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よもやの移籍〜〜名古屋鉄道モ590 土佐電鉄へ





■鉄道ピクトリアルNo.772号(平成18年 2月号)記事より

 土佐電鉄が譲受した元名鉄モ 590形が2005年11月16日、桟橋車庫に搬入された。今回到着したのは、591、592号の2両……(後略)

 モ590名古屋鉄道時代のモ590 (競輪場前・平成16(2004)年撮影)





■コメント

 以上の記事に触れて心底驚いた。呆然とした、と形容する方がより正しいかもしれない。モ590 といえば昭和32(1957)年製、譲受時点で既に車齢48年という、相当な老朽車両である。このように旧い車両をなぜ土佐電鉄が求めたのか、当初はその理由をまったく理解できなかった。

 そこで土佐電鉄の現在保有車両を調べてみたのだが、その結果、ようやく納得いった。土佐電鉄といえば、外国車両の導入でよく知られており、近年では 100型「ハートラム」が就役するなど、話題も多い。しかしその一方、基礎的な体質改善はあまり進んでいない。インフラ改善を中小規模の一私企業に求めるのは酷としても、車両置換のペースの遅さはやはり問題であろう。土佐電鉄には旧い車両が数多く残っており、その顔ぶれが30年前とほとんど変わっていないという状況は、近代化とはほど遠い。

 501土佐電鉄 200型と同一形態の501 (鏡川橋・昭和57(1982)年撮影・現在廃車)

 自社オリジナル 600型、山陽電軌からの移籍車700・800型は、全車冷房化が済んでいるため、最低限の改善が施されているといえる。しかし、最も旧い 200型(主に昭和20年代製造)では冷房車が 2両しか存在しない。車体強度が充分ないらしく、一般的な冷房機器を屋根上に搭載できないようだ。最も旧く冷房化も果たせない車両がまだ多数残っている点に、土佐電鉄の苦しさが凝縮されている。

 501土佐電鉄の代表車種 600型(領石通・平成13(2001)年撮影)

 その 200型を置換するために、冷房化されている名鉄モ590 を導入するというならば、涙ぐましい努力というしかないが、それにしても半世紀近く働き続けてきた車両の移籍をどのように受け止めればいいのだろう。福井鉄道や豊橋鉄道に移籍したモ880 以降の車両であれば、車齢がまだ新しいから理解しやすい。ただし、モ880 も車齢25年で一般的には相当旧い車両に属するのだが。

 モ880名古屋鉄道時代のモ880 (新岐阜・平成16(2004)年撮影)

 車齢48年の車両の移籍。保存車両を除けば、おそらく最高齢に近い移籍であろう。これは(特に1067mm軌間の)路面電車における新車導入の負担の重さと厳しさを、冷酷なまでによく象徴している。名古屋鉄道600V線区が廃止になってから間を置かず、モ880 以降の車両の移籍先が決まったことも、実は裏表の現象といえよう。現に豊橋鉄道では今までの主力車両3100型の廃車が急速に進んでいる。1067mm軌間路面電車では、新車そして良質な中古車はそもそも貴重な存在なのだ。

 3101廃車が進む豊橋鉄道3100(新川・平成15(2003)年撮影)

 今回ばかりは「趣味的には楽しい」と書き記す気力も湧かない。車齢48年の老朽車両にまだ働き口があるという現実は、1067mm軌間路面電車の将来性を如実に示している。これがショートリリーフにとどまればともかく、おそらく還暦を超えるまで働き続けてしまうのだろう。そこまで読めてしまうので、なおさら暗澹とした気分になる。





■蛇足

 それにしても痛恨なのは、モ870 (元札幌市交通局A830)には行場がないということだ。日本の路面電車史上、最も洗練された外観を備える彼女にしても、はや車齢40年と立派な老朽車両の仲間である。連接車で輸送力が大きく、連接台車にも電動機が装架される特殊構造、しかも華奢な車体とあっては、現役を続けることの難しさはいちおう理解できる。しかし、モ590 に移籍先があった以上は、彼女にもありえたのではないか、という思いは煩悩として残る。

 ボギー車しか運行しない豊橋鉄道はともかくとして、路面電車にスモール・チェンジ中の福井鉄道でも彼女を採らなかった。外国渡来という、極めつけの特殊車両が居並ぶ土佐電鉄でさえ、彼女を採らずに頑健なモ590 を選んだ。生まれ故郷の札幌では、細々ながら新車の投入が続いており、もはや復帰する余地はない。

 残念無念であるが、これも車両の命数というべきか。A830がその巨大な輸送力を駆使し、本当に活躍できたのは、わずか10年ほどの時間にすぎなかった。さらに30年、余命を得ただけでも幸せだったのか。「活躍した」とはいいがたいだけに、複雑な思いがする。

 モ870名古屋鉄道時代のモ870 (競輪場前・平成16(2004)年撮影)





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