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平成27(2015)年・鉄道もう一つの論点





■平成27(2015)年の話題・もう一つ

 平成27(2015)年における鉄道の話題のうち衝撃が伴ったものといえば、インドネシアでの高速鉄道計画において中国との競合に負け、インドでの高速鉄道計画において政府間覚書締結まで至った件を挙げられる。前者に関しては、いずれレビューしたいと考えてはいるものの、信頼に値する公開情報を得ることが難しく、来年の課題になるか、そもそも一切書けないかもしれない。後者は「驚きが伴う朗報」といえるので、年末にあたり簡単にレビューしておきたい。

Tiruppur
インド国鉄の列車(ローカル急行で短編成の部類だがそれでも20両以上連結されている)
Tiruppur駅にて 平成23(2011)年撮影


 インドは活気あふれる国であり、技術水準はかなり高い。鉄道においても同様である。外観の手入れが行き届かず、見た目が汚らしいため損をしているとはいえ、それを根拠に見下すのは間違っている。交流電化の推進、広軌(1676mm)の採用、狭軌(1000mm)区間の高規格化、高速度(120〜130km/h)での列車運行等、日本の在来線で行われていることはほぼ実現できている。

 彼我の違い——それは日本と外国の違いでもあるのだが——は、輸送容量増強の方法論が全く異なる点にある。日本においては列車運行本数を増やす方法が専ら採られているのに対し、インドにおいては一列車あたり輸送力をひたすら大きくする手法が採られている。すなわち、インドの列車有効長はかなり長い。幹線ではなくとも、最後尾が見えない長大列車はあまた存在する。特に貨物列車はべらぼうに長い。

Vijayawada付近
クリシュナ川を渡るインド国鉄列車
Vijayawada駅南方にて 平成23(2011)年撮影


 列車有効長に比例してインド国鉄の一閉塞長はきわめて長く、日本式の輸送容量増強策は採りたくとも採れない。列車運行本数を増やそうにも、幹線では既に限界に達している区間が実は多いからだ。しかも、長大貨物列車は加減速に時間を要しがちだ。それゆえ、容量が逼迫している区間では、線増により対応することがある(上の写真が典型例)。

 高速鉄道計画を考えるにあたっては、上記の在来線事情に必然的に拘束される。都心部では在来線を活用し初期投資を抑えるTGV方式は、インド国鉄のニーズに合致しているとは決していえない。

 日印政府間で高速鉄道計画の覚書締結に至ったのは、かようなインド側のニーズに日本側が巧く応えられたから、と想像している。過去には、日本の技術の高度さを強調しすぎ、相手側のニーズに応えておらず、破談となった例があるという。それだけに、この一件は歴史を画す慶事といえよう。

 ただし、現時点でもなお安心はできない。インド高速鉄道計画は事業化のはるか手前の段階にあり、そもそも高速鉄道を完成させられるかどうかすら確たる見通しがあるわけではないからだ。さりながら、日本がインド高速鉄道計画の零哩地点に立った意義は決して小さくない。この先の展開が楽しみな一件ではある。





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