このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





開業初電レポート





■早朝

 前夜は岳父に夕食を振る舞われ、酔いが回って早々に眠りこんでしまった。さりながら、目覚まし時計との勝負にはいとも簡単に勝った。新幹線や航空の始発に乗る行程を頻繁に組むせいか、早起きには慣れてしまっている。目覚めた時刻は「いつもの」 4時であった。

 準備を整え、寝入っている長男を揺すってみる。「行くか?」と問えば、もそもそっと起き出してきた。日頃は寝坊介だというのに、今日はやる気満々である。

 環七に出て流しのタクシーを待つ。当然といえば当然ながら、ほとんどが回送で、なかなかつかまらない。こんな早朝にタクシーを拾おうなんて、相当奇特な客であろう。10分ほど待ち、タクシーに乗ったのは 5時前後で、舎人公園に到着したのは 5時 5分頃。駅舎全景を撮影してから、行列に加わった。

舎人公園駅
舎人公園駅早朝風景


 舎人公園駅には東西両側に出入口があり、それぞれ30名ほどの行列ができていた。駅名のとおり周囲を舎人公園に囲まれており、駅直近の人口は皆無、かつアクセスがタクシーや自転車などに限られることを考えれば、まずまず多い人数といえる。知名度が高い路線とは思えないので、なによりの出足である。

 曇りがちながら晴と呼べる天候で、筆者は寒さを感じなかったものの、長男にとっては寒い気温のようだった。 5時20分頃、シャッターが開く。当方にとっての待ち時間は極小であり、長男が耐えられる範囲におさまったのはありがたかった。

舎人公園駅
舎人公園駅のシャッターが開く瞬間


 券売機はわずか二台。しかも記念一日乗車券は一枚ずつの販売で時間がかかる。当方が間に合うのは確実としても、後ろにはさらに長い列ができている。せっかくシャッターが開く前から行列していた方でさえ、初電に間に合わない事態が起こるかもしれない。開業初日の特異現象である一方、強い思い出が残る日であるだけに、対面販売でさばくという発想があってもよかったと感じる。

 直前の方がタッチ式の自動券売機に慣れておらず、しかも購入枚数が多く、焦ってくる。操作を手伝い、ようやく当方の順番になる。ここで長男が間違ったボタンを押してしまい、時間と金のロス(苦笑)。焦りながらようやく、大人 1枚と小人 1枚の一日乗車券を購入した。一日乗車券に刻まれた通算番号は0032と0033、発券時刻は 5時31分であった。

※開業記念の一日乗車券を、駅により意匠を変え、各駅千枚限定という売り方をしたのは、あこぎな商売だと思う。参考までにいえば、10時41分に西新井大師西で購入した妻のものは通算番号0364だった。毎分一枚以上の売れ行きで、自動券売機の発券能力を考えれば、かなり売れたと見ていいだろう。

一日乗車券
舎人公園駅発行の一日乗車券


 この時点の行列後方では、開業初電に間に合わない可能性が高い。それでも(あくまでも筆者が耳にした限りでは)怒号が飛ぶわけでもなく、穏やかに進んだのは救いであった。また、日暮里・舎人ライナー全体の初電は 5時40分発見沼代親水公園行であっても、その折返し日暮里行開業初電に乗れる、という状況が効いていたのかもしれない。





■真の開業初電

 自動券売機がボトルネックとなったため、幸か不幸かと呼ぶべきか、混雑は整流された。開業初電を狙う方々は、まさに散発的にホームに上がってきており、時間が経つにつれてそのぶん席が埋まってくる。発車時刻間際になってくると、勢いよく駆け上がってくる方もいた。

舎人公園
開業初電が待機する舎人公園ホーム端部の様子


 折返し日暮里行の先頭車に陣取ろうかと考えたものの、大混雑が簡単に予測できるので、見沼代親水公園行の先頭車に座る。やはりというか、前面展望にかぶりつく方々が多い。筆者は開業初電に乗ることじたいが目的なので、前面展望にこだわりはない一方、長男は未練たっぷりの様子。沿線に住んでいる以上、ゆっくり座って鑑賞する機会がいつか必ずあるはずなのだから、焦ったり慌てたりする必要はないのだ。

開業初電
舎人公園出発直後の先頭車


 開業初電は淡々と動き始めた。特段のセレモニーもなく、まったく普段着の様子である。もっとも、開業初日という高揚感はある。報道のほか、足立区の広報担当者が複数名動き回っており、本日が特別の日であることを思い起こさせる。

 その広報担当者と話す機会があった。彼は「もっと多く来ると思っていた」という見解を示していたが、この時刻のこの場所にこれだけ集まることへの驚きと感動が薄いのかもしれない。筆者にしてみれば、「予想外に多数の人出」である。

 わずか二区間、開業初電はあっけなく終点、見沼代親水公園に到着する。ここで「一旦下車してください」とアナウンス。予測できたことではあるが、見沼代親水公園のホーム相当数の乗客が待っており、混雑整理が必要なのであった。そしてこれが、想像を絶する大混雑の序章となったのである。





■日暮里行開業初電

 そこにいた瞬間には灰神楽が舞うように思えても、後から顧みれば、見沼代親水公園はまだ静かだった。ホームも車内も下の写真のような状況で、まだまだ穏やかなものだった。

見沼代親水公園 開業初電
見沼代親水公園での日暮里行開業初電の様子  左:ホーム 右:車内


 長男は最後部展望につき、筆者は混雑に備え通路中ほどに立った。日暮里行開業初電は 5時47分定時に、これまた淡々と発車する。舎人ではそこそこ、舎人公園以南では駅毎にかなりの数が乗ってきた。高架からの風景を楽しむどころではない。撮影した場所の記憶が定かでないものの、谷在家か西新井大師西あたりで撮った車内風景がこれである。

開業初電
谷在家or西新井大師西付近での日暮里行開業初電車内風景


 江北・高野・扇大橋からは予想どおりさらなる多数が押し寄せてきた。車内はほとんど寿司詰めとなり、新交通システムとしては想定しにくいラッシュ・モードとなった。出発当初はクリアに見えた車窓風景だったのに、窓ガラスが曇ってしまい、雲中飛行の様相を呈してきた。始発電車としては遅い時刻の出発とはいえ、まさかこれほど混もうとは。

開業初電
扇大橋出発直後の日暮里行開業初電車内風景


 この混雑は軌道系交通を待望していた荒川以北ゆえの現象であって、足立小台以南での乗車は少ないはずだ、と思いこんでいたところ、あに図らんや、熊野前で最後のひと波がやってきた。ここは中央快速線か、と思わせるほどの大混雑である。後に知ることになるが、この日は都電も終日に渡り混んでいた様子だ(日暮里・舎人ライナー試乗+荒川遊園でのイベント+飛鳥山公園の花見)。

開業初電
熊野前出発直後の日暮里行開業初電車内風景


 この写真は、今までと異なり後ろ側を撮ったものである。本当ならば右手の空間に長男が存在するはずだが、人混みにすっかり埋没してしまっている。長男のほか、少なからぬ数の児童・幼児が開業初電に乗りこんでいた様子。大混雑に揉まれながらも、結果として怪我人が出なかったのはまったく幸甚であった。





■日暮里にて

 この状況から判断すれば、折返し見沼代親水公園行開業初電の様子が容易に想像できてしまう。急カーブを右に折れ、終点日暮里にほぼ定時到着。ホーム上は、想像どおりとはいえまさに黒山、げんなりするほどの人出であった。

開業初電
日暮里にて見沼代親水公園行開業初電後尾を撮影を試みる群衆


 当初の構想では、そのまま折返す予定であった。筆者単独であれば、混雑を冒して強行した場面であろう。ところが本日は長男同伴、無理押しができる状況とはいえず、見送りを即断した。筆者は「開業初電マニア」を自負しているものの、「趣味的完璧性」の優先順位は、日常生活と比べればかなり低いのである。

 生じた時間を日暮里周辺の調査に充て、最後には日暮里行電車を迎え撃った。

日暮里
日暮里に到着した開業三番列車






■その後

 一旦帰宅して朝食をとり、今度は妻と娘も加えて試乗+駅付近調査に繰り出した。結果からいえば、混雑はほぼ終日続いた。一列車に目の子 400名ほどが乗車しており、しかも(おそらく急遽の臨機措置で)19時頃まで 5分間隔で列車を出していた。無人運転可能なシステムの強みである。日暮里・舎人ライナーはあくまでもローカルな交通機関であり、広く知られているとは想定していなかったので、開業初日にこれだけの人出があったとは、沿線住民の一人として素直にうれしい事態であった。

一日乗車券
西新井大師西駅発行の一日乗車券


 一時間あたりの動員実績を大まかに計算すると400×12×2= 9,600名となり、おそらく終日では10万名を突破したと思われる。まことに慶賀すべき活況ぶりである。

 混雑は16時台まで続いており、17時台にようやく空き始めた。午後から降り始めた雨が開業初日の熱気を冷却した、のかもしれない。日常的な雰囲気が戻り始めた車内は、日中の混雑が幻だったかの如く、けだるく虚ろな空気が漂っていた。闇夜の静寂を雨粒が彩る様子は、得体の知れない不安を覚えさせるものだった。翌月曜以降の利用状況がどうなるか、一抹の不安も感じられないわけではなかった。

西日暮里
西日暮里に到着した見沼代親水公園行列車


 翌日の新聞報道での扱いが小さいことも気になった。筆者が確かめた限りでは、読売・毎日(それぞれ都民版)が写真付二段抜き記事、というコンパクトさである。ちなみに、両紙とも横浜市グリーンライン開業についてまったく触れていない。産経や日経に至っては、日暮里・舎人ライナー及び横浜市グリーンラインとも無視するという徹底ぶりである。日暮里にはテレビ東京のカメラがきていたというのに、系列の新聞はおそろしく冷淡だ。

 扱いの大きさを通じ、交通機関に対し無言の評価を加えた新聞。開業初日という「祭」の機会をとらえ、無邪気かつ無批判に参加した群衆。どちらが良いとは論評しかねる構図ながら、見沼代親水公園行開業初電の極端な混み方を見る限り、いま少し冷静な臨み方でも充分だったように思われる。開業初日という「機会を消費された」だけで終わっては、あまりにも詰まらない。もっとも、せっかくの「祭」なのだから理屈抜きで楽しむべき、という考えも成立するはずだから、角立つ野暮をいうのは控えておこう。

舎人公園
舎人公園駅遠景


 日暮里・舎人ライナーは、実際のところただのローカルな交通機関にすぎない。しかしながら、論ずべき断面は多々備わっており、良否両面における教科書となりうる可能性もある。筆者は当面、各駅の造作(特に駅前広場とバス接続)について論評していく構想を持っている。地味な軌道系交通にも、見どころは相応にあることを、広く知って貰えればおおいに幸いといえよう。



 注:写真は全て平成20(2008)年 3月30日撮影。





元に戻る





このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください