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ビジネス高速夜行バスの定着
筆者の個人的思いこみというよりもむしろ一般的現象として、業務系利用者は新幹線と航空を選択的に利用し、高速バスは選択の範囲外、という認識があった。高速バスの運賃は相対的に安いという効用がある反面、所要時間が長いという負の効用がある。そのため、高速バスは“時間を対価として金を買う”利用者層の交通機関であって、業務系利用者の“金を対価として時間を買う”行動原理とは相容れないはずなのだ。
そんな今までの常識が東京−大阪間では覆りつつある。座席の快適性を大幅に向上させ、そのかわり運賃は少し高め(ただし新幹線・航空よりは安い設定)とした、高速夜行バスの利用者が定着しつつあるというのである。
平成20(2008)年10月28日付日本経済新聞「価格攻防/変わる潮目6」の副題は「出張も深夜バス/『安くて快適』新幹線に対抗」とうたわれ、ジェイアールバス関東の運行による「プレミアムドリーム号」が紹介されていた。
運賃設定は9,310〜9,910円と従来の夜行バスの倍近く、しかし新幹線より3,000〜4,000円ほど安い。「ゆっくり寝られる広いシートも魅力」とされているが、筆者の個人的感覚とすれば翌朝の身だしなみをどう整えるかが苦しいはず。その点だけでも選択肢から外れ、新幹線・航空の前夜最終か当日始発で充分と思えるが、それでも選択する利用者が増えているというから、なるほど「潮目が変わった」のかもしれない。「新幹線と違って、到着した早朝(翌朝 7時)から動ける。しかも、安くて快適だから」という業務系利用者の声には、まさに隔世の感を覚える。
今年度上半期の利用者数は 9,600人(前年比 3%増)とのこと。ジェイアールバス関東常務は「新幹線と勝負できるようになってきた」と自信にあふれたコメントを寄せている。しかも、他にも10社ほど同様な夜行バスを運行しているというから、需要は底堅いものがあると見ざるをえない。
業務系利用者をターゲットとした高速夜行バスが興隆していくならば、在来線夜行列車にはもはや出番はない、と痛感する。所要時間は高速バスなみ、運賃は新幹線・航空なみとあっては、効用はないに等しい。寝台での睡眠という他交通機関にはないサービスも、安価なビジネスホテルと対比すれば快適性は落ちる。
現下の世界経済の状況からして、価格下げ圧力は強まるばかりだろう。ほんらいはより高度なサービスにより高い対価を払うことが健全な姿なのだが、“金を対価として時間を買う”はずの業務系利用者すら、時間を犠牲にして出張旅費を浮かせる妥協点を見出した。そのニッチな市場を見出したバス会社は慧眼である。
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