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書評(平成17年04月27日)

『はやぶさ新八御用旅 日光例幣使道の殺人
(平岩弓枝著:講談社)

 この書評のコーナーで、もう何度も平岩さんの本を紹介しています。皆さんは「また平岩さんの作品か」と思うかもしれませんが、私は彼女ののファン(特に時代もの・歴史もののファン)なので、今後もまた書くことでしょう。皆さんにも是非とも彼女の作品をできるだけ多く読んでいただいてほしいと思ってます。

 ファンを自称している割には、今回は初版が発行されてから、数ヶ月経ちこの本を読んでおります。実は不景気で、小遣いを抑えねばならない財政事情などもあり、最近は本もあまり買えずできるだけ図書館の本で我慢しています。でもこの作品は、いくつかの図書館で探したもののなかなか見つからず、最近、我家から少し離れた図書館(田鶴浜図書館)でやっと見つけ、読むことができました。 
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 この「はやぶさ新八」シリーズは、最初は「はやぶさ新八御用帳」という名前で、江戸の町でおこる事件を、南町奉行所の奉行・根岸肥前守(ひぜんのかみ)鎮護(やすもり)の内与力・隼新八郎が、解決していくというものでありました。しかし最近は、例えばこの作品以前の2作は、今回と同じくいずれもタイトル名の頭に「はやぶさ新八御用旅」と冠し「東海道五十三次」、「中仙道六十九次」となっており、シリーズ名が改まった感じがします。平岩さんとしても、江戸だけに活躍の舞台を制限しては、ネタも制限されるのでしょうね(彼女の「御宿かわせみ」シリーズでも、最近はよく他地方が舞台となってます)。

 ところで、主人公の隼新八郎ですが、先ほど内与力といいました。内与力は実は普通の与力とは立場がかなり異なります。奉行個人の家臣である者が、主君が奉行に就くことで与力となったのであり、今でいうなら秘書とかのような立場でしょうか。奉行の異動に関係なく永続的に務める与力とは異なります。ですから本来は町奉行所としての実務は、吟味方与力などが行い、内与力は、ほとんど実務に携わることはないのですが、この作品では、定廻りなどの行動とは別に、肥前守の密名など受け、事件の探索・解決などにあたるという設定になっています。

 前置きのつもりの話が長くなってしまました。今回は日光例幣使道が舞台です。日光例幣使という言葉は、あまりご存知ない方もいるかもしれませんが、(江戸時代を扱った)時代小説にはよく出てきます。今回の本の冒頭「はじめに」にも説明されているのですが、日光例幣使とは、簡単に言うと、朝廷(天皇)が、毎年勅使を遣わして、徳川家康公が祀られている日光東照宮へ、(旧暦)4月16日奉幣させる行事であり、日光例幣使(街)道とは、上野国(群馬県)倉賀野(高崎市南部)で、中仙道からそれて日光へ向かう道のことです。

 今回の事件の発端というか、この例幣使の最初の異変は、まず京を出発して最初の宿に着く守山で起ります。一行の人数48人のうち、一人が行方不明となり、47となったのです。齟齬があってはならぬ旅程だけに事は秘せられたが、その話が尾張藩を通じて肥前守に伝えられ、新八にも教えられた。そしてその4日後、今度は木曽路で例幣使の供人(ともびと)らしい人物が殺されているのが発見。しかし、その後人数はいつのまにか元に戻り、例幣使の側でも何事もない、と言っている旨が尾張藩を通じて、肥前守に伝えられた。

 そして上の第二報が伝えられた夜、例幣使一行の中から抜け出て着たという村井彦四郎という者が、関白・鷹司家からの書状を持参し肥前守を訪ねてきます。そこには新八郎に、この使いの者と伴にやって来てもらい、例幣使の窮状を救ってほしいというものでした。ただし、その書状では、願い主や、願いの内容は事情によって明らかに出来ないとのことでありましたが、新八郎を信頼し指名しての熱い願いに、新八郎も肥前守に許しを乞い応えることになります。

 今回の作品でも、以前の作品にも出ていた藤助、雪路などがまた重要な役回りで登場するほか、毎度おなじみのメンバー、鬼勘や、その娘・小かん姐さん、大竹金吾は勿論登場し、新八郎を取り巻く人々が、彼を慕って助力し、事件を解決していきます。例幣使を狙う一味の予想外の目的は何か。またその一味さえ予期しなかった思わぬ事件にも遭遇するが、詳しくは・・・・それは読んでからのお楽しみにしましょう。

 一つヒントを言っておきますと、今回の作品は18世紀末の幕府と禁裏の緊張関係の事実を、うまく取り入れそれを遠因とした事件仕立てにしてあります。あまり書かれることのない江戸中期から後期にかけての朝幕の関係なども勉強できて、ほんと為になりますよ。皆さんにも、是非読んでいただきたい一冊です。
講談社 平成15年12月15日初版発行 ¥1500-(税別) 見開きB5版サイズ

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