに包まれるのも悪くないだろ?今日はチョコレートの日なんだから」
 洪はくすりと笑うとパクの背中に腕を回した。



All rights reserved. Copyright (C)2002.2.14 翔子&静


9999hit相互リクで翔子さんから頂きましたv
お互い「VDネタで」という縛りだけで書いたのですが、さすが甘々師匠…(><)!!
こんなにもラブラブなSSをありがとうございました〜vvv
……また相互キリ踏んでください(ぼそり)v

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