このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
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トネリンとフーガ・二単調
意訳:日暮里・舎人ライナーと里48との遁走曲二題話
■交響曲第九
ベートーベンが著名な曲を数多く残しているなかで、筆者が最も好きなのは交響曲第九である。理由はごく単純、合唱パートを歌えるからで、だいぶ昔のことながら市民参加のコンサートに参加した経験もあるので、CDを聴くたび力が入るほどである。
そのCDといえば、開発段階で録音時間の設定にあたり、交響曲第九がおさまるように決められた、という説を聞いたことがある。交響曲第九を一枚におさめられなければCDの技術的価値はない、とする伝説のようなもので、これが事実であるならば交響曲第九が音楽史に与えた影響は大なるものがあるといえよう。ちなみに、スメタナの「わが祖国」は当初二枚組のものが多く、一枚におさまる演奏が出るまでしばらく時間がかかったことと対比すれば、両曲が音楽史に与えた影響の大きさがそこはかとなく知れる話題となる。
交響曲第九のなかでも筆者がとりわけ好きなのは、第四楽章17分20秒頃から18分40秒頃にかけての遁走曲(フーガ)となる合唱である。ここは聴いていてもかなり燃えるので、筆者はこの約 1分20秒だけを繰り返し聴くことも多かったりする。まったく異なる二つの歌詞が綾なすように重なりながら繰り返されるさまは、交響曲第九の真骨頂といえる箇所だと思える。
そう、遁走曲なのである。逃げ水の如く同じ歌詞が繰り返されるのは、それじたいに趣があり、感動と興奮が伴う楽しみを得ることができる。交響曲第九においては珠玉の 1分20秒である。
以上、まったくの余談ながら、遁走曲の面白さを紹介したくて記してみた。
■日暮里・舎人ライナーと里48との遁走曲(第一楽章)
さて、ようやく本題である(笑)。
ある平日、日暮里・舎人ライナーに乗車しようと江北駅に赴いたところ、ちょうど駅前交通広場に里48が到着したところだった。これはどちらが速いか興味深い、と思いながら乗車券を購入し、日暮里・舎人ライナーの到着を待った。
明治通との交差点で滞ることが多い里48
江北駅前にて 平成20(2008)年撮影
次列車を待ったぶん、里48が先行して逃げを打つ形となった。道路が空いていたため、順調に進んでいく。とはいえ、遅れて出発した日暮里・舎人ライナーの高速性は里48以上に素晴らしく、赤土小学校前を過ぎたところで追いついた。尾久橋通と明治通との交差点は渋滞が起こりやすい箇所で、ここが滞っていれば里48は完敗というところである。たまたま渋滞はなく、里48も追い上げたものの、筆者が日暮里駅東側出口から路上に出るのと、里48が終点停留所に着くのがほぼ同時であった。
渋滞知らずで高速性にすぐれる日暮里・舎人ライナー
日暮里にて 平成20(2008)年開業初日撮影
……以上の断面のみを比較すると、日暮里・舎人ライナーと里48の高速性はほぼ同等、と思われるかもしれない。しかしながら、運行本数が懸絶している(平日日中で日暮里・舎人ライナー: 8本/里48:2〜3本)点を考慮すれば、待ち時間の差もまた懸絶していると考えなければるなるまい。
江北駅前で待ち時間ゼロ、しかも道路が空いていてようやく、日暮里・舎人ライナーと所要時間が同等というのでは、里48の高速性は相対的に劣後するとみなすべきであろう。
■日暮里・舎人ライナーと里48との遁走曲(間奏曲)
ある土曜日、日暮里駅付近に所用が生じた。日暮里・舎人ライナーに往復乗車する出費を節約するため、クルマを出すことにした。
阿弥陀橋交差点で「はるかぜⅩ」の後ろについた。「はるかぜⅩ」は信号の少ない裏道を行き、こちらは幅員が広い一方信号待ちが多い尾久橋通を行く。ここでも遁走曲の場面が生じたわけだ。結果は意外にも、扇大橋駅前交差点には当方が先着した。当日の尾久橋通が、(少なくとも扇大橋以北では)如何に空いていたかがわかる。
都市計画道路を快走する「はるかぜⅩ」
扇大橋駅付近にて 平成21(2009)年撮影
ところが、快調だったのは熊野前立体交差まで。そこから先はすっかり滞ってしまった。時間ばかりがじりじりと過ぎていく。例によって明治通との交差点が詰まったわけだが、当日はなんと、工事のため右折車線を含めた二車線を潰していたのであった。これは特異な状況であるとしても、道路交通の定時性に関する不安定さが如実にあらわれた断面、ということはできるだろう。
■日暮里・舎人ライナーと里48との遁走曲(第二楽章)
ある日曜日、娘を連れて日暮里・舎人ライナーに乗車しようと江北駅に赴いたところ、ちょうど駅前交通広場に里48が到着したところだった。これまたどちらが速いか興味深い、と思いながら乗車券を購入し、日暮里・舎人ライナーの到着を待った。
次列車を待ったぶん、里48が先行して逃げを打つ形となった。道路が空いていたため、順調に進んでいく。とはいえ、遅れて出発した日暮里・舎人ライナーの高速性は里48以上に素晴らしく、赤土小学校前を過ぎたところで追いついた。
渋滞知らずで高速性にすぐれる日暮里・舎人ライナー
舎人公園にて 平成21(2009)年撮影
車窓から見える明治通は空いており、このぶんでは今回も同着か、と思いながら日暮里駅前に降り立った。ところが、里48はなかなかやってこない。娘連れの遅い足取りながら、日暮里駅前にいる間、里48の姿は見えなかった。どうやら、尾久橋通と明治通との交差点でひどい渋滞があった模様である。
これではもはや勝負になるまい。江北駅前では待ち時間ゼロ、しかも尾久橋通が空いており滞っているのは明治通との交差点だけという状況で、日暮里・舎人ライナーに遅れをとるのだから、里48の高速性は相対的に大きく(それもかなり大きく)劣後するとみなすべきであろう。
利用者が雪崩をうって日暮里・舎人ライナーに集中するはずである。里48が如何に安価な交通機関であろうとも、高速性でこれだけ劣れば、利用者の視野からは遠ざからざるをえないことがよくわかる。
日暮里・舎人ライナーの利用実績が好調である理由が浮き彫りになった断面、といえるかもしれない。遁走曲はどうやら、交通の世界でも効能を発揮するようだ。
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