このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

 

新幹線対タクシー

 

 

■私をNRTに連れてって

 海外への窓口として最も多くの方が利用するのが、成田空港であろう。それでは、この成田空港に行くために、よく利用される交通機関とはなんだろうか。成田エクスプレスか、スカイライナーか、それともリムジンバスか。渡航期間と荷物の量によっては、自家用車を空港周辺の駐車場に預けるという選択肢もある。

 タクシーはどうか。確かに便利ではある。とはいえ、いかんせん運賃が高い。千葉県内からのアクセスでも1万円を超える区域は少なくなく、東京からでは2万円あるいはそれ以上の水準に達するだろう。富裕層か、タクシーチケットを入手している方でなければ、選択肢となりえる交通機関ではない。

 しかし、それは首都圏での話である。

  
 北陸新幹線と成田エクスプレス。高速性に秀でており、長野から成田空港までアクセスするための最も標準的なモードとなっている。
 左:北陸新幹線「あさま」(上田にて平成13(2001)年撮影)  右:成田エクスプレス(船橋にて平成 9(1997)年撮影)

 

■長野の空港タクシー

 長野市周辺からは、成田・羽田・小牧空港への乗合タクシーが運行されている。成田・羽田空港への運賃は1人 8,500円、北陸新幹線や自家用車1人乗り(高速料金+ガソリン代)と同等もしくは若干安い設定となっている。

 この空港タクシー、所要時間に関しては新幹線に及ぶところはない。特段の渋滞がなくとも5時間ほど要するし、渋滞に巻きこまれれば所要時間はさらに伸びる。搭乗便の出発時刻まで確実に到着することを考えれば、使いにくい選択肢ではある。

 しかし、以下の場合を想定すればどうだろうか。駅まで遠い郊外部に住んでいる、多くの重い荷物を持たなければならない、あるいは空港からの帰りで時間を気にせずにすむ、等々。空港タクシーとて、充分選択肢となってくるではないか。

 

■個人的体験

 筆者は昨年、海外出張の帰路、この空港タクシーを利用してみた。往路はさすがに使う気になれなかった。時間が読めないということに加え、途中に立ち寄りたい箇所もあったからである。しかし、帰りはそのようなことを気にする必要がない。出張後で疲れ果てているうえ、荷物も往路より重くなっているから、階段の上り下りを避けたいという判断もあった。

 事後の感想として、使い勝手がよいとは、残念ながらいえなかった。連絡が悪く、到着してからタクシーを見つけるまで1時間以上を要した。さらに、同乗者を待つため1時間の待機が必要だった。とはいえ、走り出せばまったく気楽だった。行程の半分以上は寝ていけたし、目覚めた時には自宅の玄関というのもありがたかった。

 重要な点として挙げるべきは、たとえ新幹線を選択しても、駅から自宅まではタクシーを使わざるをえないという点にある。疲れ切った身でスーツケースを引っ張り歩くというのは、どうにも抵抗がある。必然なる結果としてタクシーを利用することになるが、そのぶんよけいな費用がかかることは免れえない。つまり、空港タクシーの優位性はこの点にもあるといえる。

 
 所要時間はともかくとして、空港まで(から)の移動を「安く」「楽に」すませるためには最適のモードである。
 成田空港第2ターミナルに待機する空港タクシー(平成13(2001)年撮影)

 

■ニッチながら

 長野から成田空港への需要の太宗は、北陸新幹線が担っている。成田空港へは高速バスの路線もない。空港タクシーはまったくのニッチであり、ニッチであるからこそ定員8名のワゴンで運行されているともいえる。新幹線の優位性は、揺るぎそうもない。

 ところが、経営という観点からはどうだろうか。新幹線の初期投資を回収するためには、日に万人単位の利用者が必要である。その一方、空港タクシーは片道3名の乗車があれば、充分にペイしてしまう。需要変動リスクは伴うものの、投資した以上の利益も期待できる。実際のところ、この空港タクシーは営業を続けている。

 新幹線対タクシーという構図は、獅子対猫に例えることもできよう。まともに戦えば、勝負の帰趨は明らかである。しかし、猫は身軽に動き回ることができる。獅子と戦うことなどなく、日々の糧を得ることもできるだろう。

 モータリゼーションの本質は、行動が個人に属し、ごく軽快な挙動を採ることができる点にある。新幹線の高速性を持ってしても、この特性に勝てるかどうか。公共交通の将来を考えるうえで、重大な要素のひとつといえるだろう。

 

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