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書評(平成17年05月07日)

『御宿かわせみ 小判商人』(平岩弓枝著:文藝春秋)

  毎度同じようなお詫びで申し訳ないが、またまた平岩弓枝氏の本の紹介となってしまった。でも彼女の大ファンですし、これは私のハンドルネームの由来となったシリーズ小説でもあるので、ご勘弁願いたい。
 余談ですが私は昨年、お隣の旧・鹿島町(中能登町)で講演会を聞くことができ、その時のカセットレコードは宝となっております。(^ー^)

 この本は、つい先日4月30日に発刊されているようだから、まだ新刊のホヤホヤである。私は最近は、読みたい本は図書館で探して借りてくることが多いのだが、一昨日店頭に積み重ねられているのを見て思わず買ってしまった。

 このシリーズも、もうこれで31冊(文庫本では33冊)目となる。平岩さんは、この小説を書き始めて、もうかれこれ30年以上経つはずですが、彼女にとってはライフワークのような作品となっているのではないでしょうか。

 今回の作品は全部で7作で、そのうち表題作「小判商人」は終わりから2番目です。その表題作は、幕末の為替問題に絡んで暗躍した商人を扱ったもの。幕末、通商条約を結んだ後、海外と日本における金銀の交換比率や、純度が大幅に違うことから、大量の金が海外に流出する状況が出現して、日本は困難に直面するが、この時の模様は、佐藤雅美氏の『大君の通過 幕末「円ドル」戦争』など、多くの小説に書かれているので知っている方も多かろう。

 このシリーズの中では、メキシコ・ドルラルに関わる事件は、以前にも「初春弁才船」の中の「メキシコ銀貨」という作品の中で出ているし、また今回の本の中でも、表題作の他に一番最初の「稲荷屋の飴屋」という作品の中でもメキシコドルラルが絡んでくる。そして両方の事件が、この表題作の事件にも関わってくるのである。

 考えてみると、この事件が問題となっていた頃は、駐日英国代表オールコックや米外交官ハリスが活躍した時期であるから、もう幕末もかなり押し迫り(あと5,6年?)混沌としていた時期でもある。主人公のひとり神林東吾も、築地の軍艦操練所に通いはじめてからかなりになる。

 私は、シリーズが刊を重ねるにしたがいどんどん維新が近づいてくるので、読むたびに色々気になってしょうがありません(小説の話に過ぎないのだが・・・・苦笑)。幕府崩壊や戊辰戦争のあたりまで話しが進んだらどうなるのだろう、軍艦操練所に勤務する東吾は榎本武揚などともに、函館の五稜郭にまで行くのだろうか、源さんは奉行所をやめてどうするのか、新政府の中で警察官としてまた仕えるのか(実際にこのパターンが結構あったようだ)、それとも維新とともにこの作品は最終回となるのだろうか、と。

 まあシリーズの終焉も気になるが、作品をできるだけ楽しむことにしましょう。今回も「かわせみ」を取り巻く人々の心模様に、思わずぽろっと涙をこぼしてしまうような作品が何作もあります。またいつものように江戸風情を満喫できる作品が多々あります。
 私としては表題作のほか、「明石玉のかんざし」、「文三の恋人」、「初卯まいりの日」なども良かったと思います。皆さんも、よかったら読んでみてね。
文藝春秋 2005年4月30日初版発行 ¥1800-(税別) 

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