このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

 

技術革新は物流を変える

 

 

■産経新聞平成16(2004)年 3月13日付記事より

神鋼が新型炉開発
 停止と稼働容易に−−高純度鉄わずか10分で

 (アブストラクト略)

 この回転炉は、神鋼が開発した「IT mk3」(アイティー・マークスリー)と呼ぶ次世代製鉄プラント。まず、鉄鉱石と石炭の粉を混ぜて直径二㌢程度のペレット(粒)にする。これをドーナツ型の回転炉に入れ、セ氏一四五〇度で十分間熱するというシンプルな方法。鉄鉱石に含まれる不純物が分離して、ほぼ高炉並みの純度96−98%の鉄ができるという。

 現在の高炉式の製鉄法では、鉄ができるまでに約八時間かかるうえ、石炭を熱処理するコークス炉などたくさんの設備が必要になる。これに対しIT mk3は設備を大幅に小型化でき、初期投資額は高炉の半分以下に抑えられるという。動かしたり止めたりしやすく、二酸化炭素(CO2)排出量も二割程度削減できる。

 また、地形の入り組んだ鉄鉱石の鉱山にもたやすくプラントを建設できるため、原産地で鉄鉱石を高純度の鉄に転換すれば、鉱石をそのまま輸送するよりも重量比で半分、体積比で九割減となり、大幅な輸送コスト削減につながる。

 (後略)

 

■コメント

 この回転炉が実用化されれば、さまざまな面で劇的かつ革命的な変化がもたらされるであろう。

 なんといっても、原材料(鉱石)輸送が解消されるメリットは大きい。原材料輸送には旨味が少ない。重く嵩張るうえに輸送コストを価格転嫁することが難しく、なるべく解消したい形の交通といえる。鉱山直近で製鉄を行えるならば、鉄鉱石輸送という過程じたいが不要になってくる。

 ところで、やや乱暴な表現をするならば、製鉄とは鉄鉱石のごく一部に含まれる鉄元素だけをとりだし、残りを捨てる作業である。新しい回転炉の技術は、この捨てるべき残滓の量じたいを削減するようなものではなさそうだ。しかし、それでも環境にやさしい技術と評するべきであろう。新しい回転炉のよさは、記事に掲げられたCO2 排出量削減だけにとどまるものではない。

 なぜなら、鉱山のごく近くで製鉄できるならば、残滓を捨てる場所には困らないからだ。鉄鉱石を採掘した穴埋めに、残滓を用いればいいのだから。その場その場で物質の循環を完結させ、可能な限り外部に廃棄物を出さないゼロ・エミッションという方向性に、よくかなう技術といえる。

 また新しい回転炉の技術は、例えば石灰石からセメントをつくる過程にも応用できそうな感じがする。他の金属精製にも応用できるかもしれない。

 以上のような諸々の観点から、力強い可能性を秘めた技術が登場したという印象が記事からは感じられた。特に物流では、原材料輸送がなくなる方向で、革命を起こす風が吹くかもしれない。技術革新が物流を変える−−そんな予感すら覚えてしまう。

 

 

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