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近鉄北勢線廃止へ

 

■平成12(2000)年 9月12日付交通新聞記事より■

 この記事には小項目ながら北勢線廃止への展望が採りあげられていた。以下に抜粋する。

「車両が老朽化しているものの、利用増が見込めないため、車両更新せずに二−三年以内のバス転換を目指す。同線以外の廃止は、今のところ考えていないという」

「輸送密度は同社最低の3282人、赤字額は 7億2000万円に上るという(99年度)」

 

■コメント■

 北勢線の営業成績は以下の表のようにまとめられる。

◆輸送密度
区間名          輸送密度 
西桑名−七和間     6,638
七和−北大社間(推測) 3,500〜4,200
北大社−阿下喜間(推測)600〜 900
全線平均        3,282

 ※西桑名−七和間は都市交通年報、全線平均は交通新聞によった。そのため、データの年次にはずれがある。

 

◆収支計算
項目    金額 算定根拠
営業収入  3億円=輸送密度×賃率×営業キロ
営業支出  4億円下記より逆算
営業損益 △1億円 
営業外損益△6億円=(近鉄全社の営業外収入−営業外費用)÷近鉄全線営業キロ×北勢線営業キロ
経常損益 △7億円交通新聞記事

 ※営業外収支は鉄道統計年報によった。賃率は12円/kmとした。

 

 北勢線の廃止に関して怪しく思えるのは、赤字の大きさである。輸送密度が相応にあるというのに、赤字は極めて大きい。名鉄の4線区と比べると、違いが明瞭にわかる。

 発表された北勢線の営業成績には、近鉄全社にかかる営業外損益が割り振られているとみなさざるをえない。事実は確認できないが、おそらくそうであろう。

 北勢線を全廃しなければならないほど状況が切迫しているとは、考えにくい。なぜなら、北勢線に割り振られている(と想定される)営業外損益が経理上のマジックとなっているからである。この「みかけ経費」は北勢線を廃止しても解消されず、他線区に均等に配分されてしまう性質を持つ。このような「みかけ経費」を経費に含めてしまうのは、筆者は適切なやり方でないと考える。

 しかし、北勢線が収益的でないこともまた確かである。少なくとも、北勢線の営業損益をゼロに近づけるための努力は必要である。

 北勢線は、たとえ収益的でなくとも、大きく足を引っ張らない程度の成績を挙げることができるはずである。それを廃止するというからには、おそらく、北勢線に投資する意欲そのものが近鉄にないと理解するしかないし、実際そのように報道されている。

 北勢線は車両置換してから既に永く、そろそろ更新を考えなければならない時期にきている。近鉄は、その更新投資を嫌気しているのではないか。スタンダードな軌間であれば玉突き配転もできるが、超ナローとあっては全て新製するしか手がない。鉄道車両の単価の高さは改めていうまでもなく、その投資に見合うだけの収益が北勢線に期待できるかと問われれば、残念ながら極めて厳しいと応えざるをえない。

 上記を鑑み、輸送密度が極端に段落ちする(と推測される)北大社−阿下喜間を廃止し、所要人員・機材を圧縮することで、収支の改善・機材の当面の延命措置を図るという手法を採ってはいかがだろうか。そして、モラトリアム期間中に本格的な更新を行うか否か、決断すればいいのではないだろうか。

 状況の厳しさはよく理解できるのである。しかし、なにも一気に全廃に向けて走らなくとも、と思えてならない事例である。

 

 

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