このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





セントラム開業レビュー





■中心市街地に近づく発想

 本日平成21年12月23日、富山市路面電車環状線・セントラム(※)が開業する。富山市では既に富山ライトレール・ポートラムが開業しているほか、軌道系交通の新機軸が続々と打ち出されているが、路面電車の環状線を新たにつくるという着想には驚きが伴う。
 ※:まったく余談だが、この路線の正式名称はなんと呼べばよいのだろうか?

銀編成
市内線電車と並ぶ試運転中の銀編成(西町)


 富山市内の路面電車の歴史は複雑で、路線の変遷を追うだけでもそれなり手間である。ましてや、どのような経緯や事情から路線が変遷したかをまとめれば、それだけでも充分研究に値するだろう。そういった歴史的経緯への言及を省くとしても、昭和48(1973)年までは、路面電車に環状線が存在していた時期がある。

白編成
試運転中の白編成(大手モール)
※画面右側に大手モールアーケード入口が見える


 セントラムはその環状線ルートを踏襲せず、はるか戦前に廃止された(廃止時期不詳/昭和 9(1934)年頃らしいが……)とされる支線ルートを復活させた。これはなかなかの慧眼、というべきであろう。

路線図
環状線路線図


 図形的に環状線を描くことにこだわらず、富山の中心市街地──グランドプラザ・大手モール──になるべく近づけるという発想は、交通機関を設計する際に最も重要な発想といってもよい。当然といえば当然のことながら、本当に具体化させたという事実は大きい。素直に高く評価できる部分である。





■手厚いスキーム・手堅い需要予測

 セントラムのスキームはいわゆる上下分離方式で、インフラストラクチャー部分の建設・保有は富山市が担い、富山地方鉄道は列車運行のみ行う。今回新設された線路の延長は 940m、総工費は約30億円である。新型連接車一編成の価格だけでも約26,400万円に及ぶという。投資規模からすれば、富山地方鉄道単独で行える事業でないことは明白であって、事業主体はあくまでも富山市にある。富山市の明確かつ強固な意図と計画があればこそ、セントラムは実現した。

黒編成
試運転中の黒編成(グランドプラザ前→西町)


 列車の運行ダイヤは富山駅前発始発が 6時11分、同終電が22時10分発。 9時半から19時半までが10分間隔、それ以外の時間帯では20分間隔が予定されている。運行は反時計回りの一方通行で、一周約20分を要することから、朝・深夜は 1編成のみ運用に就き、日中は 2編成運用になるものと思われる。また、運行本数は一日80本ということになる。

 面白いのは、需要予測を相応にしっかり行っている点だ。新設する 3電停の一日あたり乗降客数は 1,320名と予測されている。一列車あたり16.5名とは、なかなか手堅い予測ともいえる。もっとも、今までの軌道線の実績に上乗せしてこの数字となると、ハードルが低いとは決していえない点が味噌である。

白編成
試運転中の白編成(西町交差点)


 直感的にいえば(かつ楽観的予測になるが)、セントラムが成功する確率は高いと考えられる。環状線運行というよりもむしろ、富山駅前−西町間のシャトル列車に近い設定であり、前述したとおり中心市街地に近づける努力がなされていることから、買物客などを中心として、まとまった数の利用者が見込めるのではないか。

黒編成
試運転中の黒編成(西町交差点)


 もし引っ掛かりがあるとすれば、上の写真の部分だろうか。西町交差点にはセントラム用の電停がなく、しかも道路空間が狭いため、自動車が滞りやすい。セントラムは自動車渋滞に連動し、ノロノロ運行におちいりがちだ。これらの点が利用者に嫌気されるおそれがあり、セントラムの魅力を削ぐことにつながるかもしれない。

銀編成
試運転中の銀編成(国際会議場前)


 ともあれ、セントラムは走り出す。筋が良い路線だけに、予想どおりの、願わくばさらなる大成功をおさめることを期待している。





元に戻る





執筆備忘録

現地訪問:平成21(2009)年冬(開業前の試運転時点)

執筆  :平成21(2009)年末



参考文献

(01)「市電環状線の“顔”搬入 年末開業の新車両」(中日新聞平成21(2009)年11月13日付記事)

(02)「富山・路面電車環状線、 1日利用1320人見込む 来月23日開業、一律 200円」(北日本新聞平成21(2009)年11月26日付記事)

(03)「環状線も一律 200円 富山・路面電車、来月23日開業予定」(北日本新聞平成21(2009)年11月19日付記事)

(04)「私鉄史ハンドブック」(和久田康雄)

(05)「日本鉄道旅行地図帳6号・北信越」(今尾恵介監修)





このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください