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『重蔵始末(三) 猿曳遁兵衛』(逢坂剛著:講談社) |
逢坂さんの本で私が、今のところ読んでいるのは、このシリーズだけだが、一応前二冊とも読んでいる。主人公の重蔵とは、江戸時代、北方探検で有名になったあの近藤重蔵である。ただし樺太とロシア大陸の間間宮海峡を見つけた間宮林蔵とよく勘違いする人もいるが、間宮はもう数十年あとの時代の人間であるの。このシリーズは、その近藤重蔵が若かった寛政の頃、火付盗賊改をしていたのを捕物帳に小説にしたものだ。余談だが、火付盗賊改というと鬼平こと長谷川平蔵を思い出すかもしれない。この頃その平蔵も火付盗賊改方の本役として働いている。 シリーズ第二作までは、重蔵が入っていた組は、火盗改方加役・松平左金吾組与力であったが、今回は御先手組組頭太田運八郎が松平左金吾に代って、火盗改方加役となり、職務に通暁する重蔵が引き抜かれ、太田運八郎の組に譲られる形で再び火盗改をやることになったとある。太田運八郎から重蔵を引き抜かせてほしいとの話があった際、倣岸不遜の重蔵の態度が普段から気にいらなかった松平左金吾が、喜んで譲ったと書かれている。重蔵は、少年の頃から神童のように言われていた秀才らしいが、本当かどうか私は知らぬが、この小説では彼の性格を、そういう風に描いている。 第1話の「突っ転がし」の“突っ転がし”とは、人を突き飛ばして、その倒れた隙に、懐のものや、持ち歩いている金目のものを盗むことをいうらしい。重蔵配下の根岸団平と橋場余一郎は、突っ転がしの現場に出会い、団平は犯人を追うが、浪人の平井権八郎という者が、その突っ転がしの前に立ちふさがり、峰打ちで叩き伏せ、犯人は取り押さえられる。突っ転がされたのは、神田紺屋町の呉服問屋信濃屋忠八の妻みの。突っ転がしをした吉三郎という遊び人を調べたところ、おはつという女に頼まれて二分で、おみのを突っ転がすよう引き受けたという。おはつは、呉服問屋信濃屋に恨みがあるのか、近いうちに信濃屋に火をつけるだとか、盗賊一味を引き連れ押し込みに入るだとか言っていたという。取調べで、忠八・おみのに、“おはつ”という女に心辺りはあるかと聞かれ、無いと答える。その話を聞いた重蔵は、一計を案じ、吉三郎を見せしめの重敲きにするよう指示し、その噂を街中に流すが・・・・ このシリーズ三作目は、音無しの喜兵衛という盗賊の一味である“りよ”という美人の女賊が、この第一話「突っ転がし」から、「鶴殺し」「磐石の無念」、それに最後の「簪(かんざし)」の話まで、絡んでくる。“おりよ”が最初に登場したのは、前作のシリーズ第二作からだ。“おりよ”は、読者に、「磐石の無念」の話までは、逃げる際、顔を故意に見せるなど鼠小僧のような、かっこ良さを感じさせてくれるが、しかし、何度も重蔵に邪魔をされた“おりよ”は、「磐石の無念」でははっきりと重蔵に挑戦する姿勢を見せ、それも失敗した後の「簪」の話に出てくる“おりよ”は、今度も方法を変え、重蔵に挑戦してくることになる。 表題の「猿曳遁兵衛」だけ、“おりよ”が絡まない。「猿曳遁兵衛」では、自分のつかう猿が武士の喉を噛み切って殺してしまった事件を起こして消えてしまった猿つかいが、昔盗賊の猿曳遁兵衛かと思ったが、もう一つ起こった事件を追ううち意外な結果が・・・・。 それに対して“おりよ”が絡む話は、犯人が何とか、他に注意を惹きつけることによって、真の狙いを果たそうとするが、「磐石の無念」の話まで重蔵の為に悉く失敗する。最後の「簪」の話でも、今度はとうとう重蔵の命を狙うかのように見せ掛け、実は狙いは・・・・ 次回シリーズ第4作では、重蔵が探索に執念を燃やし頑張る事が予想されるので、どんな話が展開されるのか楽しみである。もうそろそろ新作が発行されてもいい頃なので、待ち遠しい。 |
講談社 2004年3月25日初版発行 ¥1700-(税別) |
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