このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
建設進む新幹線
現在、鋭意建設が進められている九州新幹線。 2003年度中に開業を目指して、西鹿児島‐新八代で工事が行なわれています。
建設の経緯
全国新幹線鉄道整備法で九州新幹線が盛り込まれたのが73年のこと。 2年後の75年には山陽新幹線が博多まで開通します。その後、石油危機などで 建設凍結となりましたが、82年に凍結解除となりました。その後、 新幹線規格の線路に狭軌鉄道を敷いて走らせるミニ新幹線方式が 85年に提案され、在来線との直通運転をも模索し始めます。当時有力だったのは、九州(八代‐西鹿児島)のほか、東北新幹線盛岡‐青森、北陸 (高崎‐長野、高岡‐金沢、糸魚川‐魚津)でした。九州新幹線が 南から、というのは奇異ですがこれは鹿児島県側から”北からくると 東北新幹線のように、いつ建設がストップするか分からない”という危惧、 そしてこの区間は海岸線沿いで路線も悪く(八代‐西鹿児島:当時最高速度95km/h、90年より110km/h) 新線を敷くことで時間短縮効果が高いということがありました。 おそらく田中角栄の腹心で大隅を地盤とする故二階堂進議員が動いたものと推測されます。
しかし、その3つを同時進行で建設するととてつもない予算が必要です。 そこで予算の配分をめぐって優先順位がつけられました。 ところが、昭和63年に建設順位の素案を作ってみたところ、九州新幹線は 上記5区間のうち4位、実質は5位に近いものでした(最上位は現在の 長野行き新幹線区間)。しかし、自民党で鹿児島4区選出の 小里貞利議員が、整備新幹線の取り扱いをめぐる文書の 中での一文、”難工事部分は早期に着工”の文言に注目。 実質的に北陸新幹線との同時着工を果たし、89年8月8日、 鹿児島県薩摩郡東郷町において、第三紫尾山トンネル(全長約10キロ)の 安全祈願祭が行なわれ、工事が始まりました。 そして、九州新幹線は平成2(1990)年12月24日政府・与党申し合わせに 基づき八代‐西鹿児島について91年度に着工すべく合意がなされました。 このときは、博多から在来線区間を走らせ、八代から新路線を 200km/hで走らせるスーパー特急方式が採用されています。
なお、当然、並行在来線のJRからの経営分離もセットとなっていましたが、 JR九州では北九州地区の一部を除き、全体的に運営が苦しいことから 全路線ではなく、一部区間のみの分離にとどめることに決定し、 八代以南で3分の2以上の赤字をだしていた(普通列車のみの輸送密度1247人:2000年度) 八代‐川内のみを経営分離することで 対応しました。
その後、98年に船小屋‐新八代においてもスーパー特急方式で 優先着工が決定されています。このとき、八代から新八代に起点が 変更されており、スーパー特急と在来線のアプローチ線が作られることに なりました。
さらに99年12月にフル規格への格上げが決定しました。JR総研が アメリカで進めていたフリーゲージトレインにより、博多‐新八代‐西鹿児島の 直通運転も視野に入れて検討がされたようです。しかし、まだ 実用化には時間がかかることが考えられ、代案としてアプローチ線として 建設された部分を介して在来線車両を乗り入れさせ、ホームタッチで 新幹線と在来線との乗換えをさせようということになっているようです (まだ、アプローチ線は2002年9月現在路盤工事の最中で、姿を見せていません)。なお、新八代‐西鹿児島は127キロで、特急停車駅の阿久根駅を通らないこともあり、 在来線の八代‐西鹿児島の営業キロ163キロ余よりも 30キロ以上短縮となっております。この区間をノンストップ列車は34分で結び、 各駅に停まるタイプと交互に1時間2本の列車を運行の予定。 博多‐西鹿児島の所要時間は、現在の3時間50分から2時間20分程度に短縮され、 全線開通の暁には同区間を64分で走行します。
並行在来線問題
90年に着工が決まると並行在来線に関しての協議が始まりました。特急停車駅から転落し、 高速交通機関を持たなくなる 阿久根市が”県勢発展にやむなし”と苦渋の選択をするなど紆余曲折がありましたが、91年には、 県が中心となって設立する第三セクター鉄道でレールを残す旨、鹿児島県側は最終確認をしています。並行在来線は、比較的距離が短く八代、水俣の都市がある熊本県側(2市3町)と、距離が長く 人口密度の低い区間もある鹿児島県側(11市町)に分かれて各県で協議会が開かれました。そして、 01年春、熊本市に熊本県・鹿児島県並行在来線対策合同事務所ができまして収支予測が立てられました。 その際、電化・非電化そして熊本・鹿児島両県が単独、もしくは合同で会社を 作った場合の予測をたてた結果、一番安上がりなのが、”両県合同非電化”であり、”電化で 別々”の場合の6分の1となることが予想されました。
そして、新幹線の建設が進行するに従い、準備もすすめられましたが、鹿児島県側は新幹線が並行するが 経営分離はなされない川内‐鹿児島(つまり串木野市以東2市4町)の沿線各市町の 対応が注目されていました。ところが伊集院町議会が不参加を決議したのを皮切りに、 全市町村が不参加を決定し、01年4月にひらかれた県並行在来線鉄道対策協議会の席上、 鹿児島県知事が鹿児島市長に電話で参加を要請するなどの一幕もありました。
なお、出資比率などは、 並行在来線では先発のしなの鉄道を 参考に進め、当初は県75%、鹿児島から北の各沿線市町が25%を人口比率に応じて (ただし、川内より東の各市町は比率に0.5を乗じた割合)負担することになっていました。 しかし、鹿児島市をはじめとする市町の不参加のため、財政が圧迫される (0.5が乗じてあるとはいえ、人口55万で突出している鹿児島市の不参加は大きな打撃であった)ことが 懸念されたため、県の出資比率が85%に引き上げられて現在に至っています。
当初、県の予測では開業10年間の収支予測が年間2億5000万円の赤字となっていましたが、今年春になって一転、 年間1億円の黒字となりました。しかし、電化維持設備のJR貨物などからの収入に関しムシが良すぎること、 (電線設備を3セクがもち、使用料を取る) 、運賃値上げに対して他の交通機関への乗客の転移が計算されていないなどの不備もあり、 これがかえって沿線市町の不信感を招くことにもなりました。 そして、運賃値上げ分(九州内の他の3セクにあわせ、運賃を2倍に値上げ)の差額の 補助をめぐって川内市が一時期、離脱の動きを示すなど混乱が生じています (競合する南国バスが利用客の減少から運行を取りやめるなど、需要が本当にあるのか? という疑問も噴出しています)。
なお、東北のIGRいわて銀河鉄道、青い森鉄道2社に対して 行なわれた貨物列車の線路使用料などは、2000年12月、鉄道建設公団が新幹線建設財源として JRから受け取る貸付料の一部を充てて調整金として貨物に交付、これを支払いに充てることに なっています。これが九州新幹線の並行在来線にも適用されています。 なお、熊本県との合同での会社設立は2002年10月を予定。本社は八代市、車両基地は 出水。ディーゼルカーでの運行ですが、電化設備を残し貨物列車を走らせます。 その維持費は国の補助金とJR貨物からの使用料でまかなうことになっています。 運転区間は、南北端ともにJRに乗り入れ、新八代から隈之城までです。
このように1本の新幹線がとおるにも色々な経緯があるわけですが、他社を見てみます。
会社名 区間と距離 運転備考 輸送密度 資本金 内訳 車両 運賃値上げ率 しなの鉄道 軽井沢‐篠ノ井65.1km 長野乗入れ 8377 23億円 長野県75%、沿線5市5町15%、民間10% JRより譲受。近く更新。営団の中古を導入予定 当初据置。のち10%程度値上げ IGRいわて銀河鉄道 盛岡‐目時82km 青い森鉄道と共通運用 3417 17億円 岩手県50%、沿線6市町村と非沿線20市町村計35%、民間15% JR譲受4編成。自前で3編成増備(701系) 平均1.58倍 青い森鉄道 目時‐八戸26km IGRと相互直通 1919 6億円 県50%八戸以南5市町村約17%、八戸以北青森までが9市町村約8%民間25% 1本増備、1本JR譲受 平均1.49倍 なお、青い森鉄道は責任の所在を明確にする、やりがいをもって 仕事をしてもらう、などのため、国内では初めて上下分離方式を採用。インフラは県がもち、 運行会社は車両を走らせるという身軽さです。
このように多様なやり方が目に付きますが、ひとつ気付くのはIGRいわて銀河鉄道に対し、 非沿線自治体からの出資が目立つ、ことです。これは盛岡以南の新幹線沿線自治体も 出資しているためです。全額国費で建設され、経営分離もなかった盛岡以南の沿線自治体に 対して、盛岡以北へも列車を利用し恩恵にあずかる市町村に県が出資を呼びかけたところが 大きいといわれています。三陸鉄道に対しても同じような応分の負担を求めたことから、 鉄道沿線の岩手県内の市町村はほぼ、三陸かIGRいわて銀河鉄道のいづれかに出資している状況です。 一方、青い森鉄道は10年もすると新青森まで新幹線が延長されるため、将来経営分離される 自治体が経営に加わってノウハウを学ぶとともに今の段階から青森延伸後をにらんで 経営改善への話し合いをていく、という考え方に立っているようです。
転換から5年が経過し、経営を立て直すためにトレインサポータ制度を取り入れるなど 様々なアイディアを出す必要に迫られているしなの鉄道、乗客誘致のために沿線自治体などと 組んだ町おこしを含み、対策協議をしっかりと進めている青い森鉄道や運営上の様々な 問題を課題としてウェブ上に書き出し、向上を求めているIGRいわて銀河鉄道などを 見ていると、鹿児島本線の並行在来線はずいぶんとのんびりとしている印象を受けます。 もちろん、会社が設立されれば急ピッチで改善策の建て直しなどが行なわれると 思われますが、どうも運営の主体となる鹿児島県の熱意がそれほど伝わってこない印象を受けます (熊本県はどうだか分かりませんが)。1247という他社に比べても低い輸送密度をどう改善して いくのかということが目下の課題だと思われます。
また、車両の減価償却についても、 ”車両は30年以上もつので、11年ですぐに新しい車両を作ることにはならない”と収支予測に 関して反論があるようですが、現在のNDCやLEカーが30年も持つようには思いません。 海沿いを走っているので尚のこと寿命が短いと思いますが、そのあたりを含めて収支予測を きちんとしておかないとしなの鉄道以上の危機に陥るのは確実だと思われます。 何につけてものんびりした県民性がきいているのだと考えられますので、独自のアイディアを だし、着実に前進できるようにしておくべきだと感じられました。
(参考文献:鉄道ジャーナル432号。企画”どうする並行在来線”南日本新聞社 ほか)
もどる ご意見・御感想などは
kurs@geocities.co.jp
までお気軽にどうぞ
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください