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新幹線は誰のもの?





■日本経済新聞平成17(2005)年10月31日付記事より

 2004年末に建設が決まった九州新幹線長崎ルート(長崎新幹線)の着工計画が佐賀県の一部自治体の反対で宙に浮いている。05年度予算に計上した10億円は執行のメドが立たないまま。地元経済が潤う大型公共事業に地方が反旗を翻すのは極めて異例だ。…(中略)…
 新幹線建設を止めている、いわゆる「佐賀の乱」の震源地は建設予定区間に並行するJR在来線の沿線に位置する佐賀県鹿島市、江北町、太良町の三市町。新幹線整備による経済的な見返りが見込みにくい上、在来線の経営がJRから分離されるため、政府・与党で昨年末に合意した武雄温泉−諫早間(45km)の着工に強硬に反対している。
 …(後略)…
   ※距離・年の漢数字はローマ数字に、距離単位をローマ字に、それぞれ変換した。



■新幹線は誰のものか?

 整備新幹線と並行在来線のどちらに重きを置くかについては、古くからよく議論の種となっている。新幹線に限らず鉄道とは、もともと地域間を結ぶための交通機関であって、ローカル輸送に適合しているとはいえない。さらにいえば、ローカル輸送が地域間輸送と大都市圏輸送の内部補助で成り立っていることを考慮する必要もある。よくいわれる主張として「鉄道のローカル輸送は地域の足」というものがあるが、地域間輸送(即ち特急)の収益に依存する形なのだから、既得受益にしがみついているようにしか見えない。

 北陸新幹線(高崎−長野間)での先例を見ても、中軽井沢や小諸や佐久(岩村田)には新幹線の駅ができなかったため、古くからの市街地の衰退が著しいといわれている。そのかわり、新幹線の駅ができた佐久平には新たな市街地が形成され、まさに「信濃の国」にもうたわれた「佐久平」という地域の拠点・中心に育ちつつある。明治の昔に見られた、鉄道の駅近くの新市街地と、駅から外れた古い宿場町との関係が、形と規模を変えて繰り返されているわけだ。

 既得受益を失うことへの抵抗感は理解できるとしても、それにしがみつくだけでは発展がない。新幹線ができなければ、既に開業しているより便利な地域へと人と経済は流れていく。緩やかに傾いていく小さな安泰か、既得受益を失って得られるより大きな発展か。難しい選択に見えても、当事者にとって実は結果は同じ。ならば答は決まっているようなものであるが、そこをなかなか踏み切れないのが人間の性というものか。





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