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小田急MSE北千住さらに新木場へ
小田急電鉄最新ロマンスカー 60000型MSE(Multi Super Express)は、東京メトロ千代田線への直通が計画されていることは既に広く知られている。平成17(2005)年 5月17日にロマンスカー直通計画を両社が発表した際(
小田急サイト
・
メトロサイト
)には、計画そのものに大きな驚きが伴ったものである。例えば、リンク先のTAKA様は
このような記事
を書かれている。
具体的な運行計画が明らかになった今では、さらなる驚きが伴う。起終点となる駅は、当初発表にうたわれた湯島でなく、さらに足を伸ばして北千住に設定された(ただし平日夜間下り列車は大手町始発)。土休日も基本的には同じ設定になるものの、年間30日程度(おそらくは五月連休と夏休み期間中)有楽町線新木場まで直通するというから、驚かずにはいられない。
小田急電鉄プレスリリース(平成19年10月19日付)
北千住の副都心的集積はさほど強いとはいえず、起終点とするには今ひとつ弱い印象も伴う。しかしながら、常磐線・東武伊勢崎線・つくばエクスプレスが乗りこんでくる一大ターミナルであることは確かで、後背地人口は相当に多い。MSEは小田急沿線−都心間を結ぶだけにとどまらず、首都圏北東方面一円をも視野に入れた広域流動をとりこむ壮図を裡に秘めているのかもしれない。
ありうる話としては、湯島の引上線で折り返すより、綾瀬(車両基地)で折り返した方が車内整備の取り回しが楽、という作業運用上の要請から北千住になった、というだけのことなのかもしれない。もっとも、仮にそうだとしても、将来の成長余地には格段の差があることは間違いなく、MSEには構想段階以上の発展性が付加されたといえるだろう。
そして日数が限られるとはいえ、新木場直通とは実に強烈なインパクトがあるニュースではないか。率直にいって、合理的根拠を示しつつ事前にこれを予測できた方はいないと思われる。単線の千代田−有楽町連絡線を使い、さらには本線折返しのスイッチバック、などと運用上の困難は何点も挙げられるというのに、敢えて実行に移す英断は高い評価に値する。新木場直通列車の主な狙いはいうまでもなくTDL&TDSであって、近年翳りが見えつつあるとはいえ、絶大な集客力を誇るだけに底堅い需要があるはずだ。観光地としてみれば、台場(臨海副都心)も決して小さくない存在だけに、MSEが周知されれば繁盛することはまず間違いない。
MSEが御殿場線直通可能であれば、静岡県下から「ベイリゾート」に向かう観光客をとりこむことも可能かもしれない。極端なことをいえば、利用者の減少傾向が止まらないといわれる「あさぎり」を削ってでも(※)、「ベイリゾート」を強化する方向性もありえるのではないか。安価な運賃でサービスを提供するならば、バスに対して相応の競争力を確保できるに違いない。
※関係筋から得た情報によれば、「あさぎり」は小田急線内では好調である一方、御殿場線直通利用者数は明確に減少傾向を辿っており、少なくともJR東海から見れば“成功”とはいいにくい状況らしい。
これは実は、趣味的な妄想とは必ずしもいえず、むしろ営業的に成功する可能性がある。早朝上り便(静岡県下→新木場)と午前下り便(北千住→箱根湯本)とを組み合わせれば(夕方はこの逆)、「一粒で二度おいしい」を地でいく列車に化けるかもしれないのだ。私鉄は公共性を備えつつも、営利企業である以上は、相応の利益を求めているはずである。新木場行MSEのルートは一見マニアックなものであるが、決して伊達や酔狂ではなく、遠からぬ将来に備えた遠大な布石にも見える……としては深読みにすぎるだろうか。
少なくとも、通勤行動については公式統計ほか多様なデータが充実しているし、他路線での事例から敷衍することも難しくはない。小田急は、高い確度での成算を得ているはずだと筆者は見る。ただし、観光行動については「水もの」の危うさが残らざるをえないが、新木場行列車設定を通じて話題をふりまく一方で、利用者の動向を見極められる堅実さも見受けられる。小田急の石の布き方は、派手なパフォーマンスに見せかけつつ、玄人好みするような手堅さに裏づけられている二面性がある。
いずれにせよ、久々にワクワクするニュースが出てきたものだ。今後の展開にはおおいに期待しているし、また注目していきたい。
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