このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成16年10月4日)

『高瀬川女船歌 銭とり橋』(澤田ふじ子著:幻冬社)

 (2003年4月25日第一冊刷発行:A6版:¥1600E)
 澤田ふじ子氏は、現在私が好きな女流作家の三人のうちの一人である。あとは平岩弓枝氏と宮部みゆき氏である。私は時代小説が好きなので、特にこの3人が好きになってしまったのだろう。(勿論、三人の時代小説以外の作品も読んでいます)。彼女のほかのシリーズ、「足引き閻魔帳」シリーズ、「公事宿事件書留」シリーズ、「祇園社神灯事件簿」シリーズ、「禁裏御付武士事件簿」シリーズ、「真贋控帳」シリーズなど彼女の全てのシリーズ作品の続編を、いつも楽しみにして待っていますし、他の多くの作品も殆ど読んでいます。

 高瀬川女船歌シリーズ第3弾。まずこの第3巻ともいえる本の中で展開する話ではないのだが、主人公宗因の身上話を簡単に、しておく。主人公の宗因は、元尾張藩士で本名を奈倉宗十郎。京屋敷勤務の際、京留守居役に公金横領の罪を着せられ、追っ手を逃れ、諸国を廻った後、京に戻り潜伏していた。後に、冤罪も晴れ、藩から帰藩の話があったが、それを断り今は木屋町筋に居酒屋の主として市井の人々とともに生きているのであった。

 また今回第3作のシリーズには、準主役ともいうべき、普照という僧が出てくる。その僧の境遇というか設定も述べておこう。最初の話「短夜の笛」から「銭とり橋」までの6編の話全てに登場する。彼(普照)の父は、近江国高島郡高嶋に陣屋を構える大溝藩の武士で、熊田治左衛門といった。だが藩財政窮乏のため永御暇(ながのおいとま)を命じられ、西の山一つへだてた朽木村に移り隠棲した。その子で大炊助(おおいのすけ)と呼ばれていた普照は、当時14歳であったが、朽木村の興聖寺で得度し、久多・下村の自性寺に送り込まれ、それから約10年、貧しい久多の村々を少しでも富ませるには朽木村に向かって流れる安曇川に橋を架けるしかないと決意し、勧進のために京に出てくる。

 第1話では、この宗因と普照が、シリーズ第2弾で登場したお蕗が、隠岐ノ島から戻ってきたことを契機に出会い、親しくなる。そして二人の周りで起きる市井の事件に、関わりあいながら、時には彼を蔭ながら助ける角倉会所などの人々の手を借りたりして、智恵と勇気で様々な事件を解決していくのである。

 最終話の第6話では、普照の念願であった橋の普請が、勧進で集めた金をならず者によって巻き上げられるのであった。橋の普請が当分は困難となったところを、宗因をはじめ彼の志を見守っていた多くの者達が、宗因の居酒屋「尾張屋」に集まり、額を寄せ合い解決を何かと考えていた。そこへ・・・・・・。
 江戸ではなく、京という町に関する多くの時代小説を書いてきた澤田ふじ子氏。この作品でも、京の町の高瀬川筋に住む市井の人々の哀歓を、情緒豊か、肌理細やかに綴っっております。ぜひ皆さんも、一度お薦めします。

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください