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脆弱なる足許





■日本鉄道施設協会誌平成25(2013)年10月号記事より


改めて保線作業の機械化を!
第一建設工業(株) 代表取締役社長   高木 言芳

1.「200X年構想」
 民営化間もない1990年代初頭、JR東日本では「200X年構想」が発表された。これまでの3K(危険、きつい、汚い)+2Y(夜間、屋根なし(屋外))の保線作業では、作業員だけでなく若い技術者が確保できなくなる。さらには、今後の大量退職者時代を迎える中でこれまでのベテランの経験や勘に頼っていた線路を見る目や線路を直す技術・技能を後輩たちに引き継ぐことが出来なくなってしまうとの危機感から、その内容は保線の将来像を語ったものであった。

 (中略)

3.さらなる保線作業の機械化の進展に向けて
(3) 発注者側も機械化作業のための環境整備を

 機械化作業に適した軌道構造の改良は長年の懸案であったが進展が見えてこない。今後予想される新幹線での大量のレール交換をレール交換機で施工することを考えれば、現在のような部品点数が多い締結装置では機械化にはなじまない。また、線路内に埋設された各種のケーブルは機械化作業のネックとなっている。
 (中略)
 四半世紀後に保線作業が労働力不足でできなくなってしまったなどという事態にならないためにと肝に銘じる昨今である。

   ※下線は引用者が付した。





■コメント

 そら怖ろしさを感じるほどの金言である。軌道構造に詳しくない筆者からすれば、簡素な構造に見えるスラブ軌道ですら「部品点数が多い」というのは意外であった。高木社長の見方が妥当であるならば、機械化できない状態のままでは大規模軌道更新は不可能、とほぼ断言できる。

 そもそも軌道の仕事は労働者の大量投入により初めて成立しうる場面が多い。なぜならば、限られた時間内(作業間合)で工事を完成させなければならないからだ。筆者が実見した幾つかの線路切替工事では、百人千人単位の労働者が仕事に取り組んでいた。

 労働者確保が難しくなる、ということじたいは平成時代に入る前からいわれているから目新しさはない。しかしながら、四半世紀以上経ってもなお同じ問題意識が提起され続けられなければならない経緯は、あまり健全とはいえまい。世界に冠たる新幹線といえども、軌道更新を出来ずに梗塞する懸念があるのだとすれば、足許は意外に脆弱と考えなければなるまい。

 更にいえば、そんな断面は日本中の其処此処に存在しているのが実態だ。KY(きつい夜)の仕事を日本人は忌避している、その代わりに外国人労働者が雪崩れこんできている、という線ではないか。もっとも、外国人労働者にとっても、日本での労働は「割に合う」ものではないらしく、外国人労働者数の伸びは目立つものにはなっていないのだが……。

 盛り場の仕事ならば歴史的に普遍であっても、鉄道の仕事は技能職であり、簡単に代替が効くものではない。合理化を究めていくと技術伝承が行き詰まる、典型的な二律背反といえよう。これは鉄道に限った話ではない。日本社会全体がおちいっている弊ではないか。

 日本の人口が減少に転じた以上、「人材」もまた減少していくと考えなければなるまい。まして若い男性の「草食化」がいわれるほど、若年層を抑圧する社会背景が日本にはある。少なくとも十年単位で、この傾向は続くのであろう。

 鉄道において、例えば広島電鉄が連接車の大量投入を進めているのは、列車数を減らすことで有資格者(運転士)数を抑制する意図があると見受けられる。JR各社が夜行列車を次々に廃止しているのは、需要構造変化のほか、夜間の運転要員確保が困難化している点も効いているのではないか。

 それはそれで趨勢であり、正しい判断でもある。ただし、「合成の誤謬」におちいっている懸念が大きい。「より多くの人数を巻き込む仕掛け」をつくりあげていかなければ、日本社会全体が衰微していきかねない。





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