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緩慢なる危機
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アゴラ平成25(2013)年 3月27日付記事
より
マイホームは老後に買え! 人口減少社会に対応する「企業活動」のリスク 中嶋よしふみ
西武ホールディングスの大株主で、再生ファンドとしても有名なサーベラスがTOB(株式公開買い付け)の実施を公表した。西武HDの経営陣はリストラ策に反発し、TOB反対を3月26日の取締役会で決議している。
近頃たびたびニュースになってはいたものの、どうせお金と主導権で争っているだけだろうとさして興味も持っていなかったのだが、サーベラスが提案しているリストラ案にはなんと東京・埼玉にまたがる5つの路線廃止が含まれているという。
廃線を提案されているという路線は以下の5つだ(図で黒く塗った線路)。※西武秩父線・山口線・多摩川線・国分寺線・多摩湖線の五つ。
(中略)
経営陣としては地元とは長年の付き合いがあり、鉄道事業という大規模な不動産開発を行う企業が簡単に撤退していいものかどうか、撤退した場所以外にも悪影響が広く及ぶ可能性を考えれば簡単に判断できるものでは無いだろう。
だだ、このような状況は人口減少社会では必然的な側面もあり、個人的にはとうとう来たか……という思いもある。
(中略)
お客様に話しているのは「あてにしていた大きな病院やショッピングモールなどがなくなってしまえば、それだけで生活に困る。不便になれば移動できる人は引っ越してしまうので、人がドンドン減って加速的に過疎が進む。だから早く買った方が得なんていうことは無い」という話だ。これは「わずか40年で地方都市は消滅し、都会には独居老人があふれる『まだら模様の将来』。」でも書いた話だ。首都圏の住宅購入で廃線のリスクまで考えなければいけない時代になった事は驚きに値する。
地方では乗客数が少ない線路が廃線になった、という話はたまに聞くが、首都圏でしかも都内も走る路線が廃線の危機にあるというのは衝撃的だ。
(後略)
※太字下線は引用者が付した。また、一部の誤字・誤記は引用者が修正した。
■コメント
元記事の時点は一年以上前にさかのぼる。一連の擦った揉んだを経て平成26(2014)年 4月23日に西武鉄道株式再上場した後となっては、交通論として記事にする対象とするには、意義と価値を失ったと考えるのが妥当であろう。また、中嶋氏の記事は常に面白く、かつ社会的意義を伴ってはいるのだが、引用記事は不動産投資を専門とする中嶋氏の問題意識に沿って論が構成されていることに起因し、踏みこみすぎ(誇張しすぎ)ていささか首を傾げたくなる記述も散見される。
それでも筆者は中嶋氏と似たような危機感を覚えざるをえない。西武鉄道はサーベラスの撤退により、このたびは一部路線の廃止を免れた。日本の鉄道事業で投機的に高水準の利益を追求することじたい、サーベラスの感覚がとち狂っていたともいえ、経緯は日本的に穏当なところに落ち着いた。
筆者はここで、真の、しかも「日本的な」危機の存在を指摘したい。投機本位の大株主がいようがいまいが、それどころか好調な経営指標を維持し続けようとも、「路線廃止の危機」は今後も起こりうるのではないか。
筆者がそのように考える理由は単純である。日本の労働力人口は平成 9(1997)年 6月をピークとして緩やかながらも減少傾向が続いている(出典:総務省統計局労働力調査)。少子化・高齢化が深度化していく今後の日本社会では、労働力人口もまた明確な減少曲線を描くことになるはずだ。その必然として、就業者数も減少していかざるをえない。
上記の如き社会的圧力が存在する以上、鉄道(あるいは交通)部門だけが労働力不足に悩むことはない、と楽観するのは無茶である。
交通部門ではトラック業界の労働力不足が顕在化して既に久しい。直近ではパイロットを確保できなかったピーチ更にバニラが減便に追いこまれた。資格不要の職種であっても「すき家」が店員不足から(一時)閉店になった店舗があるらしい。交通部門に限らず、労働力不足は随所に生じており、まさに枚挙に暇ないほどだ。そのなかで、育成に時間を要す鉄道の運転士を如何に確保し続けていくべきなのか。
いすみ鉄道の「自社養成列車乗務員募集」などはあくまで奇策に過ぎない。幅広く応用できる施策とは到底いえない。そもそも、大手の鉄道会社が「運転士資格取得は自己負担で」と言い出した瞬間、その会社は職員に見限られるに違いない。
「運転士退職のため●●線の営業を廃止します」──こんなプレスリリースが打たれる日がこないとは決していえない。労働力不足に対する鉄道会社の危機意識は、最近記事に分野では確実に存在する。その一方で、運転・営業分野の危機意識は薄いように見える。状況の厳しさよりも、その淡泊さがむしろ気掛かりだ。
ワンマン化を実施しても必要な運転士の数は変わらない。JR等が進めている女性運転士起用は、当面有効な施策であろうとも、問題の顕在化が先送りされるだけである。無人運転・プログラム運転など人間の手を介さない列車運行技術を確立していかないと、鉄道事業そのものが行き詰まるおそれがある。
現状の指標推移は緩慢に見えようとも、労働者不足による危機は深く静かに進んでいく。まさしく「日本的な」危機。全体の趨勢を止められない以上、「椅子取りゲーム」の如き結果が待っている。すなわち、これに対応できない鉄道会社は鉄道事業から退出せざるをえなくなるのだ。
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