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ハイブリッド四題





■JR東日本キハE200系


JR東日本 キハE200、31日営業運転開始 世界初ハイブリッド営業車

 ……
 ハイブリッドシステムはディーゼルエンジンによる発電とリチウムイオン蓄電池を組み合わせ、駆動力には電気モーターを使用。減速時はモーターを発電機として利用し、ブレーキのエネルギーを電気に変換して蓄電池に充電する。
 排気中の窒素酸化物(NOx)、 粒子状物質(PM)は従来のキハ 110系比で約60%削減。燃料消費量は起伏の激しい小海線で約10%、駅停車時の騒音はアイドリングストップで約30デシベル低減。メンテナンス作業の軽減も図っている。……



 交通新聞平成19(2007)年 7月10日付記事より  ※下線部は引用者が付した。







■札幌市電


市電も「ハイブリッド」 架線なしでも走れます 札幌市、11月から試験

 ……
 車両は鉄道総合技術研究所(東京)と川崎重工業(神戸市)がそれぞれ開発中で、鉄道総合技術研究所の試験車両はリチウムイオン電池、川崎重工業の試験車両はニッケル水素電池をバッテリーにしている。
 ともに、ブレーキをかける際に発生するエネルギーを電気としてバッテリーに蓄え、加速するために再利用する。通常の車両より10−15%の省エネ効果がある。……
 ……市は二〇〇五年に市電存続を決定し、路面電車の有効活用に向けた議論を活発化させている。ハイブリッド車両は架線がなくても走れるメリットがあり、上田文雄市長は「今後、路線の延伸を行う場合のことも念頭に入れている」と話している。……

 

 北海道新聞平成19(2007)年 7月11日付記事より  ※下線部は引用者が付した。





■コメント

 JR東日本のキハE200系は、報道されたスペックから判断する限りでは、環境負荷低減はともかくとして、省エネ効果は期待されていたほどの水準でないといえる。勾配が多い小海線での燃費改善が約10%というのでは、下り勾配区間での回生効果よりも、上り勾配区間でのエネルギーロスが大きいのではないか、と疑わざるをえない。もっとも、今後の改善による“伸びしろ”に期待をかけられる面はある。

 筆者が考えるに、ハイブリッド車導入にかけるJR東日本の主な狙いは、下線部にあるのではないか。同じディーゼルエンジンでも、ほぼ一定回転の負荷のみが与えられ、さらにトランスミッションが省略できれば、維持補修に要する手間やコストはかなり軽くなるはずだ。勿論、今までになかったモーターやVVVFインバータなどが加わるから、ある程度は相殺されてしまうものの、電気回路が内燃機関と比べ遙かにお守りしやすいことは確かである。

 つまりキハE200系とは、環境負荷低減を図る車両であると同時に、ローカル線におけるメンテナンスフリーを徹底的に追求する車両である、といえよう。逆にいえば、メンテしやすい鉄道車両であることは、環境負荷低減を図る前提条件であるのかもしれない。

 札幌市電の試作車両は、ハイブリッド車というより、バッテリー・トラムと形容した方が正しそうだ。内燃機関の「な」の字もないのに、ハイブリッドを名乗っていいのだろうか。用語の定義がかなり不正確であるように思われる。電気式気動車のメカニズムに加え、蓄電池と回生ブレーキを導入し、ハイブリッドの名実が備わっているキハE200系と比べ、格段の違いがあるといわざるをえない。

 さらに注目すべきはこちらの記事でも下線部で、要するに架線なしでの路線延伸も想定している様子だ。札幌駅前の目抜き通りは修景を強く意識しているから、架線を設置するというだけで社会的軋轢になりかねない。架線を必要としないシステムであれば、問題が顕在化しないという判断が働いている可能性も指摘できる。

 しかしながら、それ以前に、路面電車延伸そのものが必要か否か、そもそも論の部分で疑問が伴うのが札幌の現状だ。既存概念にあてはまらない新しい車両を導入したところで、問題が一挙解決とはいくまい。奇を衒うばかりで実効が伴わない懸念もないとはいえない。かつての路面ディーゼル車のように、一時の徒花で終わらぬよう祈るばかりである。

 念のためにいえば、電車のメカニズムに蓄電池と回生ブレーキを導入した発想は新しい。運行本数が比較的少ない路線でも、確実に省エネ効果が得られるメリットは大きい。また、本当に全線の電化が必要か、という検討を促すことにもなるだろう。車両の進化によって電気鉄道の概念が変革し、将来大化けする可能性さえあるわけだ。

 ごく近い時期に発表された、二つのハイブリッド車。これら新しい技術の導入は、どのような発展の軌跡を描いていくのであろうか。





■JR北海道


JR北海道が開発 モータ・アシスト式ハイブリッド車両

 ……
 同システムは、モーターを持ったアクティブシフト変速機とコンバーター・インバーター、バッテリー、制御装置で構成。低速域ではモーターのみで走行し、時速45キロを超えた時点でエンジンが始動するとともにモーターがアシストして駆動力を高める。
 一方、惰行時にはエンジンで、ブレーキ時には車輪からの動力で、それぞれモーターを駆動し、モーターを発電機として使ってバッテリーを充電する。
 従来の気動車と比較し燃費を15〜20%改善でき、……シリーズ式に比べシステムを小型軽量化でき、費用も半分。既存の車両を改造してハイブリッド化することも可能だ。
 ……

 

 交通新聞平成19(2007)年10月25日付記事より





■コメント

 JR東日本のキハE200系が「電気式気動車」の発展系、札幌市交試作車が「バッテリー・トラム」の変形であるのに対し、JR北海道試作車 “Innovative Technology Train”は「プリウス的ハイブリッド車」と形容できるだろう。初期投資を抑えつつ、省エネ効果最大化、環境負荷最小化を図った意義よりもむしろ、車両の設計概念の違いが興味深い。

 JR東日本キハE200系は、ディーゼル・エンジンを主動力にするとはいえ、駆動機関はモーターであって、実態としては電車に近い(だからこそメンテナンスフリー)。これに対して、JR北海道ITTは基礎設計が気動車そのままで、モーターとバッテリーは補助的メカニズムにとどまっている。

 どちらがより優れた設計なのか、現時点では判断しがたいが、JR北海道ITTは電車と気動車の「良いとこ取り」を図ったようなもの、としてはデフォルメのしすぎだろうか。トランスミッション構造を簡素化したことにより、基礎設計は気動車のままでありながら、エネルギー変換ロスが抑えられている。また、電気式気動車における発電→変電→駆動というメカニズムを採らず、バッテリー→モーター駆動とシンプルな回路を構成することで、同様にエネルギー変換ロスが抑えられている。

 あるいは、圧倒的多数の電車を擁し気動車はマイノリティーというJR東日本と、未だに気動車が主力のJR北海道、という企業風土の違いが出ているのかもしれない。筆者としては「非電化区間の電車」であるJR東日本E200系の方が好みなのだが、電車と気動車の化合という意味ではJR北海道ITTの方が「ハイブリッド」の定義に近いといえる。ただし、ここまで設計概念が異なる車両がそれぞれ「ハイブリッド」を名乗るとなると、定義が曖昧(現状での共通項はバッテリー→モーター駆動というメカニズムを備えている点だけ)で、「言葉遊び」に近く実質が伴わないと指摘せざるをえないが、技術の揺籃期とはこういうものなのかもしれない。

 次はどのような「ハイブリッド」が登場するのか。技術開発の方向性がどのように収束していくのか。興味が尽きないところだ。





Inductive Power Transfer(非接触誘導給電装置)ハイブリッドバス


IPTハイブリッドバスに関する研究

 ……
 ……ワンウエイクラッチを介して、エンジンとモータを一体化したパワートレインをバス後部に配した。エンジンは小型バス用の4気筒 4,728ccのディーゼルエンジンで新長期規制に適合している。このクラスのバスでは通常8L程度のエンジンが必要であるが、このパワートレインを採用することにより、ハイブリッド化の効果で、より小型のエンジンが採用できた。
 ……
 ……都市内走行条件ではハイブリッド走行で約 3km/Lの燃焼値が得られた。一方、純電気走行した場合には、0.88km/kWhの値が得られた。……
 ……公称給電能力30kWで……充電を行った……結果から計算すると、15分の充電で 6km程度しか電気走行をすることが出来ない。充電時間を短くし、かつ走行距離を伸ばして使いやすくするためには、少なくとも50kWの容量を持つ給電装置が必要と考えられる。また効率の点でも改善の余地があると思われる。
……試算した結果によれば、全走行距離の8割をEV(電気自動車)モードとした場合、二酸化炭素排出量は従来のディーゼルバスと比べて44%の低減効果があることがわかった。 ……IPTハイブリッドは二酸化炭素排出抑制に対して極めて効果的な技術であると言える。また、非接触誘導給電装置の開発と最適化を進めて高効率化をはかることにより、より一層有望な技術に発展できる可能性がある。

 

 独立行政法人交通安全環境研究所のプレゼンテーション資料より





■コメント

 IPTハイブリッドバスといえば、平成20(2008)年 2月15日から約二週間、羽田空港のターミナル間無料連絡バスで運行されることが、全国ニュースでも報道されたほど注目度が高い。ただ、羽田空港での運行が一日 6回と、如何にも中途半端な印象を持たざるをえなかったのだが、後にこのプレゼンテーションに触れ納得した。15分の充電で 6kmしか走れないのでは、一般の路線バスではとうてい実用に耐えないだろう。より長距離を走るためより長時間の充電が必要になるならば、遊休時間が長くなるわけで、敢えて導入する意義は乏しい。

 プレゼンテーションのなかでさらに驚いたのは、というよりむしろ呆れてしまったのだが、IPTの単価である。IPTシステムは、地上側の一次コイルと車両側の二次コイルで構成される。一次コイルに給電されると磁場が発生し、二次コイルがその磁場を受けて発電、車両側バッテリーに蓄電する、という仕組みである。

 この程度の電気回路であれば、乾電池・被覆コード・豆電球を使って簡単に実験できるから、読者諸賢も試してみるといい。ただし、バスを動かすほどの大電力を受け渡しするとなると、コイル製作に高度な技術を要することはいうまでもない。プレゼンテーションでは、一次・二次コイルあわせ「ドイツ製で 4,500万円」と解説しており、あまりの高価さに思わず失笑したほどである。コイルだけでバス数台を買えるほどの値段であり、これで実用化できるわけがない。

 プレゼンテーションではさらに、「日本製コイルを使えば半額にはなる。そこから先は量産効果次第」と説明していた。しかし、給電など所詮、プラグをコンセントに差しこむだけで充分間に合うのであって、敢えてコイルを導入する必然性はないに等しい。新しい技術を試すことには意味や意義を認めるとしても、その技術に実用性があるか否かはまた別次元の問題だと痛感した次第である。





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※本稿はリンク先「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。





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