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書評(平成17年09月07日)

『風盗』(戸部新十郎著:廣済堂文庫)

 著者の戸部新十郎氏は、私が住む(石川県)七尾市の出身である。早稲田大学政治経済学部中退後、新聞記者を経て文筆活動に入ったそうだ。日本文芸家協会会員、私の好きな池波正太郎氏、平岩弓枝氏、山岡荘八氏、村上元三氏などと同様、新鷹会会員である。戸部新十郎氏の作品については、今までにも『蜂須賀小六伝』、『北辰の旗』、『秘剣 花車』、『加賀風雲録』など、勿論何作か読んだが、今度の作品は今までで一番面白かったような気がする。

 戦国の世に、一人一芸の芸能・技能集団の闇の集団に曾呂利新左衛門伴内を首領とする曾呂利党とかしゅろりの党といわれる一党があった。首領伴内の息子・高丸は、日本一の釜師・西村道仁のもとで修行し、一人前になった頃、父親から呼び出され、曾呂利党に呼び戻される。秀吉に仕えるためスッパの首領・蜂須賀小六に迎えられるが、岐阜城で秀吉に会うと、秀吉はちょうどそこに来ていた毛利家の使僧・安国寺恵瓊に贈物のように与えてしまう。その後恵瓊の使いとして紀州の妙心寺末法灯派の名刹・興国寺で将軍足利義昭のもとに赴く。その義昭からも使いを頼まれ・・・以後、文使いを次々引き受け、日本各地へ転々と旅することになる。

 その使者の旅の中で、雑賀党の宇ノ兵衛、毛利氏の忍者・佐田の一党、伊賀の葵の一党、塩飽海賊の正蓮坊、村上水軍の権左衛門、上杉の忍者月影、能登畠山家の長連龍、上杉謙信、五箇山の村人、果心居士、松永弾正など多くの人々と知り合い、戦国時代末期を混迷を渡り歩き、その眼を通して描いた一つの大河ドラマである。

 この小説が変わっているところは、本来織田方豊臣方で働いている曾呂利党の忍者でありながら、安国寺恵瓊に与えられてからずっと敵方で働くことになるからだ。時々曾呂利党の惣八などとも会うが、味方と戦っても良いとさえ言われ、実際戦ったりする。敵方の間を、風のまにまに吹かれるかのように、また水のまにまに流れて暮らすかのように、文使いとして旅して生きる忍びの生き方からタイトルの「風盗」という名がついたのかもしれない。

 最後にこの小説では、この作家が七尾市の作家のせいもあって、上杉謙信の能登攻略のことの話がかなり出てくる。七尾に来て、謙信に会ったり、能登方の武将、長綱連とあい、長連龍の織田方への使者にも途中同行したりする。能登畠山家マニアでなければ知らないような誉田弾正まで文使いの取次ぎとして出てくるから恐れ入った。
 
 とにかく娯楽時代小説としてはなかなかの傑作だと思う。皆さんも良かったらご一読お薦めします。

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