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書評(平成17年08月9日)

『花輪茂十郎の特技〜八州廻り桑山十兵衛〜 』
(佐藤雅美著:文藝春秋)

  八州廻りとは、正式には関東取締出役という名の役目を担う者達である。組織としては勘定奉行所の勝手方の代官の手付け・手代にあたる者達で、関東八州を巡回(廻村)し、博打打やゆすりやたかりなどするゴロツキどもを見つけ次第片っ端からひっとらえて江戸に送り、関東の治安を維持する役目を負うのである。

 あの有名な国定忠治なども、そういうことで八州廻りから追い回されたことは有名である。この小説の主人公の桑山十兵衛は、その10人いたといわれた八州廻りの一人という設定になっている。

 今回の作品は、その八州廻り桑山十兵衛シリーズ第5作目である。一応それ以前の作品は、私は全部読んでいる。ただシリーズ作のおのおのの作品が発表される合間が結構長いので、前作の内容を結構忘れていて、今回の作品の中で以前の事件のことが時々述べられてそういえばなんかそんな事件もあったなー、程度で思い出し、以前の話の再確認もしたりして、はなはだもどかしい読み方ではあったが。こういうシリーズものは、数巻まで(または最終巻まで)出来た時点で一気に読むほうがいいのかもしれない。

 佐藤雅美氏は、人生とはとかく、自分の思い通りに事が運ばぬことや、誤解が多く、悲喜こもごもの人生を送るものだといわんばかりに、そういうような主人公をよく描く。この十兵衛が就いている八州廻りも、関八州の廻村のため、一年の大半家を空けねばならず、家庭生活に破綻をきたしやすく、作品の中でも、シリーズごとに、家を長い間留守にしがちな八州廻りの因果に十兵衛は悩まされるのである。

 今回も、十兵衛が廻村中に、以前十兵衛と関係をもったことがある下総佐原の廻船問屋の出戻娘とくが、十兵衛の家を訪れ、そこに十兵衛の妻として(前回作で妻となった)登勢がおさまっていることに、嫉妬?して、十兵衛はほんとうは私と一緒になるはずでした、と妻に言ったことから、妻・登勢が誤解し、夷隅郡白旗村の実家に帰ってしまう。

 早く誤解を解いて、妻を連れもどしたいが、関東八州を巡回し廻村しなければならない役柄、何か事件が起こると上から指示が出て、そこに出張しなければならない。登勢を連れ戻せないままで数度の廻村に出かけ、数ヶ月が経ったころ、佐原で、仙蔵という破落戸(ごろつき)が、自分のお墨付きをもらったと勝手に言って、とある事件を起こす。しかもそのお墨付きは、妻の登勢に嘘を言って里に帰してしまう原因をつくった佐原の廻船問屋の出戻り娘とくを通じて、十兵衛が出したという話になっているという。

 十兵衛は自分がからんでいるだけに、他の八州廻りにまかせるわけにもいかず佐原に向かうが・・・・・・・・

 今回も、なかなか面白い追跡劇となっていて、読者をあきさせない十分読み応えのある作品となっています。ぜに皆さんもご一読お薦めします。

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