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【あ行】
□朝香二尉シリーズ『UNKNOWN』/『未完成』/古処誠二/講談社ノベルス
古処氏は『UNKNOWN』でメフィスト賞を受賞、同作品がデビュー作である。
自衛隊を舞台にしたミステリィ。といえども、ひと死にが出るわけではない。
『UNKNOWN』では完全な密室である基地内部に盗聴器が仕掛けられ、『未完成』では衆人環視のなか小銃が忽然と消える。
この謎を追うのが防衛部調査班から派遣されてきた朝香二尉、そして彼をサポートする本シリーズの語り役でもある野上三曹だ。この野上三曹のとぼけた語り口調がまた味があってよろしいのです(笑)
「使用されるべきではない武力を維持する」という職務は到達感や達成感がなく、やりがいを見いだすことが難しい。どちらの作品も密室ものミステリィの様相を見せながら、痛烈に「自衛隊」という組織、自衛隊に限らずすべての組織に見られる理不尽な矛盾点を浮き彫りにしている。問題が発生しないと末端の現状を知り得ない、知っても腰をあげない組織。どんな組織に属していても感じる憤りと焦燥なのだろうが、それが国防という極めて重要な仕事を担う自衛隊だからこそ、深刻で危機感も強い。
そういった危機感を持つことのできる自衛官は本来なら「良い」自衛官なのだろうが、『未完成』の動機を知ると、なんというかやるせない、やりきれない気分になるのだ。将来、自衛隊という組織を運営管理していく立場にある朝香二尉にこそ痛い事件だったのではないだろうか。
……と、真面目なレビューはここまで(笑)。上記にあるとおり、このシリーズの魅力・その1は野上三曹の軽快で笑いを誘う語り口調。偉い人を差して「雲上人」というが、これが野上三曹にかかると基地指令の神谷一佐は「成層圏に達してしまわれた人」、航空幕僚長(空将)は成層圏を越え「昇天してしまったかのような人物」となる(笑)このユーモアセンス、かなりツボです。はっきりいってこのシリーズ、電車のなかなどでは読めません。
その2は探偵役である朝香二尉の人となりである。防衛大学出の27歳。柴犬のようなとぼけた瞳の男前、物腰は柔らかく爽やかな笑顔は彼の武器でもある。しかもそこはかとなく漂う孤独の香り——とくれば、活字中毒のお嬢さんがたのハートをがっちりキャッチして然り、なのだ。 (01.6.21UP)
■あふれそうなプール 全6巻/石原理/ビブロス・ビーボーイコミックス
対人恐怖症のケがある入谷と、ちょっとアブない目つきをした木津の学園BL。
ふたりが惹かれ合っていく様、入谷が徐々に自分を取り戻して変わっていく様、10代後半という微妙な年齢のみが持つ危うい心身のバランスが生む焦燥感。ただ甘いだけじゃないBL。
心を通じ合わせた相手とのスタンスの置き方に悩む入谷と木津の姿は、両想い=ハッピーエンドという安易なストーリィとは無縁だ。相手の懐に、どこまで踏み込めるか。相手を、どこまで踏み込ませることができるのか。男女だとか恋愛だとかだけではなく、人間関係すべてにおける永遠の悩みがそこにある。ふたりが決めた互いの距離をぜひ、見届けて欲しい。
96年から01年まで連載されていた作品だけに絵柄のばらつきが多少気にはなるが、ストイックで妙な色気のある雰囲気は○。個人的には5巻辺りの絵柄がいちばん色っぽく感じます。しかし、泣き黒子の美人さん受けキャラってソソりますねぇ(腐)←変態。(01.7.22UP)
□『天翔けるバカ flying fools』 /『天翔けるバカ We Are The Champions』/須賀しのぶ/集英社コバルト文庫
2冊完結。密かに須賀作品ではこれがいちばん好きだと思う碓氷@管理人です。
コンセプトが「スポ根少年漫画」(笑)というだけあって、筋金入りの飛行機バカが勢揃い。
須賀さんはコバルトの別シリーズ『ブルー・ブラッド』『帝国の娘』に見られるように、謀略モノを書かせても上手い。が、やはり真髄はミリタリーだと思うのだ(笑)第1次世界大戦という、日本人にはマニアックな舞台、そして主人公たちが惚れ込んでいる戦闘機が魅力的に描かれているのもポイントが高い。
ただのスポ根に終始せず、戦争における人間の醜さも描こうとする姿勢には好感が持てる。
そして、笑いを忘れないところが須賀作品の魅力のひとつだ。ストレートな単純バカの主人公・リックと屈折した相方・ロード。キャラの対比のさせ方が上手い。脇を固めるキャラもひと癖もふた癖もあって魅力的なヤツばかりだ。みんなが揃ってこそいい味を出している…という感じがすごく好きだ。
ドイツ軍の実在人物・ゲーリングやリヒトホーフェン兄弟も登場するが、多分あんな風に考えながら戦いに挑んだのだろう、という説得力もある。
歴史の教科書では1、2ページで駆け抜けてしまう第1次世界大戦を、違う角度から見直してみたくなるシリーズ。
□『偽りのピエタ』/『幻の聖母子像』/『追憶のマリア』/前田栄/小学館パレット文庫
3冊完結。これを安易にBLと分類してもいいのだろうか…違う気がする。
ヨーロッパを舞台にした、贋作もの。それでいて、からっぽの男のなかに、かけがえのない思いが詰まっていく運命の物語でもある。
登場キャラも皆、複雑で3冊などとはいわず、もっと枚数を使って書き込んでも面白い作品になったと思う。
番外とかサイドストーリーとかがあったら迷わず手に取るんだけどな……
主人公・幸司の持つ能力は、一度でも絵を描こうと思った人間ならその残酷さがわかるはずだ。
天才とは1%の才能と99%の努力だと昔から言うが、どちらかというと天才とは己の才能が開く方向を見つけた人間を差すのだと思う。そして、それが好きなことである人は希で、だからこそ天才はごくわずかしか存在しないのだ、と。
□魚住君シリーズ『夏の塩』/『プラスチックとふたつのキス』/『メッセージ』/『過敏症』榎田尤利/クリスタル文庫
顔だけはやたらいいけど不幸自慢大会なるものがあればぶっちぎりで優勝できる男・魚住と、彼の不幸をまったく気にかけないある意味大物な男・久留米のいわゆるボーイズ・ラブ。
なのだが。笑みを誘うとぼけた語り口調、まったくもって鈍い男たち、ふたりを取り巻くひと癖もふた癖もあるひとたち…とBLであることとは関係なしに、この作品には不思議な魅力で惹きつけられる。なにせ、赤貧で名高い(笑)立ち読みの女王・碓氷@管理人が立ち読みで制覇した末に購入したという逸品なのだ。
この事実だけでもいかに「手元に置いておきたい」作品であるかが伺えると思う。
BLはちょっと…という方にもおススメしたい。碓氷@管理人もこの作品でBL作品というものに対する認識が変わった。魚住も久留米も、本来はヘテロの性癖を持つ男だ。劇的、というのではないけれど魂が求め合う延長上に躰が求め合う…というのを強く感じさせる。BLとは○○に×××をツッコむだけな話しだと思っているアナタ!ぜひこのシリーズを読むべし。
『メッセージ』でひとつの山場を迎えたこのシリーズ。今後も彼らの歩む道を見守っていきたい。
……それにしてもこのシリーズ、出てくる食べ物がやたらと美味そうなんだよね…(笑)
さて、シリーズ四冊目『過敏症』です。ライバル出現で久留米ピンチ(いや、この場合ピンチなのは魚住の貞操か…?)!取られかけてその大事さを再認識するというのはありがちなパターンですが、久留米のいっそ潔いほどのストレートさの前には爽快感すら覚えます。以前から久留米は吹っ切れたらスゴイんじゃないかと(…なにがだ(笑))予想していた通りの展開に思わずニヤリ☆
上記で述べた通り、良い意味で生活臭い(笑)このシリーズ。大事な局面には食べ物がからんできます。今回のキィ・ワードならぬキィ・フードはスキヤキです。
それにしても人間なかなか久留米みたいに鷹揚…というかあんな風に良い方向に無頓着にはなれないものですよね。彼のような許容量の広い人間には憧れます。そのストレートさにも。そして、簡単に未来を約束するような台詞を口にしない誠実さ…というか正直さにも。シリーズ進む毎に久留米の株が鰻登り(当社比)です。 (01.6.21UP)
□『ST 警視庁科学特捜班』/『毒物殺人』/『黒いモスクワ』/今野敏/講談社ノベルス
刑事もの…とくくってしまうにはあまりに個性的なキャラが勢揃いなこのシリーズ。
テストケースとして設立された科学特捜班・通称ST。簡単に言えば彼らは現場にも出る科捜研というところだろうか。
しかし、初っぱなからSTの存続が危ういのだ(笑)なにか手柄をたてないと解散させられてしまう…しかし、焦るのはSTをまとめる(はずの)キャリア組警部・百合根、通称キャップだけである(笑)ほかのメンバは超マイペース。
この苦労性の若きエリートを筆頭に、一匹狼志願なのにもてまくりのカリスマ監察医・赤城、類い希な美貌を持つ逆潔癖性の心理学者・青山、毒物のエキスパートで格闘家、別名戦うガスクロマトグラフィ・黒崎、ダイナマイトバディに地獄耳の音響学者・結城、警視庁の職員と僧侶(!)という二足の草鞋を履く科学者の山吹…と、みなそれぞれに癖が強いキャラばかりだ。
てんでばらばら、やりたい放題だと思えば、絶妙のチームワークを見せたりと掛け合いも楽しい。そしてなによりも彼らが優秀であるのが、読んでいて気持ちのいいこと!
このシリーズは総じて、トリックや犯人当ては比較的簡単になっている。たぶん、複雑な仕掛けに枚数を裂くと6人もいる主要人物の描写ができなくなるからだろう。でも一度でいいから、このシリーズでどかーんと大きな事件を解決するところが見てみたい。
しかし某所で某方が仰っていた、STの別名は「姫とその騎士団」てのには思わず座布団一枚!って言いそうになりましたな(爆)
□黄金を抱いて飛べ/高村薫/新潮文庫
■俺は悪くない 全2巻/山田ユギ/芳文社花音コミックス
いわゆるBLコミックである(笑)。山田ユギさんの漫画は適度な笑いがちりばめられており、かつ女の子キャラがいい味を出しているところがツボである。
映画青年たちの青春を描いた本作は、BLというよりも青春群像…といった雰囲気だ。親の敷いたレールから外れてみたはいいが、目標が見つからず脱力した生活を送る大学生・梶。映画研究会の連中と出会ったことから学園生活が加速し始める。
8mm映画を観るようなノスタルジックな学生時代の青春、夢を追うことに疲れて挫折する青年期。人生のほろ苦さを描きつつ、笑いも忘れずエロも忘れない(笑)この微妙なバランスの取り方がセンスというやつなんだと痛烈に感じます。
絵柄はざっくりしているのに可愛い。男の躰もヘンに細くないし(笑)。
それにしてもユギさんは眼鏡キャラが好きなんでしょうね〜。受け攻め問わず、眼鏡キャラ頻度が高いように思えるのですが(笑) (9/23UP)
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