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赤い旋風が吹けば……





■浦〜和レッズ!(ドドンガドンドン!)

 平成18(2006)年サッカーJリーグのシーズンは、入替戦を残し事実上終わった。J1で優勝を飾ったのは浦和レッドダイヤモンズ(以下レッズ)である。なお、J1全チームの今季成績は次に掲げるとおりとなっている。

順位チーム勝点勝利引分敗戦得点失点得失差
浦和722266672839
川崎672077845529
G大阪662068804832
清水6018610604119
磐田5817710685117
鹿島581841262539
名古屋481391251492
大分471381347452
横浜451361549436
10広島45136155056-6
11千葉44135165758-1
12大宮44135164355-12
13FC東京43134175665-9
14新潟42126164665-19
15甲府42126164264-22
16福岡27512173256-24
17C大阪2769194470-26
18京都22410203874-36


 レッズ優勝を報道する記事のなかには極めて不正確なものがあり、「かつてはJリーグのお荷物球団と呼ばれ」などという単純かつ安易な決めつけさえ見られる。不勉強というか、誹謗する意図があるのか。観客動員は常に上位にあり、すぐれた特長を有するチームのどこが「お荷物」なのか。おそらくは、かつての成績不振やJ2陥落などの経緯を強調することで今日の栄光を強調する意図とも思われるが、かえって本質を晦ましてしまう、ステレオタイプに過ぎる貧弱な報道といえよう。

 Jリーグ発足当初、確かにレッズは強いチームではなかった。しかし、レッズの守備力は固いという定評があり、失点は常にリーグ最小を争っていた。そのかわりなぜか決定力に欠け、得点もまた常にリーグ最小を争っていたがゆえに、成績はふるわなかったのだ。その守備が綻ぶようになってJ2に陥落する憂き目も見たが、一年で復帰し、ここ数年は優勝争いに絡むようになっている。今年の成績からもわかるとおり、守備力は他チームと比べ懸絶した域にあり、守備が固いという特長は変わっていない。

 「サポーターが熱心」という報道も、地域の特色を正しくとらえているとはいえない。新潟の成功例とも違うし、鹿島サポーターの熱心さとも色あいが異なる。浦和・浦和西・浦和南・武南が全国優勝したのは今や昔話、高校選手権大会では上位進出できなくなっている現実から「サッカー王国」の称号を返上して久しい埼玉県ではあるが、もともと浦和・大宮付近ではサッカーチームの裾野が広く、幼少時代からサッカーに慣れ親しみやすい環境が醸成されている。サッカーに対する愛着と理解が深い人々が多く住むなかに、個性と特長あるプロチームが存在しているゆえに、レッズは絶大な支持を得ているのである。

埼玉スタジアム
ピッチ近くから見渡した埼玉スタジアム






■埼玉スタジアムの観客動員数

 観客動員力リーグ随一のレッズは、埼玉スタジアムで主催試合を組むことが多い。埼玉スタジアムは国内でも数少ないサッカー専用スタジアムであり、国際試合が行われる機会も多い。では、埼玉スタジアムでの観客動員実績は如何ほどであろうか。全試合のデータを網羅しているわけではないが、わかる限りの数値を以下に掲げてみよう。

対戦カード観客実績試合の主旨試合日
日本−香港45,145名東アジア選手権平成15年12月 7日
浦和−川崎F50,134名Jリーグ平成18年10月21日
レッズ対レッズ歴代選抜50,170名福田正博引退試合平成15年 6月15日
浦和−FC東京50,195名Jリーグ平成18年 8月12日
浦和−清水50,289名Jリーグ平成15年 5月 5日
浦和−大宮50,437名Jリーグ平成17年 7月 9日
浦和−千葉50,643名Jリーグ平成17年 5月 8日
浦和−鹿島51,195名Jリーグ平成15年11月29日
浦和−G大阪51,249名Jリーグ平成17年 4月 9日
浦和−フェイエノールト52,247名さいたま市杯平成15年 6月 4日
浦和−横浜FM52,582名Jリーグ平成18年11月11日
浦和−FC東京52,646名Jリーグ平成16年 6月26日
浦和−鹿島52,789名Jリーグ平成17年 3月 5日
浦和−大宮54,774名Jリーグ平成18年 4月29日
浦和−磐田54,883名Jリーグ平成17年11月26日
日本−バーレーン55,442名五輪アジア最終予選平成16年 3月14日
浦和−名古屋55,476名Jリーグ平成17年 5月 1日
日本−ベルギー55,975名W杯予選リーグ平成14年 6月 4日
浦和−鹿島56,070名Jリーグ平成16年 5月 5日
浦和−磐田56,512名Jリーグ平成18年 3月11日
浦和−鹿島56,982名Jリーグ平成18年 5月 7日
浦和−バルセロナ57,143名さいたま市杯平成17年 6月15日
浦和−インテル・ミラノ57,633名さいたま市杯平成16年 7月27日
浦和−甲府57,781名Jリーグ平成18年11月23日
浦和−磐田57,902名Jリーグ平成14年 7月13日
日本−スコットランド58,648名キリン杯平成18年 5月13日
日本−北朝鮮59,399名W杯アジア最終予選平成17年 2月 9日
浦和−横浜FM59,715名JリーグCS平成16年12月11日
日本−パラグアイ59,891名キリン杯平成15年 6月11日
日本−オマーン60,207名W杯アジア一次予選平成16年 2月18日
浦和−横浜FM60,553名Jリーグ平成13年10月13日
ブラジル−トルコ61,058名W杯準決勝平成14年 6月26日
日本−バーレーン61,549名W杯アジア最終予選平成17年 3月30日
日本−アルゼンチン61,816名キリン杯平成14年11月20日
日本−イタリア61,833名キリン杯平成13年11月 7日
浦和−G大阪62,241名Jリーグ平成18年12月 2日

※背景色が濃い部分は、平成18年の浦和のホームゲーム。



 このレッズ対ガンバの一戦では、埼玉スタジアムにおけるJリーグ最高動員を記録すると同時に、ワールドカップ本戦をも凌ぐ観客動員力が示された。近年の主要なレッズ戦は、まさに国際試合に匹敵する観客動員力である。これに連動する格好で、埼玉スタジアムにアクセスする交通機関の一つである埼玉高速鉄道(以下SR)の利用も伸びることとなる。レッズ・サポーターは地元在住の方が多く、SRを利用して観戦する方は半数以下程度にとどまるといわれているものの、需要低迷に悩むSRにとっては多大な収入を得る機会となる。以下に試算してみよう。なお、数字は全て仮定である。

   レッズ戦:60,000名×0.4(SR利用率)×2(往復利用)×210円(浦和美園−東川口のみ利用)≒ 1,010万円
   国際試合:60,000名×0.6(SR利用率)×2(往復利用)×210円(浦和美園−東川口のみ利用)≒ 1,510万円

 観客動員が多い試合が行われる際、SRは増発を行うし、利用者を誘導・整理する要員の臨時配置もあるから、増コスト要因も無視はできない。しかし、それと比べても相当に大きな収入となっていることは確実と思われる(※)。レッズが絶頂期を迎え、赤い旋風が追い風として吹きつけてくるここ数年は、SRは増収増益要因をしっかりと抱えることになる。これはSRの経営安定に資することになるだろう。「風が吹けば桶屋が儲かる」の喩えよりもさらに直接的な間柄に、レッズとSRはあるといえる。

※ その意味において、沿線にプロ野球球団を擁する鉄道は強い。一試合毎の観客動員力はともかくとして、試合数が多いことが、需要の底上げに大きく貢献していると思われる。札幌市東豊線(北海道日本ハムファイターズ)やJR東日本仙石線(東北楽天ゴールデンイーグルス)のように、日常的な需要が相対的に少ない鉄道ほど貢献度は大きいはずだ。



埼玉スタジアム
埼玉スタジアムの駐車場にずらりと並ぶ自転車・バイク
近所から応援に駆けつけるサポーターも少なくないことを示している
(W杯アジア一次予選日本対インド戦にて)






■赤い旋風の後押し

 勿論、スポーツには短期間での栄枯盛衰はつきものであって、レッズがまた成績不振におちいる可能性は否定できない。何度も優勝を果たした横浜・鹿島・磐田らは近年精彩を欠いている。昨年優勝を争ったC大阪は今年は一転して大不振、J2に降格することになった。初代優勝チームであるV東京は昨年J2に陥落し、しかも今年のJ2でも成績はふるわず、J1復帰を果たせていない。ひとりレッズのみが同じ轍を踏まない保証は全くなく、現に平成11(1999)年に降格してしまった実績もある。

 そのことを踏まえればこそ、レッズの快進撃を望まずにはいられない。W杯ドイツ大会以降、埼玉スタジアムでの国際試合が組まれていない(※1)実態を考えれば、国際試合なみの観客動員力を誇るレッズ戦は、SRと埼玉スタジアム(※2)にとって大きな収益源となるからだ。

※1 先代日本代表監督ジーコは、国際試合を埼玉スタジアムで行うことに強く執着したといわれている。この噂が本当ならば、ジーコ監督はSRと埼玉スタジアムの恩人であるともいえよう。日本サッカー協会は本来、全国的に目配りしつつ試合開催地を決めなければならない立場にあるから、ジーコ時代のような埼玉スタジアム偏重は今後ありえないと考えなければならない。

※2 埼玉スタジアムは天然芝養生の関係から、最大でも年間30試合程度しか組めないという説がある。いずれにしても、初期投資の莫大さに対して入場料収入から得られる利幅は小さく、経営の苦しさはSRの比ではないと見受けられる。


 以上の観点からすれば、平成16(2004)年にJ1昇格を果たした大宮アルディージャの存在は決して小さくない。大宮はレッズと比べ目立つ特色のないチームで、観客動員力があるともいえないが、人気チームとの対戦時には埼玉スタジアムで試合を組むことから、SRと埼玉スタジアムの需要を下支えしているといえる。再び試算してみよう。

   大宮戦:10,000名×0.4(SR利用率)×2(往復利用)×210円(浦和美園−東川口のみ利用)≒ 170万円

 レッズ戦や国際試合と比べれば、大きく遜色ある数字といわざるをえないが、これだけの利用者数であれば増発等の手当(=必要コスト)も最小限で済むであろうから、SRにとっては決して小さくない数字なのである。大宮は2シーズン続けてJ1に定着しており、優勝争いには絡んでこないものの、そこそこの成績を残している。SRと埼玉スタジアムの経営改善という意味での「地元貢献」を果たすためにも、大宮にはJ1に定着し続けてほしいものである。大宮公園サッカー場の改修がなったのち、大宮は埼玉スタジアムでの試合開催から撤退するおそれもあるが、同じさいたま市内なのだから埼玉スタジアムにも軸足を置き続けてもらいたいとも思う。

 サッカーというスポーツを観るにあたっては不純な心持ちかもしれないが、このような視点もありうると示すことも大事かと思い、一文を認めた次第。



浦和美園駅
浦和美園発鳩ヶ谷行臨時列車の混雑
ナイターの試合後になると23時を過ぎても混雑が退かない
鳩ヶ谷行とは東川口で乗り換える利用者が多いことを示唆する設定である
(W杯アジア一次予選日本対オマーン戦にて)





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