このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
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速達性にいくら払う?〜〜ナッチャンの蹉跌
平成19(2007)年秋のナッチャンRera就航の報は、驚きを持って受け止めたと記憶する。フェリーだというのにとにかく速い。青森−函館間を「スーパー白鳥」なみの所要時間で結ぶのだから、驚異といわずしてなんと呼べばいいのか。どのようなメカニズムで高速度を発揮できるのかも不思議な存在だった。
マスメディアでは好調が報じられているし、二隻目が就航するとの話も伝えられており、ただでさえ停滞気味の津軽海峡線の輸送実績(特に旅客)がさらに傾くのではないか、という危惧が筆者にはあった。あに図らんや、ナッチャンReraを運行する東日本フェリーは、燃料費高騰を理由に津軽海峡からの撤退を決めてしまった。一部区間の便は残るものの、ナッチャンReraのその後の処遇は決まっていないという。
津軽海峡を疾走するナッチャンRera
それにしても東日本フェリーは、津軽海峡を渡る船舶利用者の、おそろしく極端な選択性向を知っていたのだろうか。
参考文献(01)における、平成17(2005)年12月に行った、函館フェリーターミナルでの意識調査では、一般常識からは想定しにくい結果が示された。青森−函館間の交通機関を選択する要因の寄与率は運賃が26.9%、同乗者料金が34.7%、両要因の交互作用が34.3%であるのに対し、所要時間は 3.6%にとどまるというのだ。運賃要因の寄与率が計95.9%とは、ずば抜けて突出した高水準である。
参考文献(02)における、平成17(2005)年12月に行った、札幌市内の企業に対する意識調査の結果もまた凄い。札幌−東京間の鉄道貨物選択(競合交通機関は苫小牧−大洗間のフェリー)要因の寄与率は運賃が92.9%、所要時間が 3.9%、運行本数が 1.5%だという。これまた運賃の寄与率が圧倒的に高い、常識外の数字である。
函館フェリーターミナルに停泊中のナッチャンRera
両参考文献とも回収した票数が少ないきらいはある(いずれも百票台前半)。それでも、誤差項の寄与率が微少であることから、フェリー利用者選択性向の全体的傾向は高精度で反映していると考えられる。とにかく価格弾力性が高い。所要時間を少々短縮したところで、運賃を上げれば利用しない、というわけだ。より高度なサービスに見合う対価を求めにくいという意味において、交通事業者にとっては実に厄介な利用者群ではないか。
函館フェリーターミナルにてナッチャンReraへの乗船を待つ自動車群
しかしながら、極端な選択性向を持とうとも、そのような利用者群が現実に存在する、という認識に立たなければ、交通機関の経営には失敗せざるをえまい。燃料費高騰という大逆風が吹き荒れているとはいえ、わずか一年余でのナッチャンReraの蹉跌は、利用者の選択性向を知らなさすぎた当然の帰結、と評することができる。
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参考文献
(01)「北海道新幹線を活用した青函カートレイン導入可能性に関する研究」(石上陽基)
(02)「北海道新幹線を活用した札幌−東京間の鉄道貨物輸送方式に関する研究」(李■澤)■は王へんに韋
執筆備忘録
写真撮影:平成19(2007)年秋
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