このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成13年 3月22日)

『異人館』(白石一郎著:講談社文庫)

  白石一郎はここ数年、私が非常に気に入ってよく読んでいる作家である。マイブームの話をさせてもらえば、5年前は、宮城谷昌光に凝り、4年前は、池波正太郎、3年前は平岩弓枝、一昨年は吉村昭の本をおそらく一番読んでおり、昨年一番読んでいたのは白石一郎の本ではないかと思う。

 それで一度は書評に何かいい本あったら書こうと思っていたのだが、とりわけ新しい本ではないので、今まで書評に書くことはなかった。今回の本も実は平成9年に単行本として出ている本だが、文庫本として1月程前発刊されたので、読んでみて気に入ったので、取り上げることにした。
 
 白石一郎は、ファンの方なら知っていると思うが、朝鮮半島の釜山生まれの玄界灘のとある島(ド忘れ)育ちとのことで、九州というものに非常に拘っている作家である。小説の舞台も、長崎、福岡など九州が非常に多い。また海辺で育ったせいであろう。海や船乗りの話が非常に多い。

 今回の作品の主人公は、トーマス・B・グラバー、あの幕末時代、長崎においてイギリスの一商人として、多くの雄藩政治家、志士達と関わり、日本の幕末明治維新に大きな影響を与えた人物である。私は、高校時代、さして彼のことを知らず、修学旅行でグラバー邸を訪れたが、山の緩やかな斜面にさして大きくはない邸宅が幾つかが、長崎湾を自分の庭の風景にしているかのような眺望のすばらしさに、王侯貴族の宮殿などの贅沢さとは別の、品のいい瀟洒な贅沢さを感じたものである。私も、もし金持ちになったら、こういう別荘を建てたいものだと思ったのを覚えている。

 さて作品の方だが、安政6年(1859)4月から始まる。実は、最初の章「上海の月」では、グラバーはなかなか登場してこない。この章の主人公は、林大元こと、もと九州豊後岡藩の家臣・山村大二郎である。彼は元、勤王攘夷派の急先鋒で、従兄弟の佐幕派の山村国介と口論のあげく、決闘し、斬ってしまい出奔し、一時長崎の寺院に隠れるが、捜索が寺近辺まで及ぶにいたり、蘇州の寺を紹介してもらい、名前を変えて清国へ渡ったのである。彼は従兄弟を斬った事もあり、真剣に仏道修行にはげもうとするが、蘇州は太平天国の乱などで混乱を極め修行などするような環境でないので、上海に移動する。そこで、ちょっとした喧嘩から黄小波という水夫設教という秘密結社のメンバーと知り合い、その頭目の一人である翁青蓮の用心棒となる。密貿易を手がけるため、小刀族、長髪族、天地会、三合会など対立する秘密結社も多く、争いが絶えなかったのである。

 そのような生活の中で、彼は、彼の人生のその後を決めるマッケンジーとグラバーと出会う。ある日、
敵対する秘密結社の襲撃で、敵に合図を送っていた密偵を救おうとして、マッケンジーらがいた怡和洋行(ジャーディン・マセソン商会)に匿ってもらうことになる。戻れなくなった林はかねてから元日本人であった林を雇いたがっていたマッケンジーとグラバーに従い、まだ罪も消えず堂々と国へも帰れないことから、清国人林大元として日本に渡ることになる。 日本に渡ったグラバーらは・・・・・・・
 
 疲れてきたのと、これ以上書いても、単なる要約になるので、この辺にて終える。まあ後は、読んでのお楽しみ!


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