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加算運賃その構造と歴史
■毎日新聞平成19(2007)年11月18日付記事より
建設費回収…まだ? / 終わらぬ鉄道加算運賃
近鉄鳥羽線は37年前から / 申請認可後報告は不要 会社任せに疑問の声
(前略)
鉄道の新線開業や路線延長などには多額の費用がかかる。加算運賃は、この建設費や維持費などの一部を利用者に負担してもらうため、距離に応じた普通運賃に上乗せする特別な制度。
……現在加算運賃が認められているのは全国で20区間。……最長は近鉄鳥羽線の37年間。最近加算運賃を廃止した名鉄瀬戸線は28年間、小田急多摩線は26年間続けていた。
……
細川幸一・日本女子大准教授(消費者政策)の話
加算運賃の必要性は認めるが、認可した国が建設費の回収状況や廃止時期を把握せず、国民にも知らせないのは問題だ。公共料金の許認可規制は事業者に不当な利益を与えないという目的もあり、加算運賃の廃止が事業者の自己申請というのは疑問がある。
※下線は筆者が付した。なお、下線部相当原文の記号及び括弧による補足は省略している。
■コメント
目のつけどころが良い記事ではある。本文の表と記述から、加算運賃開始年の順に作表してみよう。
路線 区間 現加算運賃 開始年 終了年 近鉄鳥羽線 宇治山田−鳥羽 10〜30円 昭和45(1970)年 − 相鉄いずみ野線 二俣川−いずみ中央 20〜40円 昭和51(1976)年 − 名鉄知多新線 富貴−内海 20〜70円 昭和51(1976)年 − 名鉄瀬戸線 栄町−東大手 30円 昭和53(1978)年 平成18(2006)年 小田急多摩線 新百合ヶ丘−唐木田 10〜20円 昭和54(1979)年 平成17(2005)年 京王相模原線 京王多摩川−橋本 10〜80円 昭和54(1979)年 − 名鉄豊田線 赤池−梅坪 20〜60円 昭和54(1979)年 − 名鉄羽島線 新羽島−江吉良 30円 昭和57(1982)年 − 近鉄けいはんな線 長田−生駒 40〜130円 昭和61(1986)年 − 京成東成田線 京成成田−東成田 70円 昭和63(1988)年 − 京阪鴨東線 三条−出町柳 60円 平成元(1989)年 − 京成空港線 京成成田−成田空港 140円 平成 3(1991)年 − JR北海道千歳線 南千歳−新千歳空港 140円 平成 4(1992)年 − 南海空港線 泉佐野−関西空港 120〜220円 平成 6(1994)年 − JR西日本関西空港線 日根野−関西空港 150〜210円 平成 6(1994)年 − 泉北高速 光明池−和泉中央 20円 平成 7(1995)年 − JR四国本四備讃線 児島−宇多津 100円 平成 8(1996)年 − JR九州宮崎空港線 田吉−宮崎空港 120円 平成 8(1996)年 − 京急空港線 天空橋−羽田空港 170円 平成10(1998)年 − 相鉄いずみ野線 いずみ中央−湘南台 30円 平成11(1999)年 − 名鉄空港線 常滑−中部国際空港 30〜80円 平成17(2005)年 − 近鉄けいはんな線 生駒−学研奈良登美ヶ丘 40〜130円 平成18(2006)年 −
この記事は、加算運賃の意義に一定の理解を示しつつも、長期間の加算に対しては批判的な筆致となっている。近年の鉄道事業において、償却期間は短くとも20年、標準的には25〜30年、実態としてはそれ以上の超長期に渡らざるをえない鉄道経営の現状を知ってもなお批判的なトーンになるかどうか、気になるところではある。もっとも、大向こう受けを常に意識せざるをえないマスメディアの宿命として、どうしても批判色をつけなければならないという事情もあるのだろうが。
ただし、鉄道側にも情報開示に消極的という弱みがある。「建設費やこれまでの回収額は公表できない」(京急)、「投資額や回収額は公表できない」(JR北海道)と二社のコメントが掲載されているが、はなはだ誠意に欠ける内容と指摘されてもしかたあるまい。仮に大株主が情報開示を請求した場合、どう対応するというのか。そもそも両社とも加算対象が空港アクセス鉄道であり、事業には多少なりとも国費が投入されているはずだから、相応の説明責任が求められなければなるまい。
加算運賃をやめた二社にしても、その意義と成果を積極的にアナウンスすれば、利用者の深い好感を得た可能性がある。特々制度による加算運賃をやめた京王が、市場を中心に高い評価を受けた先例もあるわけで、せっかくの機会を逸したと思われ、勿体ない限りだ。
最も基本的なところからいえば、通常の運賃体系では初期投資を償却できないがゆえの加算運賃である以上は、初期投資総額、通常運賃による償却見通し、加算運賃による改善効果などを情報開示し、利用者の理解を求めるのが原則ではないか。情報を秘匿したままで理解を得ようとは、横着きわまりないと断じてもよいほどだ。
利用者の理解が深まれば、(制度上の問題は措くとして理論的には)加算運賃の永続化も不可能とは思えないだけに、情報開示はなおさら重要であろう。利用者は、その区間の利用に便益を見出しているからこそ、その便益に見合う程度の加算運賃を受容しているのである。鉄道会社側にとって、便益に対価を求めるのは当然すぎるほど当然の姿勢であり、現に利用者が支払意志を持っている以上、永続的な運賃制度として維持する方策があってもよい。
北総や東葉などの高い運賃水準は、全区間が加算運賃と考えれば極めてわかりやすい。まさに永続的な加算運賃制度ではないか。これに対し歴史が長い鉄道では、大規模な初期投資がインフレーションに埋没しているからこそ運賃水準が抑制されているにすぎない。前時代の遺産を継承したようなもので、経営努力による成果とはいえない。かような構造と歴史を知らず、表面的な批判を加えるだけでは、如何にも浅薄との誹りは免れえまい。目のつけどころが良かっただけに、巧く料理しきれなかった点では惜しい記事といえる。
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