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━━ 日暮里・舎人ライナー開業シリーズ そのⅥ ━━
利用者の選択は実際にはどうなるか?
■東京新聞平成20(2008)年 2月23日付記事より
人気殺到「日暮里・舎人ライナー」 / ラッシュ時、乗れる?
(前略)
新ライナーは 5両編成で定員 300人。現在のバスの輸送能力を大きく上回るが、従来のバスと鉄道を利用した場合より運賃が割安のため、地元から「乗客が殺到する」と不安が出始めた。
例えば、始発駅「見沼代親水公園」から東京駅に出る場合、新ライナーとJR山手線を利用すると、運賃は 470円、約30分で到着する。現在は、始発駅近くの「舎人二ツ橋」バス停から東武バス、東武伊勢崎線、JR常磐線、京浜東北線と乗り継いで 580円、約 1時間もかかっている。地元では「乗り換えが少なく所要時間も半分になって、さらに安い」などと評判だ。……
……
見沼代親水公園駅近くに住む農業○○さん(60)は「埼玉県側からの乗客も一気に流れ込む」と話す。
都は……「輸送能力に問題はない」と積み残し発生を否定する。区の担当者は「利用者が多いのはいいが、積み残しはないと信じるしかない」と祈る毎日だ。
(社会部・藤原哲也)
※漢数字はローマ字に変換した。また、公人とはいいにくいことを考慮して、人名は伏字とした。
■コメント
読者を煽るのがマスコミの社会的使命、と割り引いて考えたとしても、これほどひどい内容の記事は久々に見たような気がする。この記事の著者は需要予測の「じ」の字どころか「゛」すら知らないのではないか。最後の一文の強引なまとめ方には、呆れるほかないほどだ。
確かに、舎人付近のピンポイント、しかもバスアクセスの東武伊勢崎線経由で比較するならば、日暮里・舎人ライナーの利便性には絶大なものがあり、利用手段を転換することは間違いないところだろう。しかしながら、そのような利用者層の絶対数がどれほどいるというのか。積み残しが出るほど多くの利用者が転換するというのか。
そもそも、需要の太宗を占めるであろう旧江北村の範囲(扇大橋−谷在家間)から見れば、日暮里・舎人ライナーは速達性が向上する一方で、運賃水準も大幅に上がってしまうのだ(普通運賃で 200円→ 270円即ち35%増)。里48のサービス水準が、少なくとも当面、朝ラッシュ時にはある程度維持されることを考慮すると、利用者がどのような選択を行うか、事前段階では読み切れない部分が残る。
江北駅付近を南進する里48
いずれにせよこの記事の著者は、路線末端の局地的事象のみを切り取って日暮里・舎人ライナー全線にあてはめようとしているわけで、発想はまったく非科学的かつ非論理的である。木を見て森を見ない発想ともいえる。もっとも、このような記事から見えてくるのは、利用実績が需要予測を下回った場合の批判は常套手段で、利用実績が需要予測を大幅に上回り積み残しが出ても批判ができる、というマスコミの手法である。新聞記事を書くのは楽なもの、と思わざるをえない。
ちなみに、現在の里48の朝ラッシュ時運行本数に一便毎の利用者数(仮定として多めの数字)を乗じ、それが全数日暮里・舎人ライナーにシフトするとして、朝ラッシュ時運行本数と一列車毎の定員で割り戻すと、混雑率は 100%を軽く下回るのだが……。日暮里・舎人ライナー利用促進という観点からすれば、積み残しが出る混雑はむしろ望ましいほどである。もっとも、おそらく実際のところは、開業初日を過ぎれば閑散とした利用状況になるではないか。一列車毎の定員が多いだけに、閑散ぶりは目立つに違いない。
■追加コメント
以上までは、現状の延長線上で考えた話。引用記事を改めて読みなおしてみると、実はかなり凄い──トンデモナイと形容した方がより正確だろうか──ことが記されているとわかってしまった。もっとも、この点は記事に責があるのではなく、東京都交通局の見識にかかわる部分になる。需要予測の精度は、如何ほどなのか。
着工前の1995年、都は新ライナーの一日の利用者を十万人と予測した。都が出資する公共交通の赤字が目立ったことから、2003年には五万九千人に下方修正。これに基づいて、新ライナーの車両編成などが決まった。
下方修正された需要予測を合理的数字だとしよう。一日の利用者は往復あわせ59,000人。どれほど軽く見積もっても、朝ラッシュ時の混雑率は120〜150%以上にまで達してしまう。車体の大きい鉄道と異なり、通路幅が狭く押しこみがきかない新交通システムにとって、混雑率 150%は超満員の状態に近い。時間帯によって積み残しが生じたとしても、決して不思議ではない数字だ。
合理的予測に基づき設定された輸送力であるはずなのに、積み残しが出かねないというのは、矛盾した状況というしかない。真実はいったいどこに潜んでいるのか。「正解」は年度が明ければすぐにわかる。
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