このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





支出最小化は価値基準の一つにすぎない





■「サラリーマンのための安心税金読本」(森永卓郎著)より


 普段の移動では主にJRや地下鉄などを利用するが、多くの人々が SuicaなどのICカード乗車券で改札を通っているのを見ると、本当にもったいないと思う。関東圏のICカード乗車券の場合、自動チャージの利用でクレジットカードのポイントが貯まるぐらいで、ほとんど特典がないのだ。
 これが回数券であれば、JRの場合、10枚分の料金で11枚のキップが購入できる。東京メトロも10枚分の料金で11枚買えるのは同じだが、平日の10時〜16時と、土・日・祝日、年末年始の終日に利用日が限定される「時差回数乗車券」なら12枚、さらに土・日・祝日と年末年始だけ使える「土・休日割引回数乗車券」なら14枚も買える。
 このような回数券は東急や東武、西武、阪急など主な私鉄で扱っており、土日に漫然とICカード乗車券を利用していると、実は大損するのである。
 ……
 面倒くさい話だと思うかもしれないが、節約というのは積み重ねだ。節約の姿勢を保つことで、いつのまにか他の無駄も排除され、細かく浮かしたお金が積もり積もって大きなお金に成長するのだ。

   NEWSポストセブン
   同上(ヤフー雑誌一覧)





■森永卓郎一知半解なり

 森永卓郎はさまざまなメディアに露出する機会が多く、さまざまな主張を展開する人物だが、直感に頼るあまり論理性が弱く、論拠固めが極めて手薄で、結果として説得力ある論が展開できないという奇妙な特色がある。上記引用記事もその一つだ。

 字面だけを見れば、一見確かに尤もらしくはある。「漫然と」という字句を付すことで、いちおうのエクスキューズも成立する。しかしながら、回数券にもデメリットが存在する点に触れていないから、一般性・普遍性のある議論となっていない。

 回数券最大のデメリットは死蔵ロス、即ち有効期限内には使い切れないリスクである。「土・休日割引回数乗車券」などは利用条件が厳しく制約されるからこそ割引率が高いのだ。せっかく回数券を買っても、使い切れずに有効期限を迎えてしまっては、いたずらに鉄道会社を利するのみである。

 高い割引率と死蔵ロスというメリット・デメリットを双方提示して、初めて公平な議論となりうるはずだ。メリットのみ提示してデメリットを無視し、メリットを追求しない者は知恵が足りぬとでも言いたげな書きぶりは、一知半解の典型である。小知恵を披露して聡賢を装ったところで、論理性が行き届いていないから笑止千万と評するしかない。

 そもそもICカード乗車券には利便性という絶大な効用(メリット)がある。いうまでもなく、鉄道のICカード乗車券には回数割引がないというデメリットもあるわけだが、メリット・デメリットをどう考量するかはそれぞれの利用者の価値基準による。森永卓郎が主張するところの支出最小化を図るならば定期券・回数券を利用すればよく、それ以外の利便性を追求するならばICカード乗車券利用のままでも充分に有効だ。どちらを選ぶのも、あるいはそれ以外の選択肢を採るのも、あくまで利用者の自由に属する。

 もう一点いえば、支出最小化よりも利便性を優先する価値基準は、カタチのないものに貨幣的価値を認める思想であり、成長の礎となる考え方だと筆者は信じる。これに対し、利便性より支出最小化を追求する森永卓郎の考え方は、小金を吝しむあまり根本と本質を見失う「貧すれば鈍する」典型であり、縮小均衡の下り坂を進む発想だと指摘しなければなるまい。





元に戻る





このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください