このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

 

長電木島線代替バスに乗って

 

 

■木島線代替バス乗車の記

 ある平日の夕方に、木島線代替バスに乗る機会を得た。木島線が廃止されてはや半年。情景は、どのように変わったであろうか。

 
 信濃安田付近をゆく木島線代替バス(平成14(2002)年撮影)

 大型バスが投入されている木島線代替バスであるが、雄大な風景のなかではいかにも小さく見える。

 

 木島駅の姿は、以前と変わった感じがしない。木島線末期には無人化された駅であり、信州バスの事務所として使われていたから、バスに一本化されて名実が合致した印象さえ伴う。ホームに出てみると構内には雑草が生い茂っており、列車はもうやってこないことを証している。

 駅前に出ると、バスが出発を待っていた。木島線代替バスには新車を投入したようで、塗装はまだピカピカである。

「あんたがこのバスに乗るなんて、珍しいな」

 知り合いのYさんから声をかけられる。風貌からして交通関連の仕事に就いているとは思っていたが、まさか信州バスの運転士であったとは。なんとも照れくさい心地がする。四方山話をするうちに、出発時刻がきた。

 運賃表がどこにもないな、と思っていると、出発と同時に運賃表が「紙芝居」式に出現した。デジタル表示全盛のこの時代に、なんとも単純で原始的なやり方ではある。

 乗客は私を含めても3人しかいない。いくら夕刻の上り便とはいえ、さびしい状況には違いない。Yさんの運転は堅実だ。速度を抑えながら、生真面目に進む。法定速度遵守、どころの丁寧さではない。速度計を見ると30km/h定速での走行で、状況がよい箇所でのみ40km/hまでアクセルを踏んでいる。

 通常の自動車にとってこの速度は遅すぎる。だから後続車がつくと、左にウインカーを出し追い越しを促している。田上−中野北間の幅員が狭い区間はともかくとして、充分な幅員がある区間でこの措置は必要なのだろうか。

 信濃安田(停留所名は安田に改称)で2人乗車してくる。窓の外は暮れつつある。バスはゆっくりと、追い越しを促しながら進んでいく。道が狭くなってきた。代替バスの経路は柳沢から四ヶ郷付近にかけて特に狭く、普通車どうしでも行き違えない狭隘部が随所にある。

 停留所の数は、木島線時代の駅と比べほとんど増えていない。木島−田上(停留所名は岩井入口に改称)間などは、駅配置そのままだ。沿線に人口が多いわけではないが、バスの特性を活かし、もう少し増設の余地があるのではないか。中野市内では経路及び停留所設定に一工夫見られるだけに、田上以北の淡泊さは際立ってしまう。停留所を増やしても利用者がつかない、と最初から決めつけているかのようだ。

 赤岩で2人が降車した。あとは大きな動きもなく、バスは信州中野駅前に到着する。

 
 岩井入口(旧田上駅近く)に停車中の木島線代替バス(平成14(2002)年撮影)

 県道を行くため除雪は比較的行き届いているが、大雪の後では新雪を踏み踏みの道中となる。冬休み中とはいえ、車内は閑散としてさびしい。

 

■「代替」と呼ぶにはあまりにも低機能

 時間帯といい乗った方向といい、事前に予想できたとはいえ、やはりさびしい状況ではあった。それにしてもこれで本当に「代替バス」と呼べるのか、いささかの抵抗感が伴うところだ。経路こそ木島線を踏襲していても、機能があまりにも貧弱にすぎる。

 狭い道路で無理に高速度を発揮する必要はないにせよ、現状の速度はむしろ抑えすぎであろう。安全確保に配慮するのは当然としても、過重な措置とはいえまいか。鉄道時代の倍ほども時間がかかっては、いくらなんでも遅すぎる。

 これでも鉄道の機能を代替しているといえるのか、この現状を保持することが望ましいのか、そもそも公共交通として充分な機能を提供しているといえるのか。数多くの疑問が残る小旅行であった。

 

 平成14(2002)年11月30日付信濃毎日新聞によれば、木島線代替バスの利用者数は鉄道時代と比べ4割ほど減少したという。代替バスの運賃水準は鉄道時代に準じていることを考えれば、この減少幅はほぼ全てが所要時間延伸によるものと考えられる。事業者側は、利用者数減少に伴う収支悪化を値上げで補う意向があるという。もし値上げが実現すれば、さらなる利用者数減少というスパイラルにつながることは必至である。いよいよもって、代替バスの意義が見えにくくなる展開になりつつある。

 

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