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大雪、舎人んを止める。





■序章

 アリオ西新井で長男坊の靴を購入したのは、平成25(2013)年 1月13日(日)の午後であった。時間帯の割には混んでいるな、というのが率直な印象だった。夕方に別の所用を入れていたため、この時は最短時間の滞在で帰宅した。

 翌 1月14日(月・成人の日)午前、目当てと違う靴を買ってしまったことが判明した。食糧の調達も必要だ。天気予報は雨のち雪。窓から見える景色は土砂降りである。我が家の買物は夕刻出発が通例ながら、天気予報と昨日の混雑から買物は早めに終えるに如かずと判断し、10時20分頃に家を出た。アリオ西新井の駐車場は、屋上を除き屋内立体駐車場だ。雨が降っていても濡れる心配がないのはありがたい。

 買物を終え、駐車場に戻って驚いた。午後から雪という予報だったはずが、正午前から雪が降り始めている! すっかりくつろいで「清水良太郎ショー」に見入っている妻と、書店で立ち読みしている長男坊・娘を慌てて呼び集め、そそくさと帰宅する。

 信じがたいことに、自宅出発から 2時間も経っていないというのに、自宅前の道路には雪が積もっていた。駐車場入口のスロープでスリップしたのには肝を冷やしたが、無事に入庫できたのは幸いだった。

大雪
和寒自宅前道路の積雪状況
平成25(2013)年 1月14日13時頃に長男坊撮影
※一時間強ほど前には路面が見えていたのにこの状況


 早速、作業服に着替えて除雪開始。経験則では、一旦雪を除けて、路面を出しておけば積もらない。……はずだった。降雪のはげしさは経験則をはるかに超えていた。除けても除けても雪は積もっていく。時間を置きのべ三回除雪したものの、路面を出すことは出来なかった。

 とっぷり日が暮れた18時頃、日暮里・舎人ライナーの状況確認と、買物を補足するため、江北駅まで行ってみる。裏道は除雪された箇所が少ないうえに、木が枝垂れた箇所もあり、歩きにくい。

 環七は路面が出ておらず、かなり渋滞している様子。尾久橋通は路面が出ており、特段の渋滞はない。ただし、そもそも交通量が少ないという状況はある。積雪が 5cmを超えているのは確実で、かような厳しい状況で外出しようというほうが酔狂だ。クルマでも危険だが、自転車はさらに危ない。転ばず自転車に乗るのは不可能に近い積雪量だ。

 江北駅まで来ると、日暮里・舎人ライナーが動いているのがわかった。本数を減らし、速度も落としていたものの、動いているのは心強い。雪は既に小降りになっている。この様子ならば、明日朝は定時運行されるだろう、と思われた。

 さりながら油断は禁物。買物では酒をやめ、ノンアルコール・ビールにした。結果的には、この準備が功を奏することになった。

 20時過ぎに雪はやみ、小雨になっていた。とどめに四度目の除雪を行い、ようやく路面を出した(ただし人間が歩く幅のみ)。これで一安心と思ったものだが、翌朝の大混乱は想像を超えていたのであった。





■大雪が積もった朝

 明けて平成25(2013)年 1月15日(火)、念のため午前 4時から起き出してみる。路面がカチコチに凍結した様子を確認し、これでは江北駅まで行くのが難儀だな、と直感する。ただしその後、それどころでない難儀に直面する羽目になる。

 交通情報を知るため、朝のニュースをザッピングする。高速道・航空はともあれ、鉄道は問題なく動き出した様子だ。ところが、テロップを見るうち、次の一文に驚いた。

「日暮里・舎人ライナー 始発から運休の見込み」

 パソコンを立ち上げ、東京都交通局のホームページを確認しても、同じだった。

東京都交通局HP
1月15日(火)早朝時点の日暮里・舎人ライナー運行情報
東京都交通局ホームページのハードコピー(一部編集)


 あに図らんや、無事動いているかに見えた日暮里・舎人ライナーは、昨夜22時20分から走行路凍結のため運休していたのであった。これは大変なことになる、という直感が走る。日暮里・舎人ライナー運休による大混雑は、東日本大震災直後一週間に経験したではないか。道路混雑とあわせ、大混乱は必至であろう。

 自分の通勤だけではなく、長男坊の通学もある。これは早めに出て、タクシーを拾うに如かず、と決断して準備を進める。

 炊飯器のタイマーを早め、 5時30分頃に炊き上げた。弁当箱にごはんを詰め、おかずを乗せる。好天に恵まれそうだから、空き時間に洗濯物も干しておく。 6時ちょうどに妻と長男坊を起こす。早い時刻に何事という反応だが、「舎人ん運休だ」と一言説明するだけで納得してくれた。

 朝食を食べ、着替えをすませる。長男坊の準備もできたところで、 6時40分頃に自宅を出発した。

大雪
和寒自宅前道路の積雪状況
平成25(2013)年 1月15日 8時頃に妻撮影


 当初、凍結した路面を避け環七でタクシーを拾うつもりでいた。ところが、環七内回りは何が起こったか大渋滞で、動く気配がまったくない。トラックの運転手が道端で立小便し、王49が停留所ではない場所で利用者を降ろしていたほどだから、よほど長時間滞っていたと理解できる。

 作戦変更するしかない。横断歩道を渡り、環七外回り沿いの歩道を西進する。江北陸橋まで、タクシーは来なかった。更に作戦変更しなければなるまい。里48江北陸橋下停留所でバスを待ちながら、タクシー通過をも待つ両面待ちである。停留所には常にはない行列が出来ており、日暮里・舎人ライナー運休の影響がうかがえる。

 タクシーより先にバスが来た。里48-2始発便で定時は 6時50分。西新井大師西の利用者だけを拾う形になるから、多少は乗れる可能性があるかと期待したが、甘かった。車内は既に大混雑で、一人も乗せずに通過した。

 このままではどうしようもない。長男坊を列に残し、反対側の歩道に渡ってみる。すぐにタクシーをつかまえることが出来たのは、まったくもって幸いだった。江北陸橋で折り返し、長男坊を拾ってから出発したのは 7時すぎだった。

大雪
「はるかぜⅩ」本木町第二アパート停留所付近の妙に凝った雪像
平成25(2013)年 1月15日 8時半頃に妻撮影


 尾久橋通はいつもより空いているほどだった。しかし、歩道上の混乱はかつてないほどだった。江北駅前では、バスを待つ利用者の列が交通広場を一周するほどの長さに達していた。待っている方々には気の毒だが、圧巻と形容するほかない光景だった。江北四丁目・扇三丁目・扇二丁目と、停留所毎に日頃見かけぬ行列が出来ていた。扇大橋駅前が最もひどく、行列が二又にわかれていた。どちらが先だと、揉めそうな気配すら漂う。

 ここまで来るとバスを諦め、徒歩で南下する人数が増えてくる。心情もっともながら、凍結した坂道を歩くのは危険だ。車道にしても路面凍結しており、停止したら起動できるかどうか怪しいものだ。ちなみに尾久橋南詰では、マリンコンテナを載せたトレーラーが坂道を登りきれず、立ち往生していた。

 タクシー運転手が話し好きで、以下のような話題が出た。

  ●同僚が昨日、さいたま市までの客を乗せて行ったが、未だ帰社していない。
  ●首都高川口線は完全に固まっている。あの中に同僚は閉じこめられているのではないか。
  ●昨夜の日暮里・舎人ライナーは、有人運転で、しかも減速運転していた由。
  ●お客さんが共通して言うのは「こんなのは大震災以来だ」の一言。


 最後の話題はまったく同意である。積雪が凍結して歩きにくい(そもそも危険)から、状況は当時より更に悪いかもしれない。

 尾久橋通の混雑は、平常に準ずる程度のものであった。見沼代親水公園駅行バス車内も大混雑している。西日暮里直前で回送車と擦れ違う。おそらく臨時増発便だろう。焼け石に水という感じもするが、何もしないよりは遥かにましだ。

 特段滞ることなく西日暮里駅に到着。時刻は 7時25分。予想到着時刻は 7時40分だったので、長男坊は充分余裕を持って登校することが出来た。ただし筆者は京浜東北線が遅れて余裕が相殺され、いつもの時刻に出社とあいなった。



 後刻周辺から得た情報。

  1)東海道線茅ヶ崎駅までバスが45分遅れた。
  2)横浜線淵野辺駅までのバスが出ず徒歩で90分かかった。
   (歩いている間バスには追い抜かれなかったとか)
  3)中央線立川駅までK&Rのクルマを出せず、バスで代替した。

→日暮里・舎人ライナーの運休は、端末交通に属する課題といえるかもしれない。






■サマリー

 今回の一件に関する感想は、下記報道に尽きる。



首都圏の鉄道 一部除き平常運転


首都圏のJRと私鉄の各線は、走行路が凍結したため始発から運転を見合わせている日暮里・舎人ライナーをのぞき、始発から平常どおり運転しています。


  NHK NEWSweb(1月15日5時25分配信) より全文引用



 沿線住民の一人として率直にいえば、これほど腹立たしく癪な状況はない。

 さまざまな原因で結果として遅れが生じたとはいえ、他の鉄道路線は全て運行されたというのに、日暮里・舎人ライナーのみが全面運休におちいった事実は重い。ゆりかもめが一部運休・遅延が伴いながらも運行された一方で、同システムの日暮里・舎人ライナーが 9時50分まで運行再開できず、舎人公園以北を含む全線復旧は11時05分にずれこんだ事実は更に重い。

 勿論、想定以上の降雪があり、さらに走行路凍結したことで、全面運休に追いこまれた状況そのものは理解できる。筆者自宅でも除雪に難儀したことを思えば、「言うは易し」の批判かもしれない。しかしながら、降雪に臨み減便・減速で対応したのは最善だったのだろうか。

大雪
「はるかぜⅩ」本木町第二アパート停留所付近での除雪状況
平成25(2013)年 1月15日 8時半頃に妻撮影


 道路を含め、路面が出るか否かの境界は、降雪量と交通による摩擦熱のどちらが大きいかによって決まってくる。降雪量が過大であれば対処しようがないとして、無人運転可能な日暮里・舎人ライナーにおいては、通常ダイヤより運行本数を増やすという選択もありえたのではないか。

 閑散時(休日の日中など)の運行本数は、ゆりかもめ12本/時、日暮里・舎人ライナー 8本/時である。かくも些細な差が効いた可能性もあり、もしそうならば、やんなるかなと天を仰ぎたくなる。

 日中の陽光を浴びて、あれほど深かった雪もかなりの部分が融けてしまった。雪は必ず融けるからこそ、除雪の努力はむなしいものだ。しかしながら、交通が混乱すれば社会的影響は大きい。このたびの大雪による運休は、図らずして日暮里・舎人ライナーの重要性を示す事件となった。それゆえ、滅多に起こらぬ大地震に備える耐震設計と同じく、滅多に起こらぬ首都圏での大雪にも容易に対策できるようになってほしいと切望する。





■追記

 大雪から 4日後の平成25(2013)年 1月18日(金)夕刻、我が家にて事故が発生した。北側屋根に積もった雪がまとめて同時に落ちてきたのだ。駐車場屋根の骨格が曲がるなど、見た目は軽微事故で終わったが、まかり間違えば家族が負傷する重大事故になりかねないところだった。落雪は隣家敷地にまで届いたから、今後係争に発展する懸念さえある。

 事故の全体像は 2日を経てようやく明確になってきた。これに関する明記は避けるが、図らずして「当初設計」「現在の所有」双方の断面を実体験する羽目になってしまった。「知らなかった」だけでは済まされない。事故が起こる可能性を「知った」今だからこそ、為すべきことがあると痛感する。

 過去の財産を正負ともども引き継ぎ、われわれは生きていかねばならない。





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