このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成17年08月3日)

『お吉写真帖 明治維新新技術事始め』
(安部龍太郎著:文藝春秋)

  『お吉写真帖 明治維新新技術事始め』は文藝春秋平成12年7月30日初版発行の安部龍太郎氏の本である。「ヘダ号建造」「お吉写真帖」「適塾青春記」「オランダ水虫」「まなこ閉ぢ給ふことなかれ」「贋金一件」の6作からなる。

 「ヘダ号建造」は、伊豆の戸田(へだ)で日本最初の西洋帆船建造された時のいきさつを上田虎吉といゆ舟大工を主人公として描いた作品である。1854年(嘉永7年)日本開港の交渉のためディアナ号に乗って日本にやってきたロシアのプチャーチンが、下田で停泊中、沖合いの海底で起きた大地震による津波のため、船が破戒され、ロシア人の指導のもと、かわりの小型船をこの戸田で作るという内容だが、この話は幕末の有名な話なので、私も幾つかの小説で何度も読んでいる。この事件を知るにはもっともコンパクトでいい作品かもしれない。

 「お吉写真帖」は、先日読んだ「光る海へ」にも出てきた下田出身の写真家・下岡蓮杖を主人公とした作品です。

 「適塾青春記」は、適塾出身の長与専斎を主人公とした作品です。この長与専斎は、これまた先日読んだ「ドンネルの男 北里柴三郎」にも登場していましたが、明治初期の日本医学会で重要な役割を果たした人物です。読んでいて長与の性格が非常に自分に似ていて、何かいい感じを受けた。

 「オランダ水虫」は、榎本らと一緒にオランダに留学し、国際法や経済学、統計学など学び明治初期に活躍した西周助(周(あまね))を主人公とした作品である。話は、オランダへ留学する途上、日本人たちは、船の上で海軍士官や職方、文官などが考えの違いなどから、対立しがちだったが、それが難破などの試練を通して次第に一丸となっていく姿を描いた作品。

 「まなこ閉ぢ給ふことなかれ」は、日本の女性新聞記者第1号となった向井春子を主人公とした作品。日本人最初の弁護士資格を取得し後日大物政治家になる星亨(ほしとおる)という人物がいるが、彼女は武家の娘ながら彼に操を奪われ、彼を執拗に追いかける。しかし星亨は受け入れない。そんな中、幕末の動乱の中、鳥羽伏見の戦いで父が死に、また兄が彰義隊に加わり上野で死ぬ。その際の事情を調べるうちに官軍方が流す情報とは違い、会津軍に化けた長州軍が、兄が配置についた後方から奇襲をかけたという事実を知り、どうしてもこの事実を官軍方の圧力に屈せず公にしたいと春子が活躍。そしてそれが日本最初の女性記者へと・・・・

 「贋金一件」は、加賀藩の支藩大聖寺藩の話。大聖寺藩を含め加賀藩前田家は鳥羽伏見の戦いの結果が出るまで、幕府が負けるとは思ってもみていなかった。そのため、鳥羽伏見の敗戦を聞くと同時に官軍に恭順の意を示すしかなかった。大聖寺藩はその際、パトロン(銃弾)20万発の提供を命ぜられる。でも大聖寺藩は、長年財政難にあり現状ではとても無理。そこで採った方法が・・・・。これは私のいわば地元石川県の話であり、ここに出てくる東方芝山や石川嶂(たかし)の名は聞いたことはあったが、この本を読むまで恥ずかしながら詳しくは知らなかった。これからはもっと調べてみようかと思っている。

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