このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成17年08月8日)

『小説 人間西行』
(大坪草二郎著:葦真文社)

 NHK大河「義経」に影響を受けてという訳ではないが、ほぼ同時代に生きた歌人西行に関する小説を手にとって読んでみた。本屋から買ってきたという訳でも、図書館で見つけたという訳でもない。だいぶ前に兄の義理の父にあたる人から大量の本を借りて、そのままになっていたもののうち、その中の一冊をとって読んでみただけである。

 葦真文社という東京にある小さな出版社から20数年前に出ている本で、インターネットで検索しても見つからないような本だから、果たしてここで紹介しても意味があるのかなと疑問を感じてしまうが(笑)。

 西行は平安時代末期・源氏や平家といった武家が力を持ち始めた時代に生きた歌人である。私も、昔和歌を作った際、西行にあやかって「南行」などと号した(何故、「南行」かというと、高杉晋作がやはり西行にあやかって東行と号したことがあるというので、私は南行と号したのだ)ことがあるくらい好きな(たぶん一番好きな)歌人である。

 西行は、俵藤太の第9代後裔という名門藤原家の直系出身で、俗名を藤原義清(のりきよ)といい、もと強弓をひくことで有名な北面の武士であり、また柿本人麻呂の再来といわれるくらいの歌人であったが、醜い権力争いに厭き、出家した。

 出家はしたものの、僧侶の世界も俗世間以上に、欲得からみで、権勢好きなところがあるのを知り失望する。つまりほとんどの僧侶は、捨てるがために出家するのではなく、何かを得んがために出家しているのであって、出家は現世利益の好方便以外の何ものでもないのであった。
 
 西行は、そんな僧にも背を向け、求道の旅にでる。そして和歌作りも、行脚先で続け・・・・・

 もと有名な歌人で強弓の武者としられた北面の武士であっただけに、登場人物は、当時の、右大臣頼長、関白忠通といった藤原家をはじめとした有力貴族や、平清盛、源頼朝・義経兄弟といった平氏や源氏の主だった人物が総出演しているといった感じである。勿論、今大河ドラマで放映中の「義経」と同時代の歴史を、別の角度から見るという意味で、この本を読むのというのも面白いのではないかと思う。

 また「小説 人間西行」というタイトルだが、内容はかなりその生涯をコンパクトに纏めらている気がした。西行入門として読むにはいい作品ではなかろうか。もし皆さんも、どこかの図書館で見かけることがあったなら、一読をお薦めしたい。  

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