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存亡の危機に直面——JR北海道台風被害
■交通新聞平成28(2016)年9月6日付記事より
根室・石勝線、3橋梁流出
(中略)
8月30日の台風10号接近により、根室線は新得駅構内の下新得川橋梁と新得−十勝清水間の第1佐幌川橋梁、十勝清水−羽帯間の清水川橋梁が流され、レールが宙づり状態になったり、線路がぐにゃりと曲がって流出。御影−芽室間の芽室川橋梁なども路盤や線路流出が相次いで見つかった。
石勝線トマム〜新得間でも路盤流出などが発生しており、「スーパーおおぞら」などは当面全区間を運休。復旧には数カ月間かかる可能性がある。
(後略)
■コメント
筆者が
留萠線沿線を走っていた時
、天候には恵まれていた。ところが、同じ道内でも、日高山脈から東側で深刻な台風被害が発生していた。根室線はまさしく寸断と呼べるほどの惨状だ。三橋梁流出以外にも、橋脚洗掘、路盤流出などが各所にあり、被害はきわめて甚大である。幹線系の鉄道がこれほど広範囲で被災する事例は珍しい。
石北線も長期運休となりそうだが、それでも10月中旬に特急「オホーツク」の運転再開を目指すとアナウンスされている。特急「スーパーおおぞら」「スーパーとかち」の場合、少なくとも11月末まで運転再開が困難とアナウンスされており、状況はかなり厳しそうだ。 9月 8日より札幌−トマム間臨時特急、トマム−帯広間代行バス、帯広−釧路間臨時快速の運行が始まったとはいえ、一日 3往復の設定のみで、なんとも心細い状況だ。函館線では 9月 3日夕より特急「スーパー北斗」「北斗」の運転が再開された。
台風が三連続で襲来するという事態は滅多になく、かように稀有な災害が発生したのは不運というよりもむしろ、温暖化の影響を考えたほうが正しそうだ。タマネギ・馬鈴薯を中心に農産物被害も深刻と報じられている。広大な地域の農産物が毀損されたという意味においても、この台風被害は類例が乏しい。
記録に刻まれた北海道の歴史は短いといっても、近代史は一世紀半以上に渡っている。その長きに渡る歴史のなかで遭ったことのない災害が起きということは、まさに字義通り「百年に一度の大災害」が起こったといわなければなるまい。それゆえ、被災した事実に対し、JR北海道を責めるのは酷といえよう。
以前の記事にも述べたとおり
、国鉄時代の改良投資は決定的に不足していた観がある。数少ない積極的改良投資事例の北陸本線では、全線の約半分に及ぶ区間を付け替えているが、それでも今日の目で見れば危ない個所は随所にある。建設した当時の旧い防災基準のまま、旧い姿を保っている鉄道路線の如何に多いことか。
近代的設計思想に則って建設された石勝線でさえ被災しているから、災害に対する備えに万全などありえない。根室線の被災箇所の多さからすれば、設計思想の旧さに老朽化が加わり、被災の度が増したのではないかと推測される。前述したとおりJR北海道の責任を問うのは酷と考えるが、その一方で充分な改良投資ができなかったという事実は厳然と存在している。因果は巡らざるをえないのだ。
仮橋を架けて仮復旧という手法にしても、簡単には採れないと思われる。この台風被害が未曽有のものだったとしても、いったん発生した以上は既知のものとなり、対策が求められる。橋梁流出したような河川では、計画高水位が大幅に上がり、治水手法が抜本的に見直される。流出橋梁の原型復旧が、そもそもできるのかどうか。仮復旧にしても安全が要求される。そのような検討に時間を要するがゆえに、復旧には時間がかかるのだ。
基幹となる路線の運行が長期間止まり、復旧工事の負担が重なり、JR北海道の経営が急速に傾く懸念が大きい。JR北海道は決して赤字体質の会社ではない。ところが何故か、JR北海道は資金繰りに苦しんでいる様子なのだ(理由や背景を断定できるほどの証拠は揃っていないが……)。損益計算書や財務諸表を一瞥しただけではわからない、何らかの病巣がJR北海道にはひそんでいる、と見受けられる。
収入の一部を絶たれ、予期せぬ支出が急増……と、悪材料が一時に天から降ってきた。営業に必要な金を回し切らず、朽木倒れに倒れてしまう事態さえありえる。JR北海道は存亡の危機に直面しているといえよう。
■附記
本件に関し、東洋経済に冷泉彰彦が相変わらず変てこな文章を書いている。冷泉明彦の文章は、全体の論旨は妥当なのに、ふさわしい論拠を用いていないから、読むとどうにもムズムズする。荒っぽく論評すれば、結論ありきの展開で、論理的な文章になっていないのだ(Newsweek日本版の連載記事も同様)。東洋経済は鉄道記事の提供が多く、鉄道特集を組むこともまた多いが、その質は玉石混淆である。
■続報:交通新聞平成28(2016)年10月4日付記事より
石北線上川−白滝間が再開
台風による路盤流出などで運転を見合わせていたJR石北線上川−白滝間が 1日、運転再開し、札幌−網走間を結ぶ特急「オホーツク」も41日ぶりに運行した。北見−旭川間を 1日 1往復していたJR貨物の臨時貨物列車(通称・タマネギ列車)の運行も再開した。
(後略)
■コメント
被害が比較的軽微だった石北線の運行が再開された。それでも「オホーツク」41日ぶり運行というから、被災の深刻さがわかる。
今回の台風被害により、貨物列車の社会的意義・重要性を軽んじる傾向のあるJR貨物がタマネギ列車から完全撤退するのではないか、と筆者は危惧していた。本数が大幅減となるのはやむなしとして、タマネギ列車の運行再開は朗報である。
北海道から道外への農産品輸送において鉄道貨物のシェアは高く、野菜類全体で42.6%、タマネギ単品では62.3%に及ぶ(出典:北海道副知事荒川裕生「北海道創世に向けた物流の重要性」第33回日本物流学会全国大会基調講演)。鉄道貨物の採算は措くとして、このような数字に示される社会的意義・重要性を考慮すれば、軽々に撤退などできないはずだ。以上の意味において、タマネギ列車の運行再開は良い報せといえる。
その一方、石勝・根室線の普通は12月まで続く見通しだという。JR貨物は代替輸送に慣れているから何とか対応できるとしても、JR北海道にとっては幹線の運休期間がより長期化しつつあるわけで、減収・増費用の度合が更に深刻化してしまう。危機感を直截に表現するため、敢えて改題してみた。
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