このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





関西空港発早朝便にアクセスしてみる





■ちょっとした一念発起

 筆者は近頃、羽田→伊丹早朝便を高頻度で利用するようになっている。また、神戸空港に着陸した経験は既にある。ところがその一方で、関西空港を利用した経験は未だない。伊丹空港の存続に疑問を持ちつつ、アクセス条件・航空のダイヤ設定・運賃・筆者の時間制約などから、関西空港を利用しようというモチベーションが湧かないのである。

 このたび偶然にも、フリーハンドで行程を引ける機会があったので、せっかくだからと半ば強引に、関空→羽田早朝便を利用してみることにした。関西三空港問題はとかく紛糾しやすい素材なので、まずは利用者の視点に立つ、実際に利用者になってみることが重要だと考えた次第。





■早起きは何文の得?

 新大阪駅にて御堂筋線の始発列車を待つ。時間調整が巧くできたもので、いたずらに長時間待たずにすんだ。それにしても……、といきなり虚しい気分を抑えることができない。御堂筋線始発列車の新大阪出発定刻は 5時 9分。この51分後に出発する「のぞみ 100号」に乗車すれば、東京着はほぼ同じどころか、より早く着く可能性さえあるのだ。それなのに敢えて関西空港から搭乗しようというのは、明らかに合理的選択ではない。

 さらにいえば、同じく 6時頃に新大阪を出発すれば、御堂筋線・大阪モノレールと乗り継ぎ、日本航空・全日空の始発便に搭乗可能なのである。バスを利用すれば 6時20分出発でも間に合う。東京到着こそ関空搭乗より30分ほど遅れるものの、出発時刻は 1時間以上も繰り下げられるわけで、到着時刻にさほどの制約がなければ伊丹搭乗の方が合理的だ。

新大阪
新大阪に到着した御堂筋線始発列車


 御堂筋線に乗りこんでみると、席が埋まる程度の乗り。夏休み中の始発だから、こんなものだろうか。梅田以南の都心部では、利用者が入れ替わっていく。

 難波に到着。本日最初に焦りを感じる場面である。南海の空港急行との接続時間は 7分しかなく、御堂筋線と南海のホームは離れているから、移動するだけで3〜4分を要する。慣れた道ではないから、迷って道を外れでもしたらアウトである。

難波
難波で出発を待つ南海空港急行


 幸いにも道を外すことなく、目的の空港急行ホームに辿り着いた。荷物を置いて写真を撮る余裕があったから、乗り遅れは杞憂に過ぎたか。空港急行の車内は閑散としている。先ほどの御堂筋線車中で見かけた顔も何人かいる。とはいえ、これから飛行機で飛ぶ、という雰囲気をまとった方はほとんどいない。これで本当に空港アクセス列車なのだろうか。まして早朝便に接続するというのに。





■南海空港急行の不思議な貌

 空港急行は難波を 5時30分定刻に出発。新今宮・天下茶屋・堺・羽衣・泉大津・春木・岸和田・貝塚と停車していく。各停車駅とも、キャリーバックを引く航空利用者の乗車が散見されるものの、全体の利用者のなかでは稀釈されている感がある。早朝時間帯だけに、もっと航空利用者優勢かという予断があったが、これは外れた。堺あたりからは相応数の乗車があるだろうという予断も、当たらなかった。日常の域内利用者が優勢で、航空利用者は目立たない。

泉佐野
泉佐野で出発を待つ空港急行(右)と難波行区間急行(左)
写真右フレーム外には和歌山市行普通も接続している


 ここで、空港線へと分岐する泉佐野で、雰囲気が大きく変わった。泉佐野では二面三線式ホームの中線に入り、両方向列車の接続を受けるのである。特に影響が大きかったのは和歌山市行普通からの接続で、ホームには多数の利用者が待機していた。これに対して、難波行区間急行から乗り換えてくる利用者は目立たなかったが、ともあれようやく、車内は航空利用者優勢という雰囲気になった。

 和歌山行普通を先行させて、空港急行は空港線の高架に入っていく。途中駅のりんくうタウンは運転停車みたいなものだろう、と軽く考えていたところ、これがまったくの予想外。車内にいる人数に匹敵するほどの多勢がホーム上に待っていた! これには驚いた。

 勿論その全てが航空利用者ではなく、関西空港内で働く方々の通勤行動が太宗だとしても、関西空港が影響を及ぼす範囲のコンパクトさがそこはかとなく見えてくるという意味において、重要な示唆といえる事象であろう。これは関空と伊丹の役割分担を考えるうえでも重要な断面であるが、話題が発散しすぎるので本稿では敢えて触れずにおく。

連絡橋
連絡橋を渡る空港急行


 連絡橋のごついトラスの中を渡りつつ、空港急行は最後まで「急行」の名にふさわしい高速度を発揮せぬまま、関西空港に到着した。日中のダイヤならばやむをえないと思えても、早朝時間帯のダイヤ阻害要因は少ないはずだ。最高速度を上げ、出発時刻を少しでも繰り下げれば、より多くの航空利用者を拾えるのは自明だというのに。それをせぬ南海は空港アクセスを実は重視していない、という傍証である。

関西空港
関西空港に到着した空港急行






■タイトな接続で空を飛ぶ

 関西空港に到着してからが、本日二番目に焦りを感じる場面である。搭乗手続終了まで13分。移動距離次第では厳しい接続だ。幸いにも、移動距離は危惧していたほど遠くなく、搭乗手続は余裕を持って間に合った。空港急行の 3分後に到着する阪和線の関空快速でも、まだ余裕綽々で搭乗できるだろう。

 それにしても……、と再び慨嘆せざるをえないのは、関西空港アクセスのあまりの悪さである。筆者が搭乗するのは日本航空 172便。出発時刻は 6時45分、搭乗手続締切は 6時30分である。そして、これに先んじることわずか10分、 170便が出発している。 170便の出発時刻は 6時35分、搭乗手続締切は 6時20分。空港急行の関西空港到着は 6時17分なので、どうやっても間に合わない。 5時早々の始発電車に乗っても搭乗できないとは、なんたる接続の悪さか。

 さらにいえば、御堂筋線始発に接続できない鉄道沿線に住まう利用者は、 172便にさえ搭乗できないのである。もっとも、「のぞみ 100号」に乗る方がはるかに合理的な選択であることは既に記したとおりで、アクセスの劣悪さを論じてもばかばかしい感じが伴う点は否定できないのだが……。

関西空港
関西空港の広々とした内部空間


 空港リムジンバスを利用したところで、状況はほとんど変わらない。関西空港におけるアクセスは早朝便を念頭に置いていないに等しい。もっとも、関西空港では 6時台に出発する早朝便が少ないという状況があるわけで、早朝便アクセスを考慮する必要には疑問の余地があるかもしれない。

 搭乗した機内は空いていた。夏休みの真っ最中ゆえに、TDRなど観光需要も多いはずなのに、アクセスの悪さが如実に反映されているせいだろうか。久々に乗機するA300に身を委ねながら、羽田と関空の違いを比べてみた。

JL172
筆者が搭乗した日本航空 172便(エアバスA300-600R)


 羽田では 6時台に出発する早朝便が多く設定され、また早朝便に接続する空港リムジンバスが実に多い。筆者が愛用する北千住リムジンもこれに該当し、はるか遠く山梨(竜王)や茨城(日立)を未明に出立するものさえある。これに対して関空では、伊丹に発着時刻制限があるというのに 6時台に出発する早朝便が段違いに少なく、バス・鉄道とも早朝便へのアクセスが重視されているとはいえない。バス・鉄道アクセスで早朝便が利用できる範囲は、関西圏のなかではかなり限定的である。

 たいへん乱暴な概括となってしまうが、首都圏と関西圏とでは、航空の「使いこなし」に格段の開きがあると感じざるをえない。

 羽田発の早朝便が多いというのは、所詮、航空会社の都合にすぎない。東京に本拠地を据え、夜間滞泊できない地方空港に朝一番の便を回送していた名残である。これは首都圏−各地方間の交流の太さを示してもいる。また今日、地方空港での夜間滞泊は一般化しているが、それでも多数の早朝便が飛び続けているのは、首都圏の利用者が早朝便に多大な効用を見出したからであろう。業務であれ観光であれ、目的地の空港に 9時前に着ければ、おおいに便利だ。 6時前後の羽田に空港リムジンバスが陸続とやってくるのは、早朝便の効用が幅広い範囲の多くの利用者に認められたからに違いない。

JL172
日本航空 172便機中から見た富士山と三保の松原


 これに比べて、関西圏では航空を自家薬籠中におさめていないのではないか。航空会社は関西に本拠地を据えていない。これは関西圏−各地方間の交流が細い傍証の一つである。関西圏発の早朝便は育たず、その必然なる帰結として、関西圏の利用者は早朝便に効用を見出せないままでいる。以上のように、航空を使いこなせているわけでもないのに、やれ関空だそれ伊丹だと論じるのは、ニワトリどうしの争いにも似て、第三者的には如何にも滑稽に見える。

 ともあれ関西圏は、航空会社の本拠地に選ばれず、即ち各地方との交流も細く、利用者は早朝便の効用を見出せず、しかも圏内に敢えてわざわざ三空港を維持し続けようという、あまりに重い四重苦を背負っているといえよう。

浜松町
浜松町で折り返す東京モノレール


 羽田空港で乗った東京モノレールは空いていた。折返し反対側のホームには多数の利用者が待っていた。羽田空港から各地に飛ぼうという人々の奔流である。首都圏の持つ強烈なエネルギーの一端に触れ、底知れない畏怖をふと抱いた。





元に戻る





このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください