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書評(平成17年01月20日)

『一諾〜希布・遊侠伝〜』(塚本青史著:徳間書店)

 私は、今から20年ほど前、高校生時分、陳舜臣さんにはまり、よく中国ものの小説を読んでいました。その時知った希布、荊軻、班超という人物(参考「中国任侠伝」文藝文庫)が、その頃の私のヒーローになっていたことを思い出します。
 数日前、地元の図書館をちょっと覗いたところ、新規購入本のコーナーにこの本を見付け、タイトルにひきつけられ、中身を斜め読みすることもなく、すぐ受付カウンターに貸し出しを頼みました。

 この本のタイトルは、勿論、有名な故事成語「希布の一諾」から採ったものですが、実際に読んでみると、希布については出てくるのは最初の一章ほどだけ。項羽の武将として垓下の戦いまで敵側として戦ったことを許され劉邦に取り立てられた希布の姿が詳しく描かれているのが、今までと少し違うかなと思ったが、希布についてもうちょっと描いて欲しかっただけに、少しがっかりでもあった。

 しかし、私が今まであまり注目を惹かなかった希布の弟の希心や灌夫、王公、郭解などといった男達についても、詳しく魅力的に活々と描かれていて面白かった。またその他の人物でも、劉徹(武帝)のほか、高校の頃、難関大学の世界史で出題されると聞いていた桑弘羊や公孫弘なども出てきて、教科書や参考書では知ることの出来ない経歴などが話の中に出てきたりして大変興味深く読むことが出来ました。

 この作品は、主に司馬遷の「史記・遊侠列伝」からネタをとったものであるようですが、やっぱり司馬遷というか中国は、すごいなーとも思いました。何せ国家公認の正規の歴史書が、日本でいえばヤクザにあたるような人物をピックアップするというこんな編纂するのだから、何か懐の深さのようなものを感じてしまいます。日本の歴史書の中にも、盗賊列伝のようなものを含めていたら面白いものができていたかもしれないなーと思うのは私だけでしょうか。

 それからまた中国の歴史ものは、毎度読んでいて思うことですが、三国志にしても、水滸伝にしても、他の歴史書にしても(日本ではすぐ、千姫さまがどうのこうのとか、お市の方がどうのといったように)女々しさが出てくるような事はなくて、スカッとして男っぽく、読んでいても、ホント気持ちがいい。

 最初に述べたように、まあ今回のこの本はタイトルの希布については、あまり書かれていないですが、単なるチンピラと違う、任侠という信義に生きた気持ちいい男伊達、漢(おとこ)達を沢山知り得て満足のいく作品でした。塚本氏の本はだいぶ以前「霍去病」を読んだだけでしたが、これを機会これからもまた色々読んでみたいと思います。

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