このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成17年10月31日)

『損料屋喜八郎始末控え』
(山本一力著:文藝春秋)

  山本一力氏の著書はこれが初めてだ。彼は、平成9年(1997)に『蒼龍』で第77回オール読物新人賞を受賞。そしてこの作品は彼の初の単行本であり、初の長編小説作品でもあるらしい。これが私が読む彼の最初の作品というのも、順番的にも良かったかもしれない。
 話の内容は、だいたい下記の通り。


 時代は、田沼親子失脚後。知行地を持たない蔵米取りの直参、旗本・御家人に対して、蔵米の受け取りや売却を代行して手数料を得ることを業とした札差という商人たちがいた。彼らは、取次業の他にその蔵米を担保にして金融業を行い、この頃には、巨利を貪り横暴を極めていた。
 そんな札差の一人・米屋政八が、自分の店を同じ札差の伊勢屋に乗っ取られそうになった際、損料屋に過ぎぬ喜八郎の横槍ともいえる介入により助けられる。彼は、亡き先代の政八から、息子(現・政八)の後見人を頼まれていたという。

 この喜八郎だが、実は下記の様な経歴があった。浪人の一人息子として生れた喜八郎は、両親がなくなった後、北町奉行の米方に出仕していた秋山久蔵により、一代限りの同心に採用してもらっていた。しかしその後上司の不始末の責めを負って同心を辞し、武士を捨て、先代の米屋政八の援助なども受け損料屋となっていたのだった(損料屋とは、庶民相手に鍋釜や小銭を貸す商売)。つまり先代の米屋政八とは喜八郎は色々付き合いがあり、なおかつ多大な恩を受けていたのであった。

 米方一筋の秋山は、そののち北町奉行の(米方を扱う)上席与力に出世する。そして喜八郎は、元上役の秋山や、深川のいなせな仲間たちとともに力をあわせ、横暴を極める伊勢屋は笠倉屋といった札差たちと、知恵と度胸で丁々発止と渡りあうのであった。 
 
 本格的な時代小説家という感じがした。その後の作品も、今後どしどし読んでいきたいと考えている。


『赤絵の桜 損料屋喜八郎始末控え』
(山本一力著:文藝春秋)

  全部で5つの話が入っており、この本全体としてのつながりとしては、最初の話「寒ざらし」に出てくる押上村の窯風呂『ほぐし窯』の話が、時々からんでくる程度で、特に5つの話に強いつながりというものは無い。ただ第2話の本書のタイトルにもなっている「赤絵の桜」で、第1話の『ほぐし窯』を働く連中が、悪事を働いていることがはっきりとわかり、それに対処する話となっている。

 他の3作品は「枯れ茶のつる」、 「逃げ水」「初雪だるま」
 「逃げ水」では、前回単行本の時からの重要なキャラクターであり、この続編でも何度も出てくる札差の伊勢屋と主人公の喜八郎の二人が、騙りに遭い大量の物品を盗られてしまうが、相手が意外な人物で、最後には被害も解消される。「初雪だるま」では、今度は喜八郎及び彼と相思の間柄にある江戸屋の秀弥が騙される話。ドッキリカメラ的な話だが、でも粋な騙しで、騙しも最初からハッピーエンドを狙ったもの。もっと明かせば二人はこれを機会にぐっと接近!

  自分としては、前作の方が(著者のデビュー作とのこともあったのか)、もっと何かワクワクさせるものがあって面白い気がして読んだが、今回の作品は、これはこれでまた楽しめるのではないかと思う。
 まあ興味が湧いたら皆さんも読んでみてね。

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