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トラムが寄らない新長崎駅





■長崎新聞平成24(2002)年10月13日付記事より


路面電車乗り入れ計画廃止

 新幹線開通に向け長崎駅周辺土地区画整理事業を進める長崎市が、路面電車を新駅舎に引き込む計画を廃止する方針を固めたことが12日、関係者への取材で分かった。……
…(中略)…
 同事業は、新駅舎を西側(浦上川方面)に 150メートル移動させ在来線と新幹線が乗り入れる。新駅舎は国道から約 200メートル離れるため、この間に「トランジットモール線」(長さ 150メートル、幅18メートル)と呼ばれる空間を整備し路面電車を引き入れる計画だった。
…(中略)…
 同社(引用者注:長崎電気軌道株式会社)経営企画室は「既存系統で新駅に乗り入れると10〜15分のタイムロスが生じる。系統の新設には車両や人員を増やす必要があるが、新たな投資もできない。当初から乗り入れる意思はなかった」としている。
…(後略)…

   ※下線部は引用者による強調





■コメント

 筆者が長崎駅高架化とそれに伴う土地区画整理事業の計画を知ったのは平成22(2010)年夏のことであった。在来線車両留置線を早岐に移転するなど鉄道用地を絞る一方、長崎新幹線長崎駅を組みこみ、土地利用を大規模に再配置するという、なかなか遠大な計画だ。

 この計画の一部として、長崎電気軌道を丁字型に新長崎駅に引きこむ絵が描かれていた点に、筆者は軽からぬ違和感を持った。走行距離が伸びるだけでなく、直角の右(左)折が二回増え、しかも折返しが生じるから、時間のロスが大きい。長崎電気軌道の需要構造からして、長崎駅を通過する流動が卓越しているはずだから、長崎電気軌道丁字引きこみ計画は決して合理的なものとはいえない。

長崎駅前
長崎電気軌道の長崎駅前停留所(背景右側が現長崎駅ビル)
平成22(2010)年撮影


 この種の計画は誰か一人の独断で定められるものではない。何段階もの審議を経て決定される。長崎市の委員長を務めたのは筆者ですら知っている高名な大学教授だというから、筆者においては違和感が深まるばかりであった。

 そこへ前記報道である。これに触れて「なるほど」と妙に納得した。長崎電気軌道は、今までの審議に参画しながらも、描かれた計画に賛同しているわけではなかったようだ。筆者はインサイド情報を知りえないので、経緯を判じかねる面はあるものの、キーワード先行の計画に長崎電気軌道はメリットを見出せなかったのが実態ではないか。

 それにしても「当初から乗り入れる意思はなかった」とは厳しい表現だ。長崎電気軌道と長崎市との間には相当深い確執があると見て取れる。あくまでも想像にすぎないが、
  長崎電軌「当社にメリットはない。このような計画は承伏しかねる」
  長崎市 「『モール』は計画の目玉。実施段階で如何様にも調整するから、今は計画具体化に向け同意してほしい」
 といった応酬が幾度となく繰り返されたのではないか。

長崎駅前
現長崎駅との接続はきわめてバリアフルである
平成22(2010)年撮影


 上記新聞報道を読むだけでも、長崎市は空間を確保するにとどまり、必要な投資は事業者まかせという姿勢が透けて見える。現実問題として大きな投資に耐えうる交通事業者は限られる。その一方で、かりにも「経営企画室」を設ける規模の事業者なのだから、長崎電軌には相応の投資をする地力があるはずだ。現に新車の投入が続きつつあるではないか。相互の「化かしあい」が破綻した結果が、上記新聞報道といえよう。

 理非善悪はとりあえず措くことにしよう。真実がどこにあるかは、この際あまり重要ではない。結果として、トランジットモール部分に限っていえば、長崎市は砂上楼閣の如き計画をつくったことになる。長崎電軌の真意を知っていながら計画を主導していた長崎市は、どのように計画を修正していくのだろうか。





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