このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

 

千葉モノ・らんだむ・めもらいず

 

 

 

■外国人から見れば謎のモード

 だいぶ昔の話になる。記憶が正しければ確か 7年前のことだったろうか。私はある外国の鉄道技術者から、こんな風にからかわれたことがある。

「日本のチバ市にあるモノレール、あれはデモンストレーションのために走らせているのだろう?」

 私は思わず真顔で、

「いやそんなことはない。あれは立派な営業線だ」

 と切り返しはした。しかし今となってみれば、この技術者のニヤニヤ笑い混じりの皮肉の方が現実に近いような気もしてくる。

 千葉モノレールは懸垂式、その原型は湘南モノレールだ。この湘南モノレールは、正真正銘のデモンストレーション路線、懸垂式モノレールの実用実験線といえる。もっとも、その湘南モノレールの方が、営業成績が千葉よりはるかに良いというのは皮肉以外のなにものでもない。

 懸垂式モノレールの技術を持つ企業は、今でこそ自動車に関するネガティブ・イメージが定着しつつあるが、しかし財閥の雄である。当時の判断として、技術の芽を摘まず将来の可能性を残すということもあったのかもしれない。

 例えば独トランスラピッドでは、独国内の幹線交通でこそ不採用になったものの、国を挙げ開発した技術を育てるとの考えから、外国に可能性を求め、上海トランスラピッドとして結実した。技術というものは独楽に似ており、一旦倒れれば自力で立ち上がることが難しい。トランスラピッドが外国に可能性を見出したのは、やや本末転倒のきらいはあるが、細くとも長く続けるための当然の選択肢ではあったろう。

 また、某自治体では二十年ほど前から、懸垂式モノレールによる新交通システム導入の噂が浮かんでは消えている。積雪地帯であることから、跨座式モノレールやガイドウェイ系の導入は困難とされているらしい。つまり、懸垂式モノレールには潜在的にはまだまだ市場が存在するといえる。

 以上のようなことから、ローカルな交通計画からではなく、マクロな政策判断として、千葉では懸垂式モノレールが採られた可能性を、ここでは指摘しておきたい。

 
 県庁前に到着し、乗車客と降車客が行き交うところ。平日の日中という時間帯を考慮しても利用状況はさびしく、なぜこの支線をつくったのか、素朴な疑問を持たれてもいたしかたないところだ。

 

 

■鰭はおいしい

 さらに昔、十年以上も前のこと。私はある鉄鋼メーカーの工場を見学する機会があった。製作途上の半製品が多数並んでいるなか、千葉モノレールの鋼桁はかなり目立った。路面からはるか頭上の桁をうかがう時と違い、多数のフィン(ヒレ)がついているさまを間近にするのは、かなりの驚きが伴う衝撃だった。

 懸垂式モノレールは、その機構からして走行路面支持は必ず箱桁形式を採らねばならず、しかも必ず下部に連続的な開口部をつくらなければならない。この連続開口部が構造上の一大弱点であり、断面形状を保持する剛性を確保するための補強が必要となる。

 一般的な鋼箱桁でも断面形状保持部材として、内部にダイヤフラム(竹に例えれば節のようなもの)が設けられるが、内部に設けられるために高剛性のものを長いピッチで置くことができる。ところが懸垂式モノレールの場合、台車が通過する空間を確保しなければならず、桁内部の部材設置は制約されざるをえない。よって、外部に低剛性のものを短いピッチで置かなければならない。それがフィン(リブの一種でもある)の正体である。

 フィンじたいの材料費など知れたものだが、問題は工費である。フィンはおそらく全て溶接により主桁に取り付けられている。これだけ長い溶接延長になると、溶接工費は相当な幅を占めるはずだ。

「これはメーカーにとっておいしい仕事だなあ」

 というのが当時の率直な第一印象であり、今もそれは変わっていない。

 日本では企業活動というとネガティブにとらえられがちだが、ほんらい産業振興は重要な政策の一つである(それゆえに独トランスラピッドは外国に市場を求めた)。地場産業の振興を図り、もって地域活性化につなげる、との考えから懸垂式モノレールを採用した、とも想像されるが、さて実際のところはどうなのだろうか。

 
 千葉を出発して千葉みなとに向かう列車。鋼桁のリブの造作が間近に見える区間である。

 

 

■二兎を追う者は一兎も獲ず

 話題は大転換するが、あるコミュバスはまるで採算がとれず、毎年相当な赤字を出しているという。市内各地を循環するバスなのだが、一周一時間の片回り、運行頻度も一時間毎である。機会があって、このことをある大学の先生に話したところ、

「それは失敗する典型例ですね」

 あっさりと斬って捨てられた。その先生曰く、

「コミュバスというのは自治体主導であるがゆえに、市内の各地区に配慮した路線を設定せざるをえない。そのため循環バスになることが多い。そこまではいいのだが、どの地区にも便利にと配慮するあまり、結果的にどの地区に対しても不便になってしまう」

 とのことだった。なるほどと得心がいく説明だった。

 これと同じ弊害が、千葉モノレールの路線設定にもあてはまらないだろうか。

 
 千葉にて。遠足の小学生が集まり、時ならぬ混雑が呈されている。

 

 

■需給調整規制撤廃は錦の御旗か

 これは上司と一緒に千葉県庁に行った時の話。JR千葉駅の改札を出たところで、上司はバスで行くと言う。私はせっかくの機会だからとモノレールに乗ることにして、駅前で一旦別れた。モノレール千葉駅に行くとまさに列車が着いたところで駆けこみ乗車、待ち時間ゼロで乗ることができた。県庁前駅では写真を何枚か撮ったから多少時間はロスしたが、 5分もかかる話ではない。

 さて、県庁のロビーに着いたところで驚いた。なんと上司が先着しているではないか。待ち時間ゼロで乗車してさえ勝てないのでは、速達性ではまるで勝負にならない。しかも千葉駅−県庁前間では、モノレール 190円に対しバスはワンコイン 100円という設定だ。これでモノレールに乗るという利用者は、よほど酔狂というものだ。

 公営地下鉄が開業する際に路線バスを再編した事例もある。現状の路線設定では厳しい面もあるが、現状のままでは競争の名のもとに立ち枯れしかねない。

 確かに需給調整規制が撤廃されているのだから、バスが路線を再編せず、かつどのような運賃を設定しようと文句をいえるものではない。しかし、莫大な税金を投じてノレールをつくったのだから、これを大事にする施策も必要なのではないか。モノレールが速達性で劣るのは問題あるとしても、少なくとも運賃面ではなんらかのインセンティブを設けてもよさそうだ。

 
 県庁前にて。地理的条件からして、高頻度で運転されるバスが並行するのはやむをえないとしても、ワンコイン運賃を許容するというのは公正といえるかどうか。需給調整規制が撤廃されたという今日では、どのような運賃体系を採ろうともその事業者の自由というのが建前だが、莫大な税金を投じてつくったモノレールを活かすという意味においては、市民の利益を損ねているといえる状況である。ただし、実際のところバスが便利であることは否定のしようがなく、高い・遅い・本数少ないという三重苦のモノレールを優遇する理由を見出しにくいことも事実であり、解決は難しい。

 

 

元に戻る

 

 

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください