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━━ 日暮里・舎人ライナー開業シリーズ そのⅡ ━━
点と面
■挟撃される東武伊勢崎線
東武伊勢崎線は足立区内において、平成17(2005)年夏に開業したつくばエクスプレス、そして来年開業する日暮里・舎人ライナーに挟まれる形になる。これが利用者動向に影響しないはずがなく、おそらく利用者減少になることは必然であろう。しかしながら、無策のまま手を拱いているわけでは決してない。平成15(2003)年に開始し、平成18(2006)年 3月のダイヤ改正で拡充した半蔵門線への相互直通運転は、都心への新たな直通ルートを開拓し、利便性を訴求する試みといえる。
最新 50000系の東武伊勢崎線半蔵門線直通列車
さらに東武伊勢崎線は内外の「資源」に恵まれている。ある部分では自ら手がけ、ある部分では都市側が開発し、と役割は分担されているものの、いずれも沿線人口増加さらに集客力向上につながることは間違いない。この「資源」について、日暮里・舎人ライナーと対比する形でレポートしてみよう。
■東武伊勢崎線西新井付近の開発
東武伊勢崎線はもともと開業当初、北千住から西新井までの間をほぼ最短経路で結んでいた。ところが、荒川放水路新設に伴い、大正12(1923)年に北側への迂回を強いられることとなった。この旧線と現在線に挟まれる三角地に、西新井工場が立地していた。
東武鉄道西新井工場跡地再開発の様子
(写真左端が現在線の架線柱)
(防護壁左端からまっすぐ奥が伊勢崎線の旧本線跡に相当)
西新井工場は平成16(2004)年、南栗橋工場に統合のうえ廃止された。その後しばらく更地のままで据え置かれていたが、日暮里・舎人ライナーが開業しようというまさに今、巨大なマンションとして再開発されようとしている。
東武鉄道西新井工場跡地再開発の宣伝
鉄腕アトムをアイキャッチにして先進性を訴求する意図があると見受けられる広告だ。東武鉄道が主体的に開発している、という点では時代の変遷を感じる(関東大手私鉄の中で東武は不動産部門に熱心といえなかった)。半蔵門線直通というオプションが加わった今日、この場所は都心への通勤でも充分に便利であるし、周辺環境にもアドバンテージがあるから、相応の成功をおさめるものと思われる。
その周辺環境について。上の写真の手前側は、実は引込線の跡である。その痕跡を追跡してみよう。
日清紡への引込線跡
時代が変遷しても、駐車場の区画に名残が歴然とわかる、引込線跡である。西新井駅の西口にはかつて日清紡の工場があり、東武伊勢崎線の貨物列車が輸送の役を担った時期があった証拠でもある。例えば
この航空写真
では、引込線上に車両がいることまでわかる。
日清紡の工場は、西新井駅前の広大な面積を占有しており、また高い塀に囲まれていたため、駅前の眺めは殺風景このうえなかった。駅前通も幅員が狭く一方通行となっていたから、片側に塀が連なっていることとあわせ、雰囲気が重苦しかったものだ。その日清紡工場が操業をやめ、跡地に再開発の手が加わり、風景はまさに一変しつつある。
西新井さかえ公園全景(朝)
この写真こそ再開発の象徴である。左手には開業直後のショッピングセンター(アリオ西新井)、正面にはほぼ完売に近い高層マンション、右手には現在建設中のマンション、手前には都市公園が見える。朝のうちに撮影したので人気が乏しくなっているが、日中はこのように賑わう。
西新井さかえ公園全景(午後)
近隣住民に加え、ショッピングセンターからも人が流れてくるから、雰囲気はなんとも明るく、活気にあふれている。風景はここまで変わるものなのだ。
工場跡地の再開発というと、マンションやショッピングセンターなどの単発となる事例が多いなか、日清紡の場合は広大な面積があったためか、複合的な開発が進められている。病院などの新設も予定されているから、コンパクトな市街地が新たにできることになる。開発の主体は都市再生機構、さすが政府系機関が関与すると規模宏壮な街が仕上がるものではある。
■アリオ西新井
ショッピングセンターは、うまく当たれば地域開発の核になりうる。いま少し注目してみよう。アリオ西新井は11月初旬から営業を始めている。以前と比べ倍以上に拡幅され、歩道も充実し、雰囲気も格段に明るくなった駅前通と尾竹橋通に接しているので、歩行者・自動車どちらから見ても立地は良い。
アリオ西新井近景
環七周辺のアリオといえばアリオ亀有が先行している。アリオ亀有は週末になると環七に渋滞を惹起するのに対し、アリオ西新井は周辺道路にさほどの影響を与えている様子はない。多数の交通整理員が動員されてはいるものの、その役割は専ら歩行者の保護である。「止まってください!」と大書した赤旗を掲げて自動車を止めるさまは、歩行者・自転車にとってはおおいに心強い。
アリオ西新井交通整理
だからといって、アリオ西新井が流行っていないわけではない。店内は買物客でかなり混んではいる。面白いのは、アクセス手段の主力が自動車とは必ずしもいえない点にある。自動車の入庫待ち渋滞は明らかに短く、そのかわり多数の自転車が殺到している。
アリオ西新井近景(駐輪場に注目)
案内によれば、駐車場は 1,550台、駐輪場は 1,500台ぶんが用意されているとのこと。とはいえ、駐輪場は満杯を超えることもままある様子で、ほんらい正規でない場所にまで自転車が置かれている。上の写真でいえば、手前側の列は歩道にはみ出した非正規の駐輪である。ひょっとすると、最混雑時間帯では 2,000台近い駐輪があるかもしれない。
自転車アクセスにも重点を置いたというあたり、アリオ西新井は足立区民の特性をよく把握しているといえる。それが一般的現象と呼べるかどうかは措くとして、この地に根を張るという意味において、成功の素因となることは間違いなかろう。
※参考までにいえば、アリオ亀有では駐車場 2,000台、駐輪場は 2,030台ぶん用意されているようだ。上には上があるともいえるし、それ以上に、自転車アクセスにも重きを置くアリオの戦略展開はたいへん興味深い。
■日暮里・舎人ライナーでは
自動的・他動的に面的開発を展開する東武伊勢崎線に対し、攻めこむ側の日暮里・舎人ライナーはどうか。こちらには目立つプロジェクトはないに等しい。民間ディベロッパーのマンション開発が散在する程度で、「点」にとどまっている。
日暮里舎人ライナー扇大橋全景(左側が足立小台駅)
例えば足立小台駅付近。隅田川と荒川放水路とに挟まれた狭隘な陸地に設けられた駅で地形的条件から駅直近の開発余地は少ない。手前側には近年開業した家電量販店、向こう側には以前からある家具の工場または倉庫、その奥に近年新築されたマンション。たったこれだけである。足立小台駅設置の意図は実に興味深く、おそらく宮城地区へのアクセスにあるのだろうから、駅直近はたとえ無人でもかまわないのかもしれない。しかしながら、さびしい印象を与える風景ではある。
日暮里舎人ライナー扇大橋駅付近
例えば扇大橋駅付近。近年新築のマンションが左手に見える。このマンションは温泉水供給をセールスポイントにしていた(ただし自前井戸ではなく別の源泉から車両で運搬)はずで、付加価値がついた物件であることは間違いない。とはいえ、この一棟だけが孤立している印象も伴い、客観的に見ても面的な広がりに欠けているのは明白だ。
日暮里舎人ライナー江北駅付近
例えば江北駅付近。こちらでは複数の開発案件が動いている。上の写真のアングルでは極めてわかりにくいが、高架向こうのオレンジのクレーンはマンション新築(一階に既存スイミングスクール<現在は工事のため休業中>併設)、その奥が別の新築マンションである。
日暮里舎人ライナー江北駅付近
既に完成した新築マンションを近くで見ると、上の写真になる。アリオ西新井の看板が手前に掲示されており、小規模ながら「地域間競争」の様相を呈している。
日暮里舎人ライナー江北駅付近
これは上の写真から視点を変え、江北駅を撮ったもの。これまた極めてわかりにくいが、高架向こうではスーパーマーケット(ショッピングセンターではなく)の新築中で、さらに奥には古くからある高層団地が見える。スーパーマーケットはゴルフ練習場を転用したもので、土地流動化のダイナミズムはいちおう働いているものの、西新井駅付近の大変貌と比べれば如何にもインパクトに欠ける。
西新井大師西以北では低層住宅が基本であり、高層住宅が開発される可能性が高いとはいえない。かといって、大規模ショッピングセンターが立地しうる適地も見当たらない。また、舎人公園への新東京タワー誘致も実を結ばず、墨田区に持っていかれてしまった。
こうしてみると、開業を控え華々しく採り上げられる機会の多い日暮里・舎人ライナーではあるが、沿線開発の進展は点々とした斑模様の段階にとどまっている。これに対して東武伊勢崎線沿線、とりわけ西新井駅付近の開発は大市街地構築に等しく、その影響力は相当な広範囲に及ぶものと思われる。軌道系交通機関の単純な競合だけでなく、(ミクロな範囲ながら)地域間競合の視点をも織り交ぜてみると、東武伊勢崎線の地位を揺るがすことの至難さが見えてくるというものだ。
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