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驚異の高速度〜〜羽田空港−北千住間空港リムジンバス





■空港リムジンバス空白地帯だった足立区

 東京都23区の社会指標において、足立区はどちらかといえば下位に列せられるというのが実態であろう。ただし、最も単純な社会指標である人口はかなり上位に位置しており、出張や観光需要の母集団となる絶対数もまた多いはずで、今まで空港アクセスバスが存在しなかったのは不思議であった。同じ東武伊勢崎線沿線でいえば、草加や越谷からの空港アクセスバスが既にある以上、なぜ足立区にはないのかという怪訝な印象は拭えなかった。

 そう思っていたところ、羽田空港−北千住間を結ぶ空港リムジンバスが登場した。一日に14往復を提供するというから、会社側からすれば以前から路線が成立するだけの需要はあると見込んでいたものと思われる。それが東武セントラルと京浜急行バスの共同運行という形になるあたりは、「利益があがる路線を誰がやるか」という綱引きにおける妥協の結果、とみなすのは邪推にすぎるだろうか。

 ともあれ、便利な交通手段ができたことは間違いない。運行開始は 3月16日とのことで、鉄道各社のダイヤ改正と被る時期だ。ちょうど航空利用による所用があったもので、羽田空港からの帰路をどうするかで迷った。なにせ、昭和島待避線が完成した東京モノレールも押さえておきたいところだ。結局、当日の荷物が重たかったという切実な問題があり、片道 1,000円という価格設定も魅力的に思われ、実利的メリットにまさる最善手段として空港リムジンバスを選択した。

羽田空港
羽田空港第二ターミナルにて






■羽田空港−北千住間空港リムジンバス実乗記

 羽田空港に着陸したのは午後。遅い昼食をとって時間調節した後、第二ターミナルにてバスの到着を待つ。停留所すぐ脇に自動券売機がある対応は、不慣れな利用者に対してもわかりやすい案内といえる。出発時刻は15時25分、東武バスセントラルが担当する便だ。第二ターミナルからは筆者を含め 8名が乗車した(注:筆者自身も有目的利用なので乗客としてカウント)。定刻に発車し、第一ターミナルに回る。こちらからは 5名が乗車した(ほか幼児 1名)。合計13名の乗車となり、価格設定とあわせ考えれば、採算点ギリギリというところか。今後存在が周知され、利用者がもっと増えれば、充分に利益が出るものと思われる。

東京モノレール併走区間東京モノレール併走区間
東京モノレールと併走


 第一ターミナルを出ると、すぐに首都高に入る。湾岸線を走る区間は短く、大井JCTから羽田線に入ってしまう。距離的に大差ないのだから、湾岸線からレインボーブリッジを経由した方が視覚的に楽しいと思われるのだが……。北千住→羽田空港方面の便が台場線経由であるのに敢えて異なる経路というのは、JCTの進路選択制約に応じた最短経路を採っていると思われ、それゆえ所要時間に無視できない有意差があるということなのだろうか。

浜崎JCT
浜崎橋JCTにて渋滞にかかる


 羽田線では東京モノレールと併走する。あちらも速いが、こちらも韋駄天走りだ。列車種別は見えないものの、ほぼ同じ速度で先を争う。他車に影響されるバスより、信号閉塞で前方の安全が保障されているモノレールの方が、いささか速い感じか。浜崎橋JCTを先頭とする渋滞に引っ掛かり、バスの速度は遅くなってしまう。もっとも、懸念したほどには時間はかからず、短時間で渋滞を抜け出した。都心環状線から上野線はまったく渋滞なく、バスはかなりの高速度で都心を駆け抜けていく。

北千住駅前
北千住駅前に到着


 問題は入谷ランプを出てからの国道 4号だ。国道 4号は私用で何度も通ったことがあるが、すっきり走れた記憶がない。まして図体の大きいバスではきっと詰まるに違いない、と筆者は思いこんでいた。ところが現実には、何箇所かの信号待ちのほか、たいして滞ることなくバスは進んでいく。これは速い。時計の針は未だ16時前だから、よほどのことがなければ早着確実である。

 隅田川を渡り、京成本線と交差し、意外にも墨堤通りを左折する。国道 4号の北千住駅入口交差点は右折可能だったはずで、右折レーンの幅員や延長不足による措置と思われる。バスは幅員がぐっと狭まった道を北千住駅に迫っていく。本日の行程はここが一番の難所で、一時停車車両が多く交通量も多いことから、駅に近づけば近づくほど車両が錯綜してくる。進路を塞ぐ車両に対し、何度かクラクションが鳴らされたほどだ。

北千住駅前
北千住駅前で発車を待つ


 多くの自動車がひしめくなか、北千住駅前に到着。時刻はなんと16時05分で、所要時間わずか40分、実に15分もの早着である。残念ながら、鉄道利用ではこれほど短時間で到着することなど不可能である。運行頻度の少なさを勘案しても、決して不利ではない。渋滞のない高速道を利用するという前提を置く限り、首都圏の通勤鉄道には(JRの近郊系等を除き)実は時間優位性がないことを「改めて」実感せざるをえなかった。





■驚異かつ脅威の高速度

 羽田空港−北千住間空港リムジンバスは、当面のところ知名度がないため、経営面では低空飛行が続くかもしれない。しかし、鉄道対道路の速達性という指標において、圧倒的な優位性を示した事実は大きい。詰まるところ、首都圏通勤鉄道の時間優位性には、過酷なまでの道路渋滞が前提条件として存在することに留意しなければなるまい。そのハンデが解消された瞬間、鉄道には身を鎧うべき武器がほとんど残されていないという寒々しい現実は、よくよく認識されてしかるべきであろう。

 もう一点いえば、足立区北部から羽田空港始発便( 6時30分頃出発)に搭乗するには、鉄道利用だと間に合わないという現実がある。竹ノ塚発日比谷線直通初電→京浜東北線→東京モノレールと乗り継いでいくと、羽田空港到着時刻はギリギリの線で搭乗手続終了後になってしまうのである。受付が機敏だと時間外でも手続してくれることもあるが、常にそれを期待するのは酷というもの。安心して搭乗手続するためには、今まではタクシーで山手線の駅に出る以外の方法がなかった。北千住発 5時30分の空港リムジンバス始発は、第一ターミナル到着定時 6時10分と、この問題を大幅緩和する好材料であり、バスが鉄道にまさりうる一断面を示した。

羽田空港
羽田空港第二ターミナルにて


 諸々含めて、首都圏の通勤鉄道にはないすぐれた特性を備える、強力なライバルが出現した。否、正確にいえば既に存在しているわけだし、かつそのネットワークを着実に広げつつある。筆者には今まで利用経験がなかったゆえに、空港リムジンバスの高速性・時間優位性は驚異であり、かつ鉄道にとっては脅威であると痛感する。

 繰り返しになるが、首都圏の通勤鉄道には絶対的な時間優位性は必ずしもない、と認識されるべきである。たとえ羽田空港−北千住間空港リムジンバスが営業的に失敗するような事態になったとしても、道路が鉄道にまさる断面を示した事実が永劫に消えない以上、その意味において鋭い「一槌」が下されたものではある。





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