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赤い旋風が再び吹く日は遠い

━━ 平成21(2009)年のサッカー(主にJ1)を回顧する ━━





■今シーズンのJ1寸評

 平成21(2009)年サッカーJリーグのシーズンが終わった。J1での優勝争いは、結果として最終節までもつれたものの、鹿島アントラーズが三連覇を飾り、底力を見せつけた格好になった。なお、J1全チームの今季成績は次に掲げるとおりとなっている。

今年順位昨年順位チーム勝点勝利引分敗戦得点失点得失差
鹿島 662068513021
川崎 641978644024
G大阪 6018610624418
J2−1 広島 561511853449
FC東京 531651347398
浦和 521641443430
清水511312944413
13 新潟 50131110423111
名古屋 501481246424
10横浜FM4611131043376
1116磐田41118155060-10
1214京都41118153547-12
1312大宮39912134047-7
1410神戸39109154048-8
15J2−2 山形 39109153240-8
【降格】1611 34713144157-16
【降格】17 大分 3086202645-19
【降格】1815 千葉 27512173256-24

※リンク先はスポーツナビのコラムで各チーム概論・総括を扱った記事。



 鹿島はシーズン当初はぶっ千切りの勢いを示していた。アジア・チャンピオン・リーグ(ACL)ではまたも早々に敗退したほか、秋口には停滞した時期があったが、終わってみれば圧勝という印象が伴う。実に強いチームである(後述の分析も参照されたい)。

 二年連続二位の川崎はリーグ一の得点力が健在。負けを減らし、昨シーズンより勝点を伸ばし、成長の跡を刻んだ。それでもなお、鹿島には一歩及ばなかった。川崎はナビスコ杯でも決勝進出しながら優勝を逃している。川崎の弱点は、ひょっとすると「優勝経験がない」ことに起因する、「自分たちは必ず勝つ」という確信の薄さにあるのかもしれない。もし本当にそうなら、今後も厳しいジレンマと戦わなければならないはずだ。

 三位のG大阪はようやく本領発揮というところ。得失点差のわりにとりこぼしが多く、勝点で肉迫しきれなかった。遠藤・明神・加地らが活躍している間に、もう一度優勝するシーンを見てみたいもの。

 J2から昇格してきた広島が四位につけたのは立派。というより、J2に降格したことが不思議に思えるチームだ。降格した平成19(2007)年のシーズンと比べ守備が安定し、佐藤寿人の攻撃力が活かされており、上位に食いこむ原動力になった。



 下位チームを見ると、千葉がとうとう最下位に転落した。あれだけ毎年「補弱」を繰り返してきた当然の帰結、というしかない。一試合に一点も取れない攻撃力では勝てない。出資者のJR東日本はどのように立て直しを図るだろうか。

 昨シーズンは優勝争いに絡んだ(ナビスコ杯ではみごと優勝した)大分が17位に沈んだのは、意外というべきか。しかし、スポーツナビのコラムでは、低迷の兆候は優勝争いの最中から既にあった、と分析されている。堅守という特色を失った今、J2で再び出直すべき局面に立ったといえるのかもしれない。

 16位に終わった柏は二度目のJ2降格となる。フランサが長期離脱するなどの不運よりもむしろ、チームとしての特色を失ったように見えるのが気がかりだ。

 J2から初めて昇格してきた山形は、開幕当初こそ快進撃を演じたものの、中盤以降は失速し、辛うじて15位にとどまり一年での降格を免れた。選手年俸総額と勝点が比例するのはJ1の常であり、このままでは来シーズンも苦しい。

 J2降格は結局、勝点34以下という線に落ち着いている。勝点34とは即ち、全試合引分に相当する。要するに、全ての試合で勝点をあげるように戦えば、少なくともJ2降格はないという話になる。

 また、優勝チームの勝点が66と二年続けての低水準となり、数字だけを見れば混戦模様となっている。実際には鹿島の強さが際立っていたわけで、データは必ずしも実態を反映しているわけではない。さて、来シーズンは鹿島を脅かすチームが出てくるか。





■データに見る浦和レッズの低迷

 さて、我らが浦和レッドダイヤモンズ(以下レッズ)についても触れてみよう。結論を先にいえば、平成18〜19(2006〜2007)年のシーズンを最盛期として、現在は奈落に向け下り坂を一直線に進んでいるようなものだ。昨シーズンより順位を上げたとはいえ、力はむしろ落ちている。

 筆者はサッカー好きであるが、高度な専門性を備えた解説を加えるほどの力量はない。それでも、あるデータを構築することにより、レッズ低迷の原因を端的に説明することが可能となった。以下に紹介しよう。

 あるデータとは、主力選手について一試合あたり出場時間を指標化(具体的には総出場時間÷(全34試合×90分)という計算を行う)したものである。分析手法は、この指標が高い選手を11名+α抽出することにより、シーズンを通した平均的なチームの姿を描くというものである。



 レッズが優勝した平成18(2006)年は、ワントップのワシントンが26得点と大活躍したシーズンだった。また、ワシントンだけでなく、MF・DF陣も少なからぬ得点を重ねていた。うち、DFについては、闘莉王が 7点、三都主が 5点を挙げている。

 特に三都主は、守備にほとんど貢献していないという批判があるものの、「DFの常時攻撃参加」という、「三都主システム」とでも呼ぶべき攻撃オプションを行使できる貴重な選手だった。これにパワープレー要員の闘莉王が加わることで、攻撃オプションはさらに厚みを増していた。

浦和レギュラー
浦和レッズの主力選手指標化
各欄左側の数字は総出場時間÷(全34試合×90分)
各欄右側の数字はその選手の得点数


 平成18(2006)年のシーズンオフ、三都主はザルツブルク(オーストリア)に移籍し、ブッフバルト監督も勇退した。ブッフバルトの後を襲ったオジェックは、三都主の代わりに山田(暢)を充てた。山田(暢)は攻撃力のある選手だというのに、また新加入の阿部は攻守両全の選手だというのに、オジェックはDF陣に対し、攻撃参加を事実上禁止した。即ち、レッズのDFは専守防衛となったのである。

 問題は根はこの点に集約できる、と断じてよい。DF陣の攻撃参加機会が激減したことで、攻撃オプションのバリエーションもまた減ってしまい、ワシントンが前線で孤立するようになった。そのため、ワシントンの得点力がめっきり落ちてしまった。山田(暢)の代わりに起用された攻撃的選手は永井だが、永井の得点力が山田(暢)と同水準だったのも痛かった。

 この平成19(2007)年のシーズンは、レッズは優勝を目前にしながら大失速したことで知られる。「三都主システム」を失った影響は小さくなかったのだ。ただし、三都主移籍を止められなかったことよりも、攻守両全の選手を活用せず、DF陣の攻撃参加を禁じる愚策を打った人為にこそ、問題があったと指摘しなければならない。結果として攻撃力が低下した弊害はきわめて大きかった。

 ※この分析を通じてみると、Jリーグ発足当初、レッズが成績下位に低迷していた理由がよくわかる。いくら堅守を誇っても、攻撃オプションが少ないチームは得点力が低く、勝ちきれないというわけだ。

 翌平成20(2008)年のシーズンはさらに迷走した。ワシントンを切り捨てたとはいえ、永井と田中(達)が残っていたというのに、高原とエジミウソンを獲得し、FWの人材をだぶつかせた。さらに、オジェックを 2試合で更迭しながら、DFの専守防衛について実はほとんど見直しておらず、禍根を残した。これはエンゲルスの責任だけに帰すわけにはいかない。攻守両全の(即ち常時攻撃参加できる能力を備えた)DFに着目せず、活用・補強を怠ったフロントにも問題がある。

 闘莉王が常時攻撃参加するようになり、派手な活躍を示したといっても、所詮はパワープレーを常用したにすぎない。「三都主システム」のように攻撃オプションを多様化し、相手に脅威を与える戦術にはならなかった。それどころか、闘莉王が疲弊して戦術にさらなる不平を持つようになり、本末転倒な屈託をも呼びこんだ。

 病巣の根本を放置したままカンフル剤を投与され、一時的に元気になったものの、直後に病状がより一層悪化した危篤患者。……それが当時のレッズの姿だった。

 この平成21(2009)年のシーズンは、フィンケ体制のもと、迷走と混乱の度がより一層深まった感がある。選手の若返りも戦術の大幅転換も、未だ中途半端な段階にあるといわざるをえない。しかもDFの専守防衛体制は、実は見直されてはいない。FWの攻撃力を上げるためにも、DFの(闘莉王のようなパワープレーでない)攻撃参加はたいへん重要だと思われるのに、手をつけないのは不可思議である。

 現状のレッズは、得点力の低いFWを多く並べ(高原の出場時間が案外長い点に注意)、しかも闘莉王のパワープレーにも依存する、草サッカーなみのチームに成り下がっている。個々の選手の能力が高い以上、あまりにも滑稽すぎる姿ではないか。このままではレッズの低迷は長期化し、再興は遠いと悲観するしかない。フロントを刷新し、確固たる展望を持った選手補強を行わない限り、赤い旋風はもはや吹かないだろう。

 レッズのサポーターは、昨シーズン以上にスッキリしない感情を抱えているはずである。勝敗は時の運、しかし、勝ちを目指す姿勢は絶対的に必要である。たとえ優勝できずとも、「優勝を目指した方法論」を正しく践んでさえいれば、相応の支持を受けるはずだ。後述する観客動員数に冷酷に刻まれているとおり、レッズ主催試合の観客動員数は明確に減少しており、コアなサポーターが支えている格好になっている。本当にこのままでいいのか。

 繰り返しながら、はっきりと記しておこう。「優勝できなかった」ことが問題なのではない。「優勝を目指した方法論」をフロントが持っていないことが大問題なのだ。

鹿島レギュラー
鹿島アントラーズの主力選手指標化
各欄左側の数字は総出場時間÷(全34試合×90分)
各欄右側の数字はその選手の得点数


 念のため対比すると、鹿島の強さはやはり際立っている。なるほど、数字の表面だけを比べれば、FWの得点力が高い点を除き、レッズと大差ないようにも見える。とはいえ、地力の差は明瞭といわなければならないのが実態だ。

 ここで岩政に注目してみよう。DFにいながら、毎シーズン得点を重ねている選手だ。岩政は攻守両全の選手ではないし、またパワープレー要員ともいえない。それでも得点を積み上げているのは、試合の流れを読む能力に長け、必要とあらば前線に飛び出すことを躊躇しないからである。

 ひとり岩政のみならず、鹿島はほとんど全ての選手に、上記の感覚が備わっているかのようだ。小賢しいシステムに頼ることなく、各選手の確かな実力を基礎とし、瞬時の局面を突破することから試合の流れを引き寄せる。顧みれば、今シーズンの開幕戦が典型で、フィンケ新体制のコンビネーション・サッカーとやらを、カウンター攻撃であっさり返り討ちにしたのが鹿島であった。

 ※平成18(2006)年の田代・深井、平成19(2007)年の柳沢・ファボン・増田・興梠、今年の大迫・田代など、短い出場時間中に得点を挙げる選手が多いのも鹿島の特色の一つである。レッズも優勝した平成18年には、当時サブだった小野・永井・田中(達) 3名で計13点を挙げているわけで、かような選手がいるチームが強いとも形容できる。

 鹿島は、現レギュラーの力が落ちない限り安泰である。世代交代さえうまく進めれば、今後もJリーグに君臨し続けるのではないか。今のレッズではとても届きそうにないし、川崎・G大阪などの有力チームにしても鹿島を追い越せるかどうかは難しいところだ。





■埼玉スタジアムの観客動員数

 埼玉スタジアムでの観客動員について、今年の実績を踏まえアップデートしてみよう。レッズの不振から、今年の数字は灰色で表示してみた。また、テキストのサイズが大きくなったため、データベースからの画像化を行ってみた(合計サイズはかえって大きくなるが文字・背景の色を編集しやすくなるので御容赦)。

埼玉スタジアム観客動員実績




 レッズの観客動員力低下は覆いがたいものとなった。最高動員53,783名とはあまりにもさびしい数字だ。かつてはJリーグ終盤戦に60,000名前後の観客が集まってきたものだが……。ナビスコ杯に至っては30,000名に届かず、しかも予選より準々決勝の方が動員力が低いありさまだ。

 もっとも、Jリーグでの観客動員が40,000〜45,000名程度で安定しているのは、レッズの地力を示す部分といえるだろう。これだけの観客(おそらくはコアなサポーターが中心)が期待し続けているのだから、レッズは期待に応える責任と義務がある。

 レッズの観客動員は、埼玉スタジアム輸送を担う埼玉高速鉄道の経営に少なからぬ影響を与えてもいる。今年は間違いなく下方修正要因となったはずだから、来年はもっと奮起してほしいものだ。

 埼玉高速鉄道といえば、大宮が埼玉スタジアムでの主催試合を継続しているため、需要の下支えとなっている。特に10月17日の川崎戦は42,346名動員と、大宮主催試合での最高記録となった(大宮主催の浦和戦よりも多い!)。初優勝の期待高まる川崎が相手という追い風を考慮しても、レッズなみの動員実績を残したのは立派なものである。

浦和美園駅
浦和美園駅臨時ホームの混雑(平成16(2003)年のW杯アジア一次予選日本対オマーン戦後の状況)
この試合の観客動員数は60,207名。四年前のW杯予選では60,000名前後の観客動員が普通だった。


 日本代表戦は、そもそも埼玉スタジアムでの開催が一試合しかなく、これまたさびしい限りである。W杯出場決定がいよいよ目前に迫った時期のバーレーン戦で57,276名。数字はまずまずとしても、四年前の熱気からは遠くなった感がある。ただし、アクセス不便な埼玉スタジアムでの開催が嫌気されている可能性もある。

 日本は四大会連続でアジア代表となり、今後はW杯本大会に向けた強化と調整の時期に入る。来年は埼玉スタジアムで日本代表戦が行われる機会がより少なくなる可能性が高い。それでも「鉄道ナショナリスト」の筆者としては、埼玉スタジアムでの国際試合が一試合でも多く開催され、埼玉高速鉄道の収入が伸びることを期待せずにはいられない。





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