このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

Seeking For Post Offices

−郵便局を捜し求めて

  プロローグ

 その日は、今年一番の寒さを記録した日だった。寒さと眠さに打ちひしがれながら、ラジオの天気予報を耳にした。「……午後にはところにより一時雨でしょう。」彼は悩んだ。が、決行することにした。7時40分、出かける身支度をほぼ整え、彼は自転車で大学に向かった。

 掲示室で彼の予定は大幅に変更させられた。3限の授業が休講となったのだ。そのとき彼の脳裏に思い浮かんだのは、(1時間半から4時間に増えた。)ということだった。S28で地図を広げ、郵便局の位置を細かくチェックし、ルートを考えた。こうして無謀なまでの計画が遂行されようとしていた。

  自転車に乗って

 西後の授業が終わり、自転車を走らせる。東へ東へと。上蓬莱橋をわたり、目の前に登り坂が迫ってくる。ひとこぎ、ひとこぎ着実に登りながら右側に目をやると、深い緑の山がある。そこからバスが降りてくる。バスの動きに目をやると、目の前の道へとつながる。(あそこまでかぁ)彼は、目の前に突きつけられた現実を意識する。が、彼に与えられたのは確実に登り続けなくてはならない現実である。地図で確かめる。(とりあえずしばらくまっすぐかぁ)坂を駆け下り、走り続ける。ここらへんかなと思う曲がり角で折れてみる。立子山中学校があり、しばらく走ってみる。しだいに眼前に広がったのは、畑である。どんなに地図で確かめてもどこだかわからない。半ばやけになる。まっすぐ走らせる。ふと右側で“ゆうパック”ののぼりが目に入る。(へぇ、こんなところに郵便局なんてあるんだ。)おいおい。彼は、自己の目的を半ば忘れて、駆け抜けるところであった。そうして、立子山郵便局に到着した。

 立子山郵便局を出て、さらに東へと走る。飯野町を横切り、川俣町へ入って、国道114号にたどりつく。(これでなんとか道に迷らんだろう。)そのまま走らせて、伊達福田川俣とこなし、飯野郵便局に向けて西転する。114号から離れ、ごくごくゆるやかな下り坂が続く。飯野町役場の辺りにつき、飯野郵便局を探し、到着した。このとき、県道から離れてしまい、後からとんでもないことになってしまった……。

 問題のキーポイントは、飯野中学校であった。なぜ問題になるのか。中学校の場所がわかっても、方位がわからないのである。最初、まぁこっちかなと走り出した方向が怪しくなり、引き返したが、次にいった方向も間違っていたのだ。しかし2度目はかなり来てしまったし、とりあえずなんとかなりそうな道を地図で見つけたのでそのまま走らせることとする。曲がるべきところだろうと思うところで折れてみる。何もわからない。できることといえば、まっすぐ走らせることである。なぜまっすぐなのか。それは多分、変に曲がって同じ道に戻ってきたときの絶望感がいやなのだろう。かなり走らせていて、自分がどこを走っているのかわからないとき、目の前にバス停が現れる。“通草”と書いてある。地図で確かめると、来ようとしていた県道らしい。やっとわかるところに来たのだ。その道をたどっていくと下川崎郵便局に巡り合えた。その後は、安達町に入り、上川崎安達と行き、帰途につきながら渋川郵便局に立ち寄った。

  エピローグ

 彼は自転車に乗るのが好きだ。

 だから、できるだけ近い郵便局は自転車で行こうとする。そして、今回も自転車ででかけてきた。そして、またいつの日かも行くだろう。


『PLATFORM』vol.9 (1994.11.5発行)所蔵 文責:高田忠


旅行記コレクションへ戻る

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください