このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
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震災その後ばなし二題
■野蒜駅
東日本大震災から二年半。筆者はこれまで所謂「被災地」に足を運んだ経験がなかった。微力な者が行っても現地の助けにならないから、敢えて行く気にはなれなかった、というのが本音だ。要するに、たとえ行っても見るだけ、せいぜい「観るだけ」にとどまる、と考えていた。
機会はひょんなことから訪れた。仕事の絡みで、東北復興視察ツアーが組まれ、随行を命じられたのである。日帰りの窮屈な行程である一方で、被災即時対応に強い問題意識を持つ参加者が何名かおられたおかげで、相応の意義はあったと受け止めている。いろいろ障りがあるので詳細を書くのは控えつつ、以下思いつくまま記してみる。
「被災地」の現場として視察先となったのは、野蒜駅であった。現地滞在時間はわずか15分という短さ。しかし、それでも「嗚呼」と思うところは深かった。
野蒜にアプローチする道中から既に、地形条件の悪さが気になった。散在する高台は、おそらく元は島。平野部は海面の後退(あるいは陸地の隆起)により出来たもので、標高はほぼ海面に等しい(その証拠に波に浸食された形跡のある岩が随所に残されている)。即ち、野蒜付近の平野部は、津波に限らず高潮被害を受けやすい地形と考えざるをえない。
野蒜の駅名標
そのような場所に宅地を建てた、という人間の営みをどのように理解すべきなのだろうか。海をなりわいとするならばともかく、仙台へ通勤するために住むべき場所といえたのだろうか。
最も指弾されるべきは、勾配を避けるため水際に線路を敷設し、しかも駅までつくり、その代償として海岸災害の危険を呼びこんだ宮城電気鉄道である。国有化後、長らく改良投資を怠った国鉄である。
宮城電気鉄道と国鉄の、財産と責任を承継したJR東日本にも責任がないとはいえない。仙石線は単なるローカル線ではない。政令指定都市仙台で相応の地位を占める交通機関であり、都市鉄道として機能する通勤路線である。野蒜駅前の開発に関する責任を、都市側にのみ押しつけてはいられないはずなのだが……。
野蒜駅付近(海側から山側を望む)
しかし、筆者の感触など「ごたく」に過ぎない。二年半経ってもなお、一階を流されたままの姿を残す住宅の、惨。そんな現実がそこかしこに残っている。あまりにも怖ろしく、写真を撮る気力すら湧かなかった。
■じぇじぇじぇ!
九月は、朔日に「防災の日」を掲げる月である。いうまでもなく、「防災の日」は関東大震災にちなんでいる。関東大震災発生は大正12(1923)年、即ち90年前だ。これを遠い日の災厄、と考えるわけにはいかない。何故なら、「次なる」関東大震災はどう考えても90年よりはるか手前に起こるはずからだ。
今年の 9月 1日は日曜日。その翌日 9月 2日の月曜日、NHKドラマ「あまちゃん」が東日本大震災発生日をぶつけてきたのは、あまりにも巧妙すぎて感心する。しかも、震災の直接的描写を避けつつ、震災による打撃の凄まじさを描き切った。
NHK「あまちゃん」主人公アキ(能年玲奈)と夏ばっぱ(宮本信子)【9月12日(木)放送より】
アキの天真爛漫さも魅力だが夏ばっぱ初め渋い脇役が多いのも「あまちゃん」の魅力
特に夏ばっぱの台詞は一つ一つが格好良い(実在のモデルが複数存在すると拝察する)
近頃のドラマで評価が高いのは「あまちゃん」と「半沢直樹」。どちらも高評価を得るに足るだけの理由と要素が存在している。何故か世論でいわれていないのは、両ドラマ共所謂「バブル世代」にチューニングされた演出、という事実だ。勿論、かつての軽佻浮薄なトレンディードラマとは異なり、普遍的要素も備えているから、幅広い支持を得ているということはある。それにしても、「バブル世代」向けの番組、しかもドラマとなると、極めて久々であり、新鮮かつ斬新に見えるのは間違いない。
宮藤官九郎の構成力は素晴らしい。例えば、「あまちゃん」主人公天野アキが自転車で海に飛びこむシーンは明らかに「E.T.」のパロディだが、その知識がなくとも充分に面白く感じられる。
北三陸鉄道運行再開に沿線の子どもらが旗振って応援する場面【9月3日(火)放送より】
9月 3日(火)の北三陸鉄道が運行再開した場面では、BGMに「銀河鉄道999」のテーマソングが採られていた。筆者は映画館で「銀河鉄道999」を観たことがあるからひとしお感慨深く、たとえかような経験がなくともあの軽快な音楽に乗れば、高揚を伴う躍動感が得られ、充分深い感慨を催すことが出来るだろう。
……その種の演出が出来る凄味と実力が、宮藤官九郎にはある、ということだ。
「あまちゃん」の放送も残すところ二週間。どのような結末になるか未だ読み切れないが、一点、どうしても賞揚しなければならない点がある。
それは、「あまちゃん」撮影にあたり現地ロケを続けたということ。三陸鉄道の列車を貸し切り、その復興に協力したこと。たとえ動機が偽善であってもいい(番組中の台詞で「テレビの活動は所詮偽善」と言い切った達観は凄味そのものである)。NHKの活動は間違いなく地元に貢献しており、称賛に値する。
他のテレビ局が「時間の埋め草」探しに狂奔し続け迷走するなか、NHKの活動は突出している。スポンサーを得ずともよい強みを、今後も保持してもらいたい。
「あまちゃん」内で放送された数少ない「生の」被災映像【9月16日(木)放送より】
被災日の放送から十日後にドラマの展開に併せ短時間だけ流すあたり実に巧妙だ
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