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飛脚は飛ばず地に脚つける





■日本経済新聞平成20(2008)年 8月 5日付記事より


佐川、貨物航空から撤退へ / 上場にらみ2年で「見切り」

 佐川急便グループが貨物航空事業から撤退する方針を固めた。貨物航空会社ギャラクシーエアラインズ(東京・大田)は四日、全四路線を十月中に廃止することを決めた。運行開始からわずか二年。国際物流大手にならった「空陸一貫輸送モデル」は急速な燃料高の前に方向転換を迫られた。佐川グループには株式上場をにらんで不採算事業の整理を急ぎたいという思惑もあったようだ。

 ……

 佐川グループは〇五年にギャラクシーを設立。運行一年目の〇六年度は十四億円、二年目の〇七年度は三十二億円の経常赤字を計上した。赤字額は当初の計画を大幅に上回っている。

 ……

 ただ運行機数は二機と小規模。燃料価格の高騰は特に規模の小さい新興航空会社への打撃が大きい。不採算路線の見直しといったコスト削減の余地が乏しく、燃料調達での価格交渉力も大手に劣るためだ。機長二人の退職で大量の欠航を出しているスカイマークのように、人材不足や機材故障などのトラブルが起きた場合の損害も大きい。

 日航や全日本空輸ですら燃料高に苦しむなか、ギャラクシーの早期黒字化は難しいと判断した。……

 ……





■コメント

 この記事を見つけた時には、正直なところ「あっ」と驚いたものだ。ギャラクシー就航時からわずか 2年しか経っていない。個人運営のホームページは、活動期間が限られるという宿命を持つ。それなのに「始まり」から「終わり」までをも見届けられる事象に遭遇するとは、感慨深いものがある。諸行無常は世のならいとはいえ、佐川急便ほどの規模の会社が主導する交通事業がこれほど短期間で潰れる事例は珍しいのではないか。

 上記記事では「物流業界や航空業界では欧州DHLなどと同じ空陸一貫の事業モデルを高く評価する声が多かった」とも伝えており、事業としての質が悪かったとは思えない。ただし、いささか遠い将来をにらんだ、先進的(あるいは実験的)な事業展開という部分はあったかもしれない。

 筆者もギャラクシー就航の報に触れた際、佐川急便には「大志」があると感じている。即ち、「宅配便の会社」から「物流大手」への飛躍を図ったのではないか、という読みである。さらに「鉄道ナショナリスト」としては、JR貨物は物流大手への従属性が強いといわれる状況のなかで、もう一社の物流大手に台頭されては、JR貨物の立場は弱くなるばかりという危惧をも持っていた。

 しかしながら、佐川急便の壮図はあっけなく挫折した。先には「佐川急便ほどの規模の会社」と記したが、それでもギャラクシーの就航機数はわずか 2機。路線は羽田−北九州、羽田−那覇、羽田−新千歳、関西−新千歳の 4区間のみ。荷の太宗は宅配貨物だったはずで、市場規模は意外に小さかったことがうかがえる。もっとも、航空利用の宅配便は価格負担力が高いものを運ぶという前提があるから、市場規模が相対的に小さくなるのは当然ではあるのだが。

 もう一点見逃せないのは、航空燃料高は今後も相当長期間に渡って続く、と佐川急便が判断した事実である。これはなんとも重い。現下の異常な石油高は、投機筋が入りこんで相場が乱高下している面はあるにせよ、中国が石油輸入国に転じるなどの需給逼迫が基礎にある。よって、相場が冷却する余地は乏しいとわかっているのだが、それにしても佐川急便の判断が正しいとすると、異常な現状が長期間続くと考えざるをえないわけで、暗澹とならざるをえない。

 また、航空燃料高は中小規模の航空事業者に大打撃を与える、という部分にも注目する必要があるだろう。ギャラクシーが撤退・清算で決着していくかたわら、スカイマークやエア・ドゥはまさに中小規模のまま営業を続けていかねばならず、経営面では荊棘の道が延々と待ち受けているはずだ。航空旅客需要には相当な価格弾力性があることも明確化しつつあり、新興の中小事業者には極めて厳しい局面が続く。

 株式上場という断面を含め、多様で奥深い情報を含む記事である。



■ある知人の方からのメール


 和寒様のアップされた記事を見て、出てきたひとことが「困った……」です。実は、私の会社はギャラクシーの北九州−羽田の深夜便をしょっちゅう使っていたのです。

 なぜうちの会社が、というと、九州北部に半導体の組立子会社のひとつがあるのですが、ここの製品はしょっちゅう納期ギリギリになることが起こる為、夕方 7時位にあがった製品を佐川に引き取らせ、北九州の深夜 2時の便に乗せ羽田早朝着、それを赤帽に引き取らせ顧客に午前中につけるという芸当をやっているからです。

 大分には某社の工場もありますし、九州については他にも半導体メーカーの工場は当社を含め数多くあるので、短納期対応で北九州のギャラクシーにお世話になった会社は多いと思います。

 同様の便が他社でも設定されないとなると、おそらく顧客はギャラクシーの廃業なんて気にしないため、「今までできたことが何でできないの」ということになりそうな気がします。

 もちろん、佐川が前日夜19時に九州で集荷したものを翌日午前に北関東に配送してくれれば何の問題もないわけですが、どこかの航空会社が同一時間帯に九州−羽田を飛ばさない限り難しそうです。



 この件に関して、ある知人の方から上のメールが届いた。航空機 2機のみという小さなキャリアが、相応以上の社会的影響力を備えている点にまず驚かざるをえない。日本経済を担い、技術の最先端を走るメーカーも、ギャラクシーをしっかり活用していたのだ。

 そうなると気になるのは、ギャラクシーが提供していたサービスが今後も残るかどうかであるが、これに関しては交通新聞が詳報を伝えている。事業廃止の経緯もよくわかるので、以下に引用しよう。





■交通新聞平成20(2008)年 8月 8日付記事より


ギャラクシーエアラインズ事業廃止へ

 ……

 ギャラクシーエアラインズ(GXY)は佐川急便が全額出資して2005年(平成17年) 5月に設立された後、三井物産や日本航空インターナショナルが資本参加。……昨年度は貨物輸送量が前年度 2割アップの 3万㌧を超すなど業績を伸ばしてきた。

 しかし、予想を大幅に上回る燃油高騰が経営を圧迫。昨年度は売上高64億円、営業損失30億円に上り今後も収支改善が期待できず、佐川が出資比率を増やすなど再建案も出資各社の賛同を得られなかったことから、最終的に事業継続を断念した。

 燃油高騰が航空各社の負担となる中で、事業廃止を決めたのはGXYが初。関根眞二社長は、「航空機が 2機だけの当社は、予備部品の確保なども経営の重荷になった。今後はチャーター便を活用し、荷主企業に与える影響を最小限に食い止めたい」と述べた。





■追加コメント

 以上までの情報を見通してみると、ギャラクシーが航空事業に失敗したのでなく、佐川急便が過度の子会社化を進めたことが災いしたように思えてくる。輸送量伸長に見られるとおり、需要は底堅くあったわけで、単独の路線としての成績は決して悪くはなかった。しかし、会社の規模が小さすぎ、固定費の占める割合が大きくなり経営面では失敗せざるをえなかった、という線だろうか。もし佐川急便が既存事業者に運行を委託していれば、成功をおさめていた可能性すら指摘できる。

 ギャラクシー撤退報道に先立ちこの 8月 1日より、スターフライヤーが福山通運と組み、既存旅客便の輸送力を活用する形で、羽田−北九州間に貨物便を就航させたという。これがギャラクシー撤退を織り込んでの話であるならば、少なくとも羽田−北九州には受け皿が出来上がっていることになる。ダイヤ設定の都合でギャラクシーとまったく同スペックにはならないとしても、運行本数からすればむしろスターフライヤーの方が利便性が高い。知人の方はひょっとすると、ギャラクシーを失うかわりに、かえって強力な選択肢を手に入れたのかもしれない。





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