このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
持続可能なスキームか?(みちのりHD)
■交通新聞平成29(2017)年 1月25日付記事より
岩手県北自に来月事業譲渡 南部バス
青森県県南でバス事業を展開する南部バスは、 2月15日をめどに岩手県北自動車に事業譲渡する。南部バスは昨年11月に民事再生法の適用を申請して実質経営破綻しており、地域住民の生活交通確保の観点から県北バスが県境を越えてバス運行を引き継ぐ。
県北バスも2009年(平成21年)に経営危機が表面化。2010年から地域公共交通再生を手掛けるみちのりホールディングス傘下でバス運行を続けており、今回の承継で南部バスも実質みちのり傘下に入る。
(後略)
■交通新聞平成28(2016)年11月22日付記事(全文引用)
東野交通株を東武から譲受 みちのりHD
みちのりホールディングス(HD)は、東武鉄道が保有する栃木県のバス会社・東野交通の全株の譲渡を受ける。東武が持つのは東野の発行済み株式の65%で、譲受が完了する12月 1日には東野はみちのりHD傘下に入る。
みちのりグループの交通事業者は岩手県北バス、福島交通、会津バス、関東自動車、茨城交通、湘南モノレールに次いで7社目。東野の子会社の那須交通、やしお観光バス、東野整備もみちのりグループに入る。東野は1916年(大正 5年)設立で、現在はバスとロープウエーだけだが、かつて鉄道事業(東野鉄道)も手掛けていた。移管後も東野交通の社名やバスは現在のまま残る。
■コメント
地味、というよりもむしろマイナーな話題なのだが、続けて目に留まったのでコメントしておく。
筆者はかつて「
南部鉄道史序論
」という記事を書いている。実際に乗車するどころか、車両などを見た経験すらなく、更には現地調査もせずに執筆した、横着きわまる記事だが、筆者には南部鉄道に多少の関心があったゆえに記したものである。筆者は幼少時白黒TVにて、宙ぶらりんになった軌道の映像を見た記憶を持っている。おそらくは十勝沖地震の被災状況を伝えるものと思われ、今となってはどの鉄道か特定困難ではあるものの、南部鉄道であろうと今でも思いこんでいる。——といった類の関心である。
東野鉄道(東野交通)は拙「志学館」開設初期、記事化を試みた対象である。母の学生期、通学に使っていた鉄道で、筆者幼少時祖父葬儀に列席した際、オンボロ車両の窓から外を見ている筆者の写真が残っていた。東野鉄道に関してはRMライブラリがごく初期に良本を提供しているし、筆者自身年齢を重ねてきてしまった昨今、創作意欲は湧かない。今後も執筆することはないだろう。
その東野鉄道(東野交通)と南部鉄道の話題が続けて交通新聞に載った。……いささか冴えない話題ではあるが。要するに、昭和40年代に鉄道営業を廃止したバス会社二社が、片や経営破綻して、片や大手私鉄の庇護を離れ、新興資本のグループ会社にとりこまれた、という話題である。
大手私鉄による地方交通救済は、大部分の事例で巧くいっていない。典型例が名鉄で、経営に乗りこんだ地方鉄道の多くが営業廃止(東濃鉄道全線・北恵那鉄道全線・北陸鉄道の大部分)となるか、経営悪化のすえ撤退に追いこまれている(福井鉄道・大井川鉄道)。
東武鉄道も似たような状況で、公式HPではグループ会社はバス会社のみとされているものの、実際には上毛電気鉄道や野岩鉄道にも資本参加している。だいぶ昔の話となるが、筆者がインタビューした東武のある方は、上毛・野岩に関して興味深い発言をされていた。以下、筆者手許のメモより。
「北関東方面への事業展開はもう懲り懲り。野岩鉄道(当時20.5%出資)の利用者は減少を続けている。県は観光路線に対して生活路線維持としての補助を出すことに抵抗がある。上毛電鉄(当時43.3%出資/社長を派遣)の経営もかなり苦しい。県が路線維持に理解を示しているからまだいいが」
失敗とまでは受け止めていないとしても、相当な負担感がうかがえる。実際のところ、野岩鉄道輸送密度(通年)ピークは平成 3(1991)年度の 1,983名/日km、ここ十年ほどピーク時の半分以下、 1,000名/日km未満の水準で推移している。補助金の投入を受けるようになってもなお最終的には損失が出ており、資本金を食い潰しつつ営業を続けている状態に近い。リバティ投入、更には「SL『大樹』」運行により、鬼怒川線含め活性化を図ろうとする発想が、そこはかとなく見えてくる。
そんな東武鉄道が東野交通の親会社になっていたとは不覚にも知らなかった。資本参加は昭和38(1963)年と古いうえ、「東武鉄道百年史」本編に記述がなく、年表にただ一行事実が記されているだけの小事件扱い、筆者認識の外側だったのはまさしく不覚だ。
それにしても、下野電気鉄道買収(事実上おそらく救済合併)の矢板線を廃止した直後の時期に、新たに東野鉄道へ資本参加した東武鉄道の経営判断は面白い。東野鉄道は需要零細ではなかったとしても、車両ほか設備の老朽劣化が酷かったのは明らかで、更新投資を追いつかせるための支援だったのだろうか。もっとも最終的に65%株式保有にとどめていたわけで、半身の構えであったともいえるが。
半世紀以上の長い時を経て、東武鉄道は東野交通の株式を手放した。東武は東野の経営再建に成功しなかった。否、いな。東武に同情的な表現に改めてみようか。今日なお野岩鉄道へのテコ入れを続ける東武鉄道にして、経営からの撤退を決断するほど、東野交通の経営環境には厳しいものがあった。……どちらがより実態に近いのか、判断は読者諸賢に委ねることにしよう。
筆者はこの報道で、みちのりホールディングスの名を初めて知った。東野交通に関するプレスリリースには「当社は、広域にわたる複数の交通・観光事業会社の持株会社として、株式会社経営共創基盤の 100%出資により設立」と自己紹介されている。みちのり傘下となった会社のうち、鉄道由来のものは以下に挙げるとおりである(平成29年初時点)。
・南部バス(南部鉄道)【みちのりホールディングス100%株式保有】
・福島交通------------【同100%株式保有】
・東野交通(東野鉄道)【同 65%株式保有】
・茨城交通------------【同100%株式保有】
・湘南モノレール------【同 92%株式保有】
……なんというか、脈略の乏しいつながりだ。どのように経営の安定を図っていくか、道筋が見えにくくもある。岩手県北自動車会社のプレスリリースには、
「本譲受は、窮地に陥った南部バスの事業をまずは維持することを喫緊の目的としていますが、私どもは、これを契機として地域の交通と観光の活性化が実現するように、地域の皆様方と連携し、新たに私どものグループの一員となる南部支社の社員と共に努力を重ねてまいります」
と記されている。「喫緊の目的」を掲げる志は素晴らしくとも、人口減少が深度化するなか、客観的状況は厳しいはず。支出増を抑えつつ収入増を図るため、具体的にどのような手が打たれるというのだろうか。情報提供が抽象的・観念的で具体性に欠け、方法論がまるで見えてこない。並み居る大手私鉄が達しえなかった地方交通の救世主となるのか、一時の徒花で終わりまるっと衰亡していくのか。いまはただ表題に掲げた危惧のみを表明し、今後の推移に注目していきたい。
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください