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「無党派層」の蹉跌





■平成24年も暮れて

 筆者は以前、「橋下徹は天下を獲る」と断言してしまったが、この見解には修正を加えなければなるまい。橋下徹個人を云々する以前に、橋下徹を強固に支持するように見えたいわゆる「無党派層」が、平成24(2012)年12月16日の第46回衆議院議員総選挙において、政治的にかなり致命的な弱点を内包していると露呈したからだ。

 同総選挙で民主党が惨敗したのは当然である。せっかく政権交代しても民主党政権には統治能力があまりにも無さすぎた。国政はいうまでもなく、党内の合意形成さえできない想像を絶する無能ぶりでは、党が四分五裂して瓦解するのは当然すぎるほど当然の帰結、としか評しようがない。

 問題は、前回総選挙で民主党に投票した有権者が今回どの政党・候補者に投票したか、である。これについては、有権者・政党(候補者)それぞれが悪い方向に動いてしまった。どちらの非が大きいかは、読者諸賢それぞれが以下考察で考量されたい。

 まず政党・候補者について。現下の政治状況において、政党・候補者間の違いは決して有意ではない。例えば共産党においてさえ、国政レベルでの発言はともかく、地域で配布する類のビラになると、かつての自民党よりも保守的なほどだ。

 政党・候補者間の違いはまさしく大同小異。ところが、その小異をいたずらに強調し、違いと対立を殊更に演出し、小党を乱立させてしまった。例えば「維新」と「みんな」が大同団結して候補者を立てれば、相当な大勢力を構築できた可能性があったが、現実にはそれぞれ中途半端な成果しか獲得できなかった。

 有権者の問題は政党・候補者以上に深刻だ。今回総選挙の投票率は60%を切って、戦後最低水準にとどまった。即ち、政争に倦み疲れた「無党派層」の多くが棄権し、参政意識の強い「組織票」の棄権は少なかった、と推測できる。そうなれば「組織票」の方が強くなるのは当然で、自民党・公明党が議席数を伸ばしたのもまた当然である。

 筆者の考えるところ、「無党派層」とは、

   ●大都市圏に居住する
   ●学歴が高い
   ●サラリーマン世帯


 が主要な部分を占める。ここで、「無党派層」の利益を代表する政党は皆無、という点が決定的に重要である。そもそも「無党派層」はその成り立ちからして、自ら恃むところ強く、小異に鋭敏に反応しがちで、寛容さや包容力に欠けている。よって「無党派層」は代表政党を持ちようがなく、その時に応じて投票行動を決めざるをえない。

 この点こそが、「政治的にかなり致命的な弱点」の正体である。代表政党がないばかりか、他者と共有できる利害が少ないから、「無党派層」にとって党派を組むことそのものが一大難事であるに相違ない。

 上記のように考えれば、民主党が自壊したのもまた当然の帰結といえるかもしれない。民主党は「無党派層」的色彩が濃い政党だ(「だった」と過去形になる可能性はあるが)。小異に鋭敏に反応する輩が多かったからこそ、党内の合意形成が難しかったのではないか。この観点において、民主党はきわめて今日的な政党、と評することさえ可能だ。

 民主党が大惨敗し自民党・公明党が大勝したのは、「無党派層」に「組織票」が勝った事象と相似形である。ただし、これこそ「敵失」の極みで、投票率が前回なみであったら、結果がどのように転んでいたか知れたものではない。つまり、「組織票」が勝ったのではなく、「無党派層」が自ら戦意を失い棄権したがゆえの不戦勝、と理解すべきである。

 「大勝したとはいえ自民党が信認されたわけではない」という類の評は山ほど見るが、「今回総選挙結果は多くの『無党派層』が棄権したことにより導かれた。『無党派層』は自らの属性に基づき、自らの棄権を選択したものの、結果として自らの利益を損ねた」とまで踏みこんだ評はない。おそらく、本稿が初出ではないだろうか。





■地殻変動のエネルギーは何処へ?

 さはさりながら、浮ついた世情が落ち着く気配はない。「無党派層」は増えこそすれ、減ることはまずありえない。大地震へのエネルギーが刻一刻と蓄積されていくのと並行し、大政変へのエネルギーもまた蓄積されていると考えるべきであろう。

 今回総選挙において、橋下徹が戦術を誤ったことはどうも確かなようだ。石原慎太郎と組んだあたり、(石原評を措いても尚)筋が悪すぎた。筆者は「今後数年以内に大政変が起こる」という予測は今もなお維持している。しかしながら、大政変の依代<ヨリシロ>が橋下徹でなくなった可能性を検討しなければなるまい。また、石原慎太郎が依代となる可能性はほぼゼロに近づいた。

 次期参議院議員選挙の結果による変動を留保する必要はあるが、自民党・公明党の連立政権は四年近くの長期安定を獲得した。なにしろ、自民党も公明党も「分裂」した事件がごく少なく、安定した運営ができる強みがある。その安定した自公政権下で、野党代表が首相を務める事態など想像しようがないではないか。

 この安定によって如何なる政治的成果が得られるのか、「無党派層」がどのように政治に絡んでくるのか、橋下徹以外の依代は台頭しうるのか、次なる大震災は何時どの程度の規模で起きるのか。大政変に至るまでの説明変数は、まだまだ大きく変動する余地がある。混沌の壬辰歳末に、あと数時間で到来する癸巳一年のすがたを思い浮かべつつ記している。





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