このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





伊丹空港リムジンバスの利用状況





■伊丹空港の着陸軸線

 筆者は今まで、伊丹空港から離陸したことはあったものの、着陸した経験はなかった。ここ最近伊丹空港着陸便を利用する機会が何度かあり、軽からぬ驚きを覚えている。なぜなら、伊丹空港に着陸する軸線は大阪市内の真ん中近くを突っ切り、大阪城や梅田を横目で見つつ、新大阪駅の真上を通過することに気づいたからである。

 新幹線の駅の真上に、着(離)陸直前の機体が見える場所は、全国でもおそらく新大阪だけであろう。たいへん稀有な例である。

新大阪駅と伊丹着陸便
新大阪駅と伊丹空港に着陸する航空便(平成19(2007)年撮影)


 離着陸の軸線を市街地・住宅地から外すことは、今日における常識である。例えば羽田空港から北に向かって離陸する便は、一旦東にひねって海上を上昇し、高度を稼いでから方向を北に転じている。騒音対策するうえで、当然の配慮ともいえる措置である。

 これに対して、新大阪上空の航空機は高度が低いだけに、実にうるさい。レシプロ機はともかくとして、ジェット機の轟音はかなり堪えるものがある。それでも低騒音の双発機だからなんとか受忍できるが、大型の四発機ではとうてい耐えかねるだろう。オフィス街でこの状況だから、高度がさらに下がる豊中や伊丹の住宅地では、双発機やレシプロ機であってもより厳しい騒音にさらされているはずである。

 ちなみに「空港経営──国際比較と日本の空港経営のあり方」(添田慎二)によれば、伊丹空港と福岡空港は毎年の環境対策費が突出して多く、縮減も見込めないため、経営を民営化しても赤字経営は避けがたいらしい。





■誰がための伊丹空港

 せっかく関西や神戸を開港させたというのに、広範囲で多くの人数に騒音を撒き散らし続ける伊丹を残すというのは、率直にいって理解しがたい。さりながら、伊丹空港の利便性を認める利用者が存在することもまた、一方の事実である。筆者は早朝便からリムジンバスに乗り継ぐことで、その実態の一端を垣間見ることができた。

梅田行難波行新大阪行
32名8名3名
41名7名9名
29名6名5名
36名8名7名
20名10名2名
14名11名2名
20名8名5名


 早朝便からバスに乗り継ぐ利用者は、大多数が業務系利用者と見受けられるから、これは主に業務目的の交通流動の一部、と考えていいだろう。

 たった六回の利用から推測するのは危険だが、単純に要約すれば、梅田(大阪駅)付近の業務需要が伊丹空港を支えているといえる。難波行の利用が少ないのは、関西空港から行く方が近い以上は当然であろう。新大阪行の利用がさらに少ないのは、新大阪の業務核(副都心)機能が未だ弱いことの証左である。そのかわり、JRから乗り継いでくる利用者が多いため、折返し新大阪発伊丹空港行のバスは混雑する。

 5・6と梅田行利用者数が有意に減少しているのは、夏休みダイヤにおいて伊丹到着時刻が繰り上がったことによる影響と想定される。バスの始発を待っている間に、モノレールから阪急宝塚線や大阪市御堂筋線に乗り換えれば、かなり先まで進める。この点に効用を見出す利用者がシフトするのは、むしろ当然だろう。

大阪モノレール
大阪モノレール@千里中央(平成15(2003)年撮影)


 もう一点無視できないのは、大阪モノレール沿線の業務需要である。蛍池で阪急宝塚線から乗り換えてくる利用者が多い状況からわかるとおり、大阪モノレール沿線には底堅い需要が存在する。これは伊丹空港の需要をも下支えしているはずだ。

 関西圏は、絶対的に強い都心が存在しないという、都市圏としてはかなり珍しい特性を備えている。これを裏返して表現すれば、需要地が方々に分散しているということである。伊丹空港の場合は、営業を続けるに足る後背地を確保しているわけだが、リムジンバスの利用状況を見る限り、その範囲は必ずしも広いとはいえない。JRへの乗継を考慮すれば範囲はいま少し広がるが……。

 伊丹空港は関西圏を代表する国際空港と定義するか、あるいは限られた後背地しか持たないローカル空港と捉えるか。本稿はあくまで断片を記したにすぎないが、関西圏三空港を議論する際には、このような客観的状況を的確に認識したうえで議論を積み上げていく必要があるだろう。





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※本稿はリンク先「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。





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